表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/37

初依頼と子供たち

少し長くなった気がする、、まあ長くなる分にはいいよね!!

第十七話二人の初依頼のお話です!!

結局、あのあと姉さんも訓練に混ざった。




砂をぶつけられて怒り、足を払われて怒り、囮の火球にまんまと引っかかってまた怒り。


それでも最後には「次は勝つ!」と息巻いていたあたり、なんというか、姉さんらしい。




「ほんっと腹立つのよ、あの戦い方!」




王都の通りを歩きながら、姉さんはまだぶつぶつ文句を言っていた。




「正面から来なさいよ、正面から! なんでわざわざ視界潰したり、足元狙ったりしてくるのよ!」


「実戦想定でやるっつっただろ」




隣を歩くレオンさんが、うんざりしたように返す。




「賊やら野盗やらが、わざわざ正面から来てくれると思うな」


「分かってるけど、ムカつくものはムカつくの!」


「褒め言葉だな」


「褒めてないわよ!」




姉さんが噛みつくように言い返す。




でも文句を言っているわりに、その足取りは軽かった。




レオンさんとの訓練が悔しかったのは本当だろう。


でも、それ以上に――今日は初めての依頼を受ける日だ。




姉さんはたぶん、そっちが楽しみで仕方ないんだと思う。




「はぁ……」




思わず小さくため息が漏れた。




姉さんは本当に分かりやすい。




「なによ、そのため息」


「別に」


「いま絶対、面倒だなって思ったでしょ」


「思ってないよ」


「間があった!」




ぎゃあぎゃあと騒ぐ姉さんを見て、前を歩いていたレオンさんがちらりとこっちを振り返る。




「お前も大変そうだな」


「……ほんとに」




僕が素直にそう返すと、レオンさんが少しだけ鼻で笑った。




「なによそれ! あたしだけ大変な人みたいじゃない!」


「違うの?」


「違わないこともないけど、違うのよ!」




どっちなんだろう。




そんなやり取りをしているうちに、冒険者ギルドの建物が見えてきた。




朝のギルドは、昨日ほどの騒がしさこそないものの、すでに何人もの冒険者たちが出入りしている。


依頼票を見上げる者、受付で話し込んでいる者、仲間と装備を確かめ合っている者。




その光景を見た途端、姉さんの目がぱっと輝いた。




「ついに初依頼ね!」


「ドラゴンでもなんでもかかってこいだわ!」




自信満々に言い切る姉さんに、僕は苦笑するしかなかった。




ギルドの前まで来たところで、レオンさんがふっと足を止める。




「俺は別で依頼受ける」


「あ、はい」


「てめぇらはてめぇらで、ちゃんとこなしてこい」




ぶっきらぼうにそれだけ言って、レオンさんはそのまま別の入口の方へ歩いていく。




最後まで振り返りもしない。




でも、その背中を見送りながら、僕は小さく頭を下げた。




「ありがとうございました」


「聞こえてるなら、もう少し愛想よく返しなさいよねぇ」




姉さんがぼそっと言う。




たしかに、もうちょっと何か言ってくれてもよさそうなものだけど。




でも、レオンさんはたぶん、あれで十分なんだろう。




「さ、行きましょアトラ!」




姉さんが僕の手首を掴んで、そのままぐいぐい引っ張っていく。




「ちょ、姉さん、引っ張らないで」


「だって早く見たいんだもの! どんな依頼があるのか!」




その勢いのままギルドへ入ると、数人の冒険者たちがちらりとこちらを見た。




昨日の模擬戦の影響だろうか。


視線には好奇心と、驚きのような色が混ざっている。




でも姉さんはそんなこと気にした様子もなく、まっすぐ依頼掲示板へ向かっていった。




「うわぁ……」




大きな掲示板いっぱいに並ぶ依頼票を見上げて、姉さんが感嘆の声を漏らす。




「ほんとにいっぱいあるのね」


「そうだね……」




僕もその横に立って、依頼票へ目を走らせる。




素材採取、護衛、調査、討伐。


ランクごとに並べられた依頼の中には、見慣れない地名や魔獣名も多かった。




けれどその中で、姉さんはすぐにひとつの依頼票を見つけて声を上げる。




「これ! これなんていいんじゃない!?」




 勢いよく指差した先には、




 《風渡りの森周辺に出没する討伐黒爪豹(グリムジャガー)討伐》




と書かれていた。




「グリムジャガー……」




