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新しい日課

毎日更新してる人すごすぎないか、、、なんか新作の構想も浮かんだりして集中できないよおお!!!

それでは十六話どうぞ!


砂が、視界いっぱいに弾けた。




「っ!」




反射的に顔を背けながら、僕は足を止めずに横へ飛ぶ。




次の瞬間、さっきまで僕がいた場所を、赤く燃える火球が掠めていった。




どごんっ、と鈍い音を立てて地面がえぐれる。




「ちっ、反応だけはいいな」




砂煙の向こうから、レオンの舌打ち混じりの声が飛ぶ。




次の瞬間にはもう、別の角度から刃が飛んできた。




僕は咄嗟に身体を沈めてそれをやり過ごし、そのまま掌を振るった。




風が巻き起こり、視界を塞いでいた砂を吹き払う。




けれど、晴れた先に姿はない。




「また……っ!」




背後。




気づいて振り向くより先に、足元へ衝撃が走る。




地面を蹴り上げるように放たれた石礫が、膝を狙って弾けたのだ。




まともに食らう前に飛び退いたけれど、体勢は崩れる。




そこを狙って、一気に距離を詰めてくる。




「甘ぇ」




低い声とともに、横薙ぎの蹴り。




僕はとっさに腕を差し込んで受けるけれど、重い。


そのまま数歩ぶん滑らされて、ようやく勢いを殺す。




「卑怯とか思うなよ」




鼻を鳴らし、次の魔法を構える。




「賊共は、なんでもありの戦い方してくる」


「依頼を受けるにあたって稽古つけてくださいって言ったのはお前だからな」




言いながら、今度はわざとらしく大きく腕を振り上げる。




火属性魔法か――




でも、飛んでこない。




(フェイント!)




気づいた時には、逆側から風の弾丸が飛んでいた。




身体を捻って直撃は避けたものの、肩口を掠める。




「……っ」




「いい判断だが、まだ素直すぎるな」




不機嫌そうに言う。


でも、その目は少しだけ鋭く細められていた。




まともに魔法を撃ち合うだけなら、この人の魔法は避けやすい。




威力は高いけど、発動に癖があり、読みやすい。




でも、実際にやり合うと全然違う。




砂を蹴り上げる。


視界を潰す。


足元を狙う。


わざと大きな動きで意識を逸らして、嫌なところへ本命を通してくる。




やってること自体は派手じゃない。


でも、ひどくやりづらい。




正面から堂々と叩き潰す強さじゃない。


相手の嫌がることを、迷いなく積み重ねてくる強さだ。




たぶん、対人戦ってこういうことなんだろう。




「ほら、来い」




顎をしゃくられる。




「止まって考えるな。考えるなら動きながらにしろ」


「……はい!」




短く返し、地面を蹴る。




次に砂が来るなら、先に風を薄く張っておく。


火球の大振りは囮かもしれない。


なら、発動の向きじゃなくて重心を見る。




右足に体重が乗ってる。


だったら本命は左から。




そう読んで、半歩だけ前へ出た。




「……ほう」




目がわずかに細まる。




飛んできたのは、やっぱり左からの風刃だった。




僕はそれを最小限の動きで避け、そのまま一気に間合いを詰める。




舌打ちが返ってくる。




その足元へ、今度は僕が風を走らせた。




強い魔法じゃない。


ただ、砂を巻き上げるだけの小さな風。




「ちっ」




ほんの一瞬、視界が揺らぐ。




その隙に、僕は横へ回り込んで掌を突き出した。




「そこ、です!」




圧縮した風弾が、脇腹すれすれを抜ける。




直撃はしなかった。


でも、完全には避けきれていない。




後ろへ飛び退いて距離を取る。




「……真似してきやがったか」




「使えるものは使えって、言ったのはそっちですよね」


「生意気言える余裕が出てきたな」




口調はいつも通りぶっきらぼうだったけど、少しだけ楽しんでいるようにも見えた。




そこから先は、さらに何度も打ち合った。




砂を撒かれ、風刃が飛び、火球が地面を抉る。


何度も視界を潰され、そのたびに風で払って、でも払うこと自体が隙になると学んで、今度は感覚で位置を取る。




何度か転ばされて、何度も一本取られて。




それでも続けるうちに、少しずつ見えてくるものがあった。




この人は、魔法そのものより、相手の意識のズラし方がうまい。


どこを見せて、どこを隠すか。


どこで苛立たせて、どこで焦らせるか。




それが分かるようになってくると、ようやく――




「……っ!」




また砂を蹴り上げる。




でも、もう同じ手には引っかからない。




僕は先に風を低く流して砂を逸らし、そのまま真正面へ踏み込んだ。




目がわずかに開く。




大振りの火球。


でもそれは囮。




分かっている。




だから避けずに、火球の内側へ飛び込む。




「な――」




本命を放つより先に、僕はその懐へ掌を突きつけていた。




「僕の勝ち、です」




風の塊が、胸元すれすれで止まる。




それから、大きく息を吐いた。




「……ちっ」




悔しそうというより、呆れたような舌打ちだった。




「もう慣れやがったか」


「かなり嫌でしたけどね……」


「嫌だから意味があるんだよ」




そう言って、その場にどかっと腰を下ろす。




僕もようやく緊張を解いて、その場に座り込んだ。




思った以上に汗をかいていた。


模擬戦とはまた違う疲れ方だ。




派手な打ち合いじゃない分、ずっと神経を削られる。




「……でも」




息を整えながら呟く。




「すごく勉強になります」


「当たり前だ。実戦で死にたくねぇならな」




相変わらず、言い方は優しくない。




でも、こうして付き合ってくれている時点で、十分ありがたいのだと思う。




しばらく無言のまま、荒くなった呼吸を整える。




「姉の方は来ねぇのか」




 不意にそう聞かれて、僕は顔を上げた。




「姉さんは、まだ宿で寝てます」


「……まあ、こんな時間だしな」




小さく頷いてから、鼻を鳴らす。




「こんな朝っぱらから、対人戦の稽古つけろなんで言ってくる変人お前くらいなもんだ。」


「今のうちに慣れておきたくて」




そう答えると、呆れたように肩をすくめた。




「真面目が過ぎんだろ」


「そうでしょうか」


「そうだ」




ぶっきらぼうに言い切られて、少しだけ苦笑する。




風が吹いて、さっき巻き上がった砂がゆっくりと地面へ戻っていく。




前を向いたまま、ぶっきらぼうに言う。




「……そういや、お前」


「はい?」


「古代魔法は使わねぇのか」




思わず、目を瞬いた。




「古代魔法……ですか?」




眉をひそめる。




「なんだ。知らねぇのか?」


「僕は……使える魔法をそのまま使ってるだけで」


「それが古代魔法なのかどうかは、分かっていません」




沈黙。




「……は?」




露骨に嫌そうな顔をした。




「ほんと、規格外すぎんだろ……お前」




なんだか怒られているみたいで、少しだけ肩をすくめる。




「レオンさんは、古代魔法を知ってるんですか?」




「詳しいわけじゃねぇ」




そう言ってから、膝に肘を乗せた。




「だが、自分の目で見たことがあるのは二つだ」


「ひとつは、迷宮決壊の時に見た魔法師団の大規模古代魔法」


「もうひとつは、依頼で見つけた文献に載ってた魔法だ」




「文献……?」




思わず、その言葉を繰り返していた。




レオンさんがちらりとこちらを見る。




「なんだ」


「その文献、まだあるんですか?」




自分でも分かるくらい、声が少しだけ前のめりになっていた。




もし、古代魔法について書かれた文献なら。


もしそこに、僕の知らない何かが載っているなら。




それは――魔女の痕跡に近づく手がかりになるかもしれない。




「どこで見つけたんですか?」


「どういう魔法が載ってたんですか?」


「内容は読めたんですか?」


「今も手元に――」




「……おい」




低い声に、はっとして口を閉じる。




気づけば、少し身を乗り出しすぎていた。




レオンさんが露骨に眉をひそめる。




「食いつきすぎだろ」


「あ……す、すみません」




慌てて身体を引いた。




「ちょっと、気になってしまって」


「ちょっとどころじゃねぇだろ、今のは」




呆れたように言いながらも、レオンさんは完全に不快そうというわけではなかった。




「……まあ、残ってはいる」




「!」




思わず顔を上げる。




「本当ですか」


「そんな目ぇ輝かせるな。うぜぇ」


「依頼先で拾ったもんだから、詳しいことは俺にも分からねぇ。魔法名と、簡単な説明が書いてあった程度だ」


「でも、古代魔法の文献なんですよね?」


「たぶんな。少なくとも、普通の魔法書じゃねぇ」




その一言だけでも、胸が高鳴る。




魔女が使っていた魔法。


僕が見て、覚えて、真似してきた魔法。


それが一体どういうものなのか、少しでも知ることができるかもしれない。




「見たいです」




気づけば、ほとんど即答していた。




「すごく」


「……お前な」




レオンさんが額を押さえる。




「だから近ぇんだよ」


「あ」




また少し前に出てしまっていたらしい。




慌てて一歩下がる。




「すみません」


「でも、ほんとに気になって……」


「分かった分かった」




面倒くさそうに手を振って、レオンさんがため息を吐く。




「今度持ってきてやるよ」


「……っ、ありがとうございます」




今度はちゃんと、一歩引いたまま頭を下げた。




レオンさんはそんな僕を見て、少しだけ変なものを見るような顔をしたあと、鼻を鳴らした。




「別に礼を言われるほどのことじゃねぇ」


「それでも、嬉しいです」


「……変なやつだな、お前」




そう言われても、否定はできなかった。




実際、今の僕はちょっと変なくらい浮かれていると思う。




その時だった。




「――ちょっとアトラ!」




聞き慣れた声が飛んできて、僕は反射的に振り返る。




修練場の入口のところに、腕を組んだ姉さんが立っていた。




髪は少しだけ跳ねていて、いかにも起きてそのまま来ました、みたいな格好だ。


でも、その目だけはしっかりこっちを睨んでいる。




「姉さん!」


「姉さん!、じゃないわよ!」




ずかずかとこっちへ歩いてくる。




「なんで誘ってくれないのよ!」


「え?」


「え? じゃない!」




目の前まで来た姉さんが、びしっと僕を指差した。




「対人戦の訓練してるなら、あたしもやるに決まってるでしょ!?」


「いや、その……まだ寝てたから」


「起こしなさいよ!」


「気持ちよさそうだったし……」


「そこは起こしていいのよ!」




かなり理不尽な気もするけれど、たしかに姉さんは本気で不満そうだった。




レオンさんが横で鼻を鳴らす。




「寝てたんだろ、お前」


「そ、それはそうだけど!」




姉さんがぐっと言葉に詰まる。




「でも、こういうのは別なの!」


「別なんだ……」


「別なのよ!」




力強く言い切ったあと、姉さんはじろりと僕を睨んだ。




「ひとりだけ先に強くなろうとしてたら許さないんだから」


「そんなつもりじゃないよ」


「じゃあ次からはちゃんと呼ぶこと。いい?」


「……はい」




素直に頷くと、姉さんはようやく少しだけ機嫌を直したらしい。




ふん、と鼻を鳴らしてから、今度はレオンさんの方を見る。




「で、次はあたしでいいのよね?」


「勝手に決めんな」




即答だった。




「えー!?」


「朝っぱらからうるせぇな……」




レオンさんが露骨に嫌そうな顔をする。




でも、そのやり取りがなんだか少しだけおかしくて、僕は小さく笑ってしまった。




どうやら、今日も忙しくなりそうだ。

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