第二話 【すべては隠されたまま】
身体が成長しているのなら、俺がすべきことは前進することだけだ。
頭ではそう思っている。だが……
俺は本当に前進したいのか、それとも親父との約束を守りたいだけなのか。
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「我が子よ、もし機会があったら、あなたは何をするかしら?」
機会があったら、だと? もしそんなものがあるなら、もう一度死ぬことだな。
「ジュリ、ねえ、そんな質問をする必要はないだろう……」
「何か問題でもあるの、あなた?」
「いや、だが……」
「私の子はね、こうして質問されるのが好きなのよ。ママに話しかけてほしいの。話さないことに関して言えば、あなたこそ完璧なお手本じゃない、あなた」
ジュリエットという人物の特徴の一つは、そう簡単に誤魔化されないことだ。隠し事をされていると気づいた場合、その理由を理解しようとするのではなく、単にそのやり方を批判してくる。
「分かったよ、ねえ……だが、あの子はどうしてあんな巨大な本を持っているんだい?」
俺は絨毯の上に座り、目の前に本を広げていた。
「コービンによると、うちの子がねだったらしいわよ」
「あの子がねだった? 興味深いな……」
その後の十二ヶ月間、俺はこの世界の言語を学ぶことに費やした。
話し言葉ならすでに理解できていたが、文字を読むとなると、すべての文字を覚える機会はあまりなかった。だが、母が本の文字を指差しながら俺の顔に近づけて見せてくれるようになってから、状況は変わった。
文字を読めるようになる上で、それは重要なことだった。
「もう一歳を過ぎたのね……信じられないわ、あなた」
「赤ん坊の成長は早いものだな……」
「分かっているわよ。でも、この子の母親としては、そんなに急いで大きくならなくてもいいのにと思ってしまうの。子育てなんてたった十七年で終わってしまうと知らされていたら、十二歳の頃の私なら絶対に子供なんて産まなかったわ……でも、こうしてこの子を授かった今、私はとても幸せな母親よ」
俺はわずかに視線を横へ逸らした。
なぜ俺が、彼女の幸せにとって重要なんだ?
そう思わせるようなことなど、何一つしていないのに。
俺は本へと視線を戻した。
『織り機は抽象的な概念かもしれないが、あるいは記述にある通りのものなのかもしれない……仮にそれが重要であるなら、それが多くの人々の考えをどう変えうるかを考えてほしい。ゆえに、私は織り機について知るすべてを書き記すことにした。少なくとも、我が旅路の中で書き留めることのできたすべてを。……の前に』
最初のページ、いや、前の三ページが破り取られていたから正確には四ページ目だが、それはそこで途切れていた。
(何の前だ?)
この本が棚の最も奥に追いやられていた理由が分かった。ただ古いだけでなく、検閲までされていたのだ。にもかかわらず、ある特定の理由から俺に渡すことに決めたらしい。
どうやらコービンは、俺のねだる姿に抗えなかったようだ。「分かりました、坊ちゃま……ですがその前に、奥様の許可をいただいてまいります」扉を出る前、コービンが口にしたのはそれだけだった。
そして、俺が読書を続けようとした矢先、母が屈み込んで俺の顔を真正面から覗き込んできた。
「ねえ、坊や、何をしているの? パパはお出かけしちゃったけれど……すぐに戻ってくるわよ!」
俺はただ、本を指差すだけにとどめた。
「あら、そうなの、読んでいるのかしら、坊や? 難しい言葉ばかりだから、理解できるとは思えないけれど……でもいいわ。ママは少し用事があるの。いい子にしていられるかしら? 何かあったら、リヴィアさんが扉のところで控えてくれているからね」
ジュリエットは俺の額に口づけを落とし、部屋を出て行った。
妙な思考を頭に浮かべながら、俺はしばらく扉を見つめていた。(寂しいのか?)などと考え、首を振って打ち消すと、書かれた文章へと意識を戻した。
目を通せる最初の数ページによれば、本名は明かさず『C・C』と名乗るその著者は、その生涯において数々の著作を残した名の知れた人物であるらしい。
描写はやけにあっさりとしており、旅のすべてを克明に記録していたわけではないようだった。
世界に関する説明のほとんどは味気なく、要領を得ないものばかりだ。
たいして役には立たないが、何もないよりはましだ。
