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拳聖と友達?

もっと模擬戦長くするか迷ったけど…14話です!!

修練場を揺らすような歓声は、いつまでも止まなかった。




「拳聖と引き分けかよ!?」


「いや、意味わかんねぇだろ!」


「でもリィナだって本気じゃなかったんじゃねぇか?」


「ばっか、それでも俺らじゃ歯も立たねぇだろうが!」


「魔法、めちゃくちゃ綺麗だったわぁ……」


「何もんなんだ、あの姉弟……」




興奮混じりの声があちこちから飛び交う。


さっきまでただの見物だったはずの冒険者たちが、今はもう遠慮もなく騒いでいた。




拳聖リィナと引き分け。




もちろん、本当に互角だったなんて思っていない。結界が限界を迎えなければ、あのままどうなっていたかは分からない。




それでも、楽しかったな。


そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなる。




「いやー、ほんっと楽しかったッス!」




そんな歓声の中心で、リィナは満面の笑みを浮かべていた。




「本当にね!今度は本気でやりましょ!」




「是非っス!あたしがいつも修行に使ってる場所ならなんか壊れても大丈夫なんで!」




きゃっきゃとはしゃぐ二人を見て、僕は思わず小さく笑ってしまう。




すると、リィナがくるりとこちらを向いた。




「それにアトラくんも、めちゃくちゃすごかったッス!」




「え?」




「卓越したマナ制御に、あの操作技術。しかも複数属性を連携の中で自然に組み込んでたッスよね? 普通、あんなふうにホイホイっと魔法を使うなんてそう簡単にできるもんじゃないッスよ。どこで習ったんスか?」




まっすぐな目でそう言われて、僕は少しだけ言葉に詰まった。




「……独学、です」




「独学!?」




リィナが目を丸くする。




「まじっスか!?」


「大マジよ」




横から姉さんが胸を張った。




「あたしもアトラに教えてもらったの。だから、あたしたちの連携が上手くいくのは当然ってわけ」


「いやいやいや、当然じゃないッスよ!? 姉弟そろって色々おかしいッス!」




そう言ってから、リィナは心底楽しそうに笑った。




「でも納得ッス。お互い、次に何するかもう分かってる感じだったし、しかも、その場の流れでもちゃんと噛み合ってたッス!」




「……リィナさんにそう言ってもらえると、嬉しいです」




「お二人ともまだまだ余裕ありそうでしたし、奥の手見たかったス〜!」




リィナがちょこっと悔しそうに嘆く。




その言葉に、僕と姉さんは一瞬だけ顔を見合わせた。




姉さんが肩をすくめる。




「そっちこそ、でしょ?」


「そうですね。リィナさんも、まだ全然余裕そうでした。七聖英雄がどれだけすごいのか、よく分かりました」




そう言うと、リィナはふんす、と胸を張った。




「えっへん。もっと褒めてもいいッスよ!」




その態度があまりにも堂々としていて、姉さんが吹き出す。




「なによそれ」


「事実ッスからね!」




得意げに言い切ったあと、リィナはふと真面目な顔になった。




「でも、ひとつだけお願いがあるッス」




「お願い、ですか?」




「“さん”付け、やめてほしいッス」




「……え?」




思わず間の抜けた声が出る。




リィナはむっと頬を膨らませた。




「だって、一緒に戦った仲じゃないッスか。“リィナさん”って、なんか距離ある感じがするッス」


「なるほどね!」




姉さんが即答した。




「わかったわ、リィナ!」


「順応が早いッスね!? 好きッス!」




あっという間に意気投合する二人を前に、僕は少したじろぐ。




「えっと……でも、さすがに七聖英雄を呼び捨てっていうのは……」


「ダメっス!!」




リィナがびしっと僕を指差した。




「そういう堅いとこッスよ、アトラくん!」


「いや、でも……」


「リィナ」


「……え?」


「呼んでみるッス」




いたずらっぽく笑うその顔に押されて、僕は少しだけ視線を逸らした。




でも、姉さんまでにやにやしながら見てくるから、もう逃げ場がない。




「……わかったよ。リィナ」




次の瞬間、リィナの顔がぱっと明るくなった。




「はい、よくできましたッス!」


「な、なんですかそれ……」


「いやぁ、満足ッス。これで一気に仲良くなった気がするッス!」




そのまま笑い合っていると、




「フン」




低くぶっきらぼうな声が横から落ちてきた。




振り向くと、腕を組んだままこちらを見下ろす男がいた。


修練場の端でずっと見ていた、あの流浪人だ。




「新人の割には、やるじゃねぇか」




姉さんがじろりと睨む。




「なによ、その言い方」


「別に。事実を言っただけだ」




男は気にした様子もなく、僕たちへ視線を向ける。




「魔物相手ばっかやってると、対人の間合いに戸惑う。たまになら相手になってやる。」


「……え?」




思わず聞き返すと、男は面倒くさそうに鼻を鳴らした。




「その代わり――」




鋭い目が、僕と姉さんを順番に射抜く。




「少しやれるからって調子に乗るなよ。才能があろうが、死ぬやつはあっさり死ぬ。拳聖とやれたからっておもいあがるなよ。」




それだけ言うと、男はくるりと背を向けた。




「じゃあな」




あまりにもぶっきらぼうに去っていく背中を見送りながら、姉さんがむっと眉を寄せる。




「なによあいつ! 感じ悪っ!」




「あいつはああいう男なんだ」




今度は別の低い声がして、キースさんがこちらへ歩いてきた。




「レオンって言ってな。言い方はきついが、あれでもあいつなりの新人教育だ」


「新人教育?」




僕が聞き返すと、キースさんは肩をすくめた。




「才能があると分かった途端、自分は大丈夫だと油断するやつがいる。そういうやつほど、早死にする」


「……」




「あいつは、そういうのを何度も見てきたんだろうよ。」




キースさんの目が、去っていった男の背中をちらりと追う。




「まあ、最近は少し伸び悩んでるみてぇだからな。ちょうどいいサンドバッグにでもしてやれ」


「サ、サンドバッグ……?」




思わず引き気味に言うと、




「それはさすがに言い過ぎですよ」




呆れた声とともに、メレナさんが割って入ってきた。




模擬戦の余韻で、その頬はほんの少し紅潮していた。




「でも、本当にものすごい戦いでした。私は目で追うことすら難しかったですけれど……」




そこで一度言葉を区切って、僕たちをまっすぐ見つめる。




「拳聖リィナさんと引き分け。それがどれだけすごいことかは、よく分かります」




まっすぐにそう言われて、なんだか気恥ずかしくなってしまう。




「ありがとうございます」


「いやぁ、でも本当びっくりしたわよね!」


「ほんとッスほんとッス!」




姉さんとリィナが横でうんうん頷いている。




メレナさんはそんな二人にくすりと笑ってから、少しだけ背筋を正した。




「それで、お二人の冒険者登録の続きなのですが」


「あっ」




そうだった。




模擬戦の流れで、すっかり忘れかけていたけれど、そもそも今日はそのために来ていたんだった。




「よろしければ、改めて手続きを進めさせてください」


「もちろんです」


「やっと本題ね!」




姉さんが元気よく答えると、メレナさんは微笑んだ。




「では、こちらへどうぞ」






まだ興奮冷めやらぬ空気の中、冒険者たちのざわめきは続いていた。


さっきまでの僕たちとは、もう少しだけ違う目で見られている気がする。




その視線を背中に受けながら、僕たちは修練場をあとにした。




_______________________




ギルドマスター室に通された僕たちは、揃って向かいのソファに腰を下ろしていた。




隣では姉さんが、きょろきょろと室内を見回している。




「へぇー、ギルドマスターの部屋ってもっと堅苦しい感じかと思ってたけど、案外ふつうなのね」


「お前の基準がよく分からんが、別に見せるための部屋じゃねぇからな」




キースさんがぶっきらぼうに返す。




その横では、メレナさんが書類を整えながら小さく微笑んでいた。




「でも、こうしてギルドマスター室に直接通される新人さんは、そう多くありませんよ」


「やっぱりそうなんですね……」




僕がそう返すと、キースさんが軽く足を組み直した。




「本題に入るぞ」