名前からして、あまり大人しそうな相手ではない。




依頼票に目を近づける。






風渡りの森中層にて、単独行動中のグリムジャガー一体を確認。


最近、森へ入った冒険者が襲撃を受けたため、被害拡大前の討伐を求む――そんな内容だった。




「これ、Bランク指定ね」


「うん。でも内容は討伐だけだし、初依頼としては悪くないかも」




姉さんがにっと笑う。




「でしょ? しかも“ジャガー”って絶対強そう!」


「そこ?」


「そこも大事!」




言い切る姉さんに、僕は依頼票をもう一度見た。




グリムジャガー。


風魔法と影魔法を使う、俊敏な豹型魔獣――と小さく注記されている。




厄介そうではある。


でも、僕たち二人なら対処できない相手じゃない。




「……うん。これにしようか」


「決まりね!」




姉さんの声が、ぱっと明るく弾んだ。




決まった依頼票を手に、僕たちは受付へ向かった。




カウンターの向こうで、メレナさんがこちらに気づいて柔らかく微笑む。




「お二人とも、依頼はお決まりですか?」


「はい。これを受けたいです」




僕が依頼票を差し出すと、メレナさんは内容を確認して小さく頷いた。




「グリムジャガー討伐ですね」


「はい!」




姉さんが元気よく返事をする。




メレナさんはその依頼票を見ながら、さらりと続けた。




「グリムジャガーは風魔法と影魔法を使う俊敏な魔獣です。姿を見失うと厄介なので、お気をつけください」


「うっ……またそういうタイプなのね」


「姉さん」


「だって嫌なのよ、ああいうの!」




姉さんが露骨に顔をしかめると、メレナさんが少しだけ苦笑する。




「でも、お二人なら問題ないと思います」


「もちろんです」


「任せてください!」




僕と姉さんの返事に、メレナさんは安心したように微笑んだ。




「それでは受注完了です。お気をつけて」


「はい」


「行ってきます!」




依頼票を受け取って受付を離れると、姉さんがその場でぐっと拳を握る。




「ソッコーで終わらせてやるわ!」


「油断しないよーにね。」




その様子に思わず苦笑する。







王都を出てしばらく歩くと、街道の両脇に広がる緑が次第に濃くなっていった。




風渡りの森は、その名の通り風の通りがいい森らしい。


入口に立っただけでも、木々の間を抜ける空気の流れがよく分かる。




「ほんとに風の音がずっとしてるわね」


「うん。だからこそ、気配も紛れやすそう」




森の奥を見つめながら、僕は小さく息を吐いた。




外縁部はまだ明るい。


でも、奥へ進むほど木々の密度は増していき、差し込む光も細くなっていく。




中層に入る頃には、影はだいぶ濃くなっていた。




木の根が複雑に地面を走り、茂みも増える。


風は絶えず吹いているのに、不思議と森の中はしんとした緊張感をまとっていた。




「この辺りから中層、だったわよね」


「たぶん。依頼票の場所とも合ってる」




姉さんが氷の細剣を作る前のように、軽く手を握っては開く。


気合いが入っているのが分かる。




「姉さん」


「分かってるわ。今度は見失わない」




即答だった。




さっきまでレオンさんの戦い方に文句を言っていたけれど、ちゃんと頭には入っているらしい。




僕は小さく頷いて、周囲へ意識を広げる。




風の流れ。


木々の揺れ。


影の濃さ。


その全部に紛れる違和感を探る。




「……いる」




僕が呟くと、姉さんの表情が引き締まる。




「どこ?」


「少し遠い。右前方……いや、上かも」




木の上。


そう思った瞬間、ざわりと枝葉が揺れた。




「来る!」




言葉と同時に、黒い影が木々の間を裂いた。




「っ!」




姉さんが一歩前へ出る。




飛び出してきたのは、




黒に近い濃紺の体毛。


しなやかに引き締まった身体。


風をまとったように軽い跳躍。




その輪郭は木陰に紛れるたび曖昧に揺れて、まるで最初からそこに影だけが走っていたみたいに見える。




「グリムジャガー……!」




姉さんが鋭く息を呑む。




グリムジャガーは低く唸りながら地を蹴った。


次の瞬間には、風をまとった突進が一直線に迫ってくる。




「速っ!」




姉さんがとっさに身をひねる。


でも、その爪はすでに氷の細剣が届く間合いまで入り込んでいた。




ギィンッ!!




硬い音が森に響く。




氷刃と爪がぶつかり、姉さんの身体が半歩だけ押し込まれる。




「このっ……!」




そのまま反撃しようとした姉さんの視界から、グリムジャガーの姿がふっと消えた。




「姉さん、左!」




僕が叫ぶ。




姉さんが咄嗟にそちらへ飛ぶのとほぼ同時に、木陰から風刃が飛び出した。




バシュッ!




地面が浅く抉れ、草が散る。




「うわ、ほんっと嫌なタイプ!」




姉さんが舌打ちする。




でも、その声には怖じ気はない。


 


グリムジャガーは風で足を速め、影に紛れて位置をずらす。


しかもただ速いだけじゃない。




正面から飛び込むと見せて、気づけば横へ。


横に回ると見せて、今度は木の上。




相手の視線を散らして、嫌な角度から本命を通してくる。




「……レオンさんみたい」




思わずそんな感想が漏れた。




「嫌なこと思い出させないで!」




姉さんが叫ぶ。




砂を使うか、風と影を使うかの違いはある。


けれど、やっていることは同じだ。




視界を惑わせ、意識をずらし、嫌なところへ通してくる。




だったら――こっちも同じだ。




「姉さん、少しだけ下がって!」


「任せた!」




短いやり取りだけで十分だった。




僕は足元に薄く風を流し、森の中の空気の動きを探る。




木々を抜ける風。


葉の揺れ。


その中に混ざる、不自然な乱れ。




「……そこだ」




掌を振る。




薄い風が斜め上へ走り、木陰の輪郭をわずかに崩した。




黒い影が、ほんの一瞬だけ姿を現す。




「今!」




「うん!」




姉さんが一気に踏み込んだ。




氷の細剣が、木漏れ日の中で鋭く煌めく。




けれど、グリムジャガーも風をまとった後ろ脚が地面を蹴り、身体をひねるようにしてその一撃を外へ流す。




氷刃は毛先を浅く裂いただけで、本体までは届かない。




「ちっ!」




姉さんの舌打ちとほぼ同時に、グリムジャガーの影がまた揺れた。




「姉さん、下!」




僕が叫ぶ。




姉さんがとっさに飛び退くと、さっきまでいた場所を黒い影が駆け抜けた。




爪が地面を裂き、土と草が舞い上がる。




「っ、もう……!」




苛立ちを押し殺すような声が漏れる。




グリムジャガーは風をまとって木を蹴り、今度は頭上から飛びかかってきた。




「上!」




姉さんが氷の細剣を振り上げ、真っ向からその爪を受ける。




ギィンッ! と甲高い音が響いた。




重い。




「このっ……!」




そのまま押し返した瞬間、グリムジャガーの影が横へ流れる。




また位置をずらす気だ。




「逃がさない!」




僕は掌を返し、低く風を走らせた。




森の地面に沿うように流れた風が、落ち葉と砂を巻き上げ、影の輪郭へぶつかる。




視界を奪うほどじゃない。


でも、それで十分だ。




影がぶれた。




ほんの一瞬だけ、本体の位置が露わになる。




「姉さん、右!」




「見えてるわ!」




姉さんが地面を蹴る。




速い。




さっきまで翻弄されていたのが嘘みたいに、今度はまっすぐに間合いを詰めていく。




グリムジャガーも風をまとって距離を取ろうとした。




でも、その前に僕が風を重ねる。




「逃がさない……!」




薄く圧をかけるように吹かせた風が、グリムジャガーの身体をわずかに鈍らせる。




僅かな隙。




でも、姉さんにはそれで十分だった。




「そこぉっ!」




氷の細剣が、横薙ぎに閃く。




グリムジャガーが身をひねる。




直撃は避けたみたいだが、その動きは大きく崩れた。




「アトラ!」




「うん!」




僕はもう走っていた。




崩れた重心。


浮いた前脚。


次に逃げるなら左後方。




分かる。




だから先回りする。




掌に圧縮した風を集め、そのまま突き出す。




「これで――!」




風弾が、ちょうど逃げようとしたグリムジャガーの脇腹に叩き込まれた。




バシュッ! と鈍い音がして、魔獣の身体が大きく吹き飛ぶ。




地面を転がり、木の根元へ叩きつけられる。




「今度こそ!」




姉さんが追いすがる。




氷の細剣を握ったまま、一気に距離を詰め、その喉元へ切っ先を突きつけた。




グリムジャガーが低く唸る。




でも、もう体勢は立て直せない。




一瞬の睨み合い。




それから、姉さんが静かに息を吐いた。




「……終わりよ」




氷刃が閃く。




次の瞬間、グリムジャガーの身体から力が抜けた。




森の中に、静けさが戻る。




風の音だけが、さわさわと木々を揺らしていた。




「……倒した」




思わず、そう呟いていた。




姉さんが氷の細剣を消しながら、大きく息を吐く。




「はぁー……やっと終わった……!」


「お疲れさま」


「ほんっと、やりづらかったんだから……!」




でも、その顔は晴れやかだった。




僕はそんな姉さんを見て、小さく笑う。




「でも、ちゃんと追えてたよ」


「……まあね」




姉さんは少しだけ視線を逸らしてから、ふんと鼻を鳴らした。




「なんで対人戦の訓練がこんなとこで活躍すんのよ!」


「まあまあ、役に立ったならいいじゃない」




僕は倒れたグリムジャガーへ目を向ける。




初依頼の相手としては、かなり厄介だった。


でも――だからこそ、ただ力任せじゃ届かない相手に、どう動けばいいのかが少し分かった気がした。




「まあ、なにはともあれ」




姉さんが肩を回しながら笑う。




「初依頼、成功よ!」


「うん!」




声と、ぱんっと重ねた掌の音が、森の中へ晴れやかに響いた。






「で、これってどこまで持って帰るの?」


「素材の証明になる部分だけでいいはずだよ。依頼票に書いてあったでしょ」


「あー、爪と牙だっけ」


「うん。あと影袋も換金できるって」


「影袋?」


「影魔法を使う魔獣が持つ魔石の一種、らしいよ」


「へぇ……なんかそれっぽい名前ね」




姉さんが興味深そうにグリムジャガーを眺める。




僕は依頼票をもう一度確認してから、必要な素材を手早く回収した。


こういう作業も、少しだけ冒険者っぽい。




「よし。これで依頼達成の証明になると思う」


「じゃあ帰りましょ!」




立ち上がった姉さんは、さっきまで戦っていた相手の前だというのに、もうすっかり切り替わっていた。




「やったわね、アトラ!」


「うん。無事に終わってよかった」


「無事に、ねぇ?」


姉さんがにやっと笑う。


「わりと楽しそうだったじゃない」


「姉さんほどじゃないよ」


「……それ、どういう意味?」




ぶつぶつ言いながらも、姉さんはどこかご機嫌だった。




僕たちは来た道を戻るように、風渡りの森の中層から外縁へ向かって歩き出す。




戦いが終わったせいか、森の空気はさっきより少しだけ穏やかに感じた。


風が葉を揺らす音。


枝のこすれる音。


遠くで鳴く鳥の声。




これが冒険者の仕事なんだ――そんな実感が、ようやく少し湧いてきた気がする。




「でもさ」




前を歩いていた姉さんが、くるっと振り返る。




「もっと楽勝かと思ってたけど、あれくらいの方が燃えるわ!」


「さっきまでムカつくって言ってたのに」


「それとこれとは別よ!」




堂々と言い切られて、僕は思わず苦笑した。




 ――その時だった。




「きゃああああっ!!」




鋭い悲鳴が、森の奥から響いた。




僕と姉さんはほとんど同時に足を止める。




「今の……!」


「子どもの声だ」




一瞬で空気が変わる。




さっきまでの穏やかな帰り道が、一気に張り詰めた。




悲鳴は一度きりじゃなかった。




「やだっ、来ないで――!」




震えるような叫びが、今度は少し近くから聞こえる。




姉さんの表情が鋭く変わった。




「アトラ!」


「うん!」




頷くより早く、僕たちは駆け出していた。




風渡りの森の木々を縫うように、声のした方へ走る。




外縁へ戻る途中の、少し開けた道の先。


揺れる茂みの向こうに、小さな影が見えた。




子どもが二人。




その前に立っていたのは――




「っ……!」




見覚えのある、黒い影。




低く唸る豹型の魔獣が、子どもたちを追い詰めるように身を沈めていた。




「まだいたの!?」




姉さんが叫ぶ。




僕も息を呑んだ。




依頼票には、単独で行動する個体を一体確認とあった。


なのに――




でも、そんなことを考えている余裕はない。




子どもたちのすぐ目の前で、グリムジャガーが爪を立てる。




「姉さん、右から!」


「分かってる!」




次の瞬間、僕たちは同時に地面を蹴った

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