たった一冊の本でこの世界のすべてを知ることができるなどとは思っていなかったが、俺はもっと多くの答えを求めていた。
読書は、俺にとってますます興味深いものになっていった。
前世では、大人になってからは本など読まなくなり、ただ行動するだけだった。
あの頃、読み聞かせてもらっていたような本を自分でも選んで読んでいたら、世界に対する見方も変わっていたのかもしれない。あるいは、ただ前に進むことすらできなくなっていたかもしれない。
俺はため息をついた。
「ねえ、坊や。お水よ。欲しいかしら? 少し飲みたいんじゃないかと思ってママが持ってきたの」
「は……い」
その言葉を口にした瞬間、ジュリエットの表情がわずかに変わった。
言葉を話し始めたことを喜んでいるようでもあり、同時に、俺が成長していくことを恐れているようでもあった。
成長することは誰にとっても当たり前で大切なことだと、どう伝えればいいのだろうか。
そんなことは、ジュリエットもとっくに分かっているはずなのに。
言葉を発したのはこれが初めてではない。
いきなり「はい」などと答えては怪しまれるというのもあって、それに、なぜ泣かないのかと周囲に詮索されるのを止めさせたかったため、以前に「ママ」と言ってみせたのだ。
そのときの彼女の反応は、文字通り一秒でゼロから百まで跳ね上がった。
屋敷中でそのことを自慢して回っていた光景を、今でも覚えている。
差し出された水を飲み終えると、ジュリエットは俺のベッドに横になった。
……
俺はそのことを考えるのをやめ、再び本に目を落とした。
本には全部で五つの王国についての記述があった。なぜ世界にそれほどわずかな王国しか存在しないのかは書かれていない。それらがどのように機能しているのかについても触れられていなかった。そこにあるのは、略称と文脈のないわずかな情報だけだ。
AN- - - - - - -
DU - - - - - -
EL - - - -
FA - - - -
GO - - - - - -
極めて高度に発展した王国であるANは、DUと共に、互いの重要貴族間の協定によって永遠の同盟を結んでいた。だが、歴史の始まり以来、AN王国とFA王国は互いを死ぬほど憎み合っている。その理由は定かではないが、歴代の王たちの謀略であったとする説や、単なる相互の恐怖心から生じたものだとする説が存在していた。
EL王国とGO王国については、あまり多くのことは知られていない。ただ、隣接しているせいで、双方が自らのものだと主張する領土を巡って小競り合いを繰り返しているということだけだ。特にGOは、脳無しの野蛮人という烙印を押されていると記されていた。だが、双方が相手の領土を完全に征服できた試しは一度もない。
つまり、ELとGOの争いは不毛なのだ。
何も得るものがないにもかかわらず、互いを憎み合っている。
領土のためでも、これといった明確な理由のためでもないのなら、一体何のために戦争など起こすのか。
その問いに、本は何も答えてはくれなかった。
また、いくつかの部族についての言及もあった。
王国での暮らしに疲れ果てた一部の者たちが、遥か遠く、メンシェ大陸とアイノファ大陸の間に位置する名もなき島々へと渡ったという。部族と呼ばれ、「人であって人ならざる者たち」と見なされているものの、彼らは極めて有能であるらしかった。
終盤近く、本は生命の起源を海と結びつけていた。
『大カサル』と記された最初の海は、大陸や生命、さらには水すらも存在しなかった頃に、最初に存在した海であるという。
(水のない海、か……)
本は大海カサルが最初の海洋であったと断言しておきながら、その直後、それ以前に独自の輝きを放つ『ムーセアノ』と呼ばれる海が存在していたと述べていた。そしてあらゆる存在の中心には、『ムーセアノ』より遥か昔から『ネクサス』が存在していたという。万物の起源。
ならば、一体何が最初だったというのだ。
どうでもいいことだ。
万物の起源などというものは、常に不確かなものだ。だがその本によれば、人々はその名を聞くだけで喜びを覚え、胸に温もりを感じるからこそ、ネクサスがすべての起源であると知るのだという。俺はそのような温もりなど一切感じない。ならば、これもまた別の嘘に過ぎないのだろう。
「本当にその本に夢中だったのね、坊や」
母は本を取り上げ、棚の上へと置いた。
「さてと……今日の本はもうお預けね。家族での夕食の時間よ。坊や、綺麗さっぱりしなくちゃね」
彼女は俺の頬をつまんで笑わせようとしたが、無駄だった。
「うふふ……怒ったときのその顔、怒っているのよね? まだ赤ん坊なのに。怒るなんて早いわよ……ううん、そうでもないかしら、私も昔怒ったことが……まあいいわ、何の話だったかしら? そうそう、ママがお風呂に入れてあげるわね」
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風呂はあっという間だったが、家族での夕食はやけに長かった。
気まずさや険悪さがあるわけではない。
ただ、夜の間中、話すべき共通の話題が一つもないといった様子だった。
普段のこうした夕食では、家族全員が言葉を交わしているものなのだが。
「で、若き当主様……いや、弟よ、何か言うことはないのかい?」
「何を言えというのですか、ルキウスさん」
「さあな、条約のこととかさ。どう進んでるんだ? あっちの連中がひどく喜んでたって話を聞いたぜ」
父は食事を終えた。
テーブルに肘をつき、口を開く。
「ええ。私の手腕が彼らの予想以上に役立ち、下した判断が鉱山の開発において極めて重要だったと言っていました。今や大地は、かつてよりも容易に形を変えられますからね。すべてを自分の手柄にするつもりはありませんよ、ルキウスさん」
「へえ……まあ、全部お前の手柄にしていいと思うんだがな。まあいいさ、昔からそうだった。あそこへ向かうための船だって改良したんだろ。おかげで連中も騒ぎ立てなくなったし、法外な金を要求してくることもなくなった」
「金は最初から問題ではありませんでしたよ、ルキウスさん。ですがええ、重要なのは安全性であり、今やそれをより確実に保証できるようになりました」
二人が話していたのは、ある場所へ迅速に向かうために越えなければならない、境界線のようなもののことだった。危険であるということ以外、詳細には触れられなかった。
「なるほどな……そいつは今後、変わりそうかい?」
「ルキウスさん、食事を続けませんか。家族を少し困惑させてしまっているようです」
二人は同時に、まっすぐ俺を見た。
「違いない。ずいぶんと観察熱心なのが一人いるからな。伯父としては、ちと怖いくらいだぜ」
「ルキウスさん、私の子は観察なんてしていませんと、何度も申し上げましたけれど……せいぜい、私たちのことを学んでいるだけですわ」
「それ、観察してるのと何か違うのかい、ジュリエットさん?」
「大違いですわ。何か問題でも?」
「い、いや、何でもないぜ」
兄弟は二人とも、それ以上その話題に触れないことに決めたようだった。
両親とルキウス伯父さんの他に、伯母と四人の子供たちも同席していたが、子供たちは時折、無表情でこちらを見つめてくるだけだった。唯一、笑顔を向けてきていたのは、ヴァレリアという名の二歳年上の少女だ。彼女はどうしても俺に自分を見てほしいらしく、異様なほど執着しているようだった。
「ママ! ダリくんがわたしを見たよっ!」
「ええ、そうね、見てくれたわね」
「また見てくれるかなぁ?」
「そうね、あの子次第かしら」
「んー……見てくれそうだよぉ!」
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夕食の後、俺は自分の部屋へと送られた。
「ダリくん! やっほー!」
無視さえしなければ満足して立ち去るかと思ったが、予想に反して長居する気満々だった。
「ごめんね、でもジュリエットおばさまが、わたしがお世話をしなきゃダメって言ったんだもんっ。だからそうするの! 帰らないもんっ!」
今度こそ完全に無視を決め込み、俺はベッドによじ登ろうとした。
「ヴァレリアが手伝ってあげる……! えーいっ!」
腰のあたりに小さな手が添えられ、ぐいっと押し上げられた。
「ひとりで……できた」
「関係ないもん! 手伝うもんっ!」
「……分かった」
彼女は一冊の本を手に取り、俺の隣に座ると読み聞かせを始めた。お世辞にも上手な朗読とは言えなかったが、一つだけ確かなことがあった。本を読んでもらうことは、俺にとって不可欠だということだ。
本を調達するために利用できるなら、こいつを好ましく思ってやるのも悪くない。
今のところは、それだけで十分だった。