「お前らの冒険者ランクについてだが――」




その言葉に、姉さんがぴくっと反応する。




「ランクって、普通はFからなんでしょ?」


「普通ならな」




キースさんはあっさりと頷いた。




「だが、お前らをFスタートにするのは、さすがに無理がある」




「おっ」




姉さんの目が輝く。




僕も思わず背筋を伸ばした。




「正直に言やぁ、今すぐAランクにしてやりてぇくらいだ」




「えっ」


「ほんと!?」




僕と姉さんの声が重なった。




姉さんなんて、今にも立ち上がりそうなくらい身を乗り出している。




「ちょ、ちょっと待って、それってすごくない!? いきなりAランク!?」


「落ち着け。最後まで聞け」




ぴしゃりとそう言われて、姉さんが「むぅ」と不満そうに唇を尖らせる。




キースさんは小さく息を吐いた。




「……Bランクからだ」




「ええっ!?」




今度こそ姉さんが声を上げた。




「そこまで言っといて!?」


「姉さん」




思わずたしなめるように声をかけると、姉さんは不満そうにこちらを見る。




「だって気になるじゃない! Aにしてやりたいくらいって言ったのに、なんでBなのよ!」




キースさんが窘めるように説明する。




「理由は単純だ。Aランク以上になると、受ける依頼の質が変わる」


「依頼の質……?」




僕が聞き返すと、キースさんは頷く。




「魔物退治やダンジョンだけやってりゃいいわけじゃなくなるってことだ。盗賊討伐や危険組織の制圧…そういう依頼が普通に入ってくる」




「それって……人が相手ってこと?」




姉さんがさっきまでの勢いを少しだけ弱めて呟く。




「そうだ」




「Aランクってのは、ただ強ぇやつに与える札じゃねぇ。人間相手の依頼にも踏み込める実力と覚悟があるか、そこまで含めて見られる」




そこで一拍置いてから、キースさんは低い声で続けた。




「要するに――人を殺せるかどうかだ」




さっきまで勢いよく身を乗り出していた姉さんも、今は黙っている。




僕も、すぐには何も言えなかった。




人を殺せるかどうか。




魔獣を倒すのとは違う。


襲ってくる盗賊だろうと、刃の向こうにいるのは自分たちと同じ人間だ。




その重さを、言葉にされて改めて突きつけられた気がした。




「必要になった時、躊躇って仲間ごと死ぬようじゃ話にならねぇ。だが逆に、なんの迷いもなく人を斬れるやつを、簡単に上に上げるのも危険だ」




「……」




「Aランクから上は、強さだけじゃ足りねぇ。人を相手にする現実と、その重さをきちんと背負えるかどうか。そこを見極めずに上げるわけにはいかねぇんだよ」




キースさんの言葉は、脅すようなものじゃなかった。




「実力だけ見りゃ、お前らは十分おかしい。少なくとも、FだのEだのに放り込んでいい器じゃねぇ」




「おかしいって」




「褒め言葉だ。受け取っとけ」




淡々と言われて、なんだか複雑な気持ちになる。




でも、その横で姉さんは少しだけ考え込んだあと、不意に顔を上げた。




「じゃあ、その試練っていうの? 盗賊討伐とか、そういう依頼をちゃんとこなしたら、Aランクに上がれるの?」




キースさんは、ほんの少し口元を緩めた。




「あぁ。」




それから少しだけ背もたれに身体を預ける。




「とはいえ、Bランクスタートでも十分異例だ。普通なら文句なしに大出世だぞ」


「いや、まあ……それはそうなんですけど」




言いながら、僕は姉さんの方を見る。




さっきまで「Aじゃないの!?」と騒いでいたわりには、今は思ったより落ち着いた顔をしていた。




「姉さん?」


「……うん。まあ、納得はしたわ」




姉さんは腕を組みながら、ふぅと息を吐く。




「あたしたち、魔獣とは戦ってきたけど、人を殺したことはないもの」


「……うん」




珍しく素直なその言葉に、少しだけ驚く。




「賢明だな。」




「勘違いするなよ。Bランクにするってのも十分破格だ。お前らならBの依頼だってこなせると判断したからこその措置だ」


「つまり――」




姉さんがにやっと笑う。




「めちゃくちゃ期待されてるってことよね?」


「まあ、そういうことになるな」




「やっぱりすごいじゃない!」




 さっきまでの空気が少しだけ軽くなる。




 その横で、ずっと静かに聞いていたメレナさんが口を開いた。




「それに、Bランクから始めること自体、本当に前例のないレベルです」


「そうなんですか?」


「はい。ギルドでもかなり話題になると思います」




 




修練場を出る時点ですでにかなり注目されていたのに、さらに話が広まるのかと思うと、なんだか少し恥ずかしい気もする。




そんな僕の気持ちを察したのか、姉さんが横で肩を叩いてきた。




「いいじゃない。どうせ目立つなら、とことん目立ってやりましょ!」


「姉さんはそういうところ、ほんと迷いがないよね……」


「長所って言って」


「はいはい」




僕がそう返すと、姉さんは満足そうに笑った。




キースさんはそんな僕たちを見て、小さく鼻で笑う。




「とにかく、決定だ。お前らは特例でBランクスタート。異論はあるか?」




「「ありません!!!」」




僕と姉さんの声がぴったり重なる。




「よし。それじゃあ…」




キースさんが頷くと、横で控えていたメレナさんが、すっと二枚のカードを差し出してきた。




「では、こちらがお二人の冒険者カードになります」




受け取ったカードを見て、僕は思わず目を瞬かせた。




「……銀色?」




「はい。冒険者カードはランクごとに素材が異なるんです」




メレナさんが丁寧に説明してくれる。




「Fランクから順に材質が変わっていって、Bランクのカードは銀製になります。見た目だけではなく、簡単な偽造防止の術式も刻まれていますので、身分証としても機能しますよ」




「へぇ……」




姉さんは嬉しそうにカードを掲げて光にかざした。




「なお、街の出入りや依頼の受注、身元確認などにも必要になりますので、紛失しないよう気をつけてくださいね」




メレナさんがにこやかに釘を刺す。




「失くした場合、再発行には手間も時間もかかりますので」


「はい、気をつけます」


「大丈夫よ! ちゃんと持っとくわ!」




そう言いながら、姉さんは自信満々に胸を張る。




「それでは、改めまして――ご登録おめでとうございます」




メレナさんが柔らかく微笑む。




僕と姉さんは顔を見合わせ、それから同時に頷いた。




そうして僕たちは、新しい冒険者カードを手に、ギルドをあとにした。

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