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生ける生邪と屍と  作者: 碧兎


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♤ 大阪特区防衛戦 6

ビル投擲は怪異、『餓者髑髏(がしゃどくろ)』という大型怪異によるものだった。


この怪異は、『宙相』という半顕現状態であり、通常の怪異ならば『宙相』でこれほどの被害は出せない。

しかし、『餓者髑髏』はこの状態でも防壁を破壊するほどの暴威を振るう。


そして、『宙相』状態の怪異には呪術の効きが悪い。通常の呪術ならば倒すのに時間が掛かる。

また、怪異は屍を呼び寄せる。すでに、第3波の気配が近づいている。

さらに悪いことに、戦線を維持できる時間は残り少ない。


ここは、無理やりにでも短期決戦しか選択肢はない。


「メイ、エイ。5秒だけ時間をくれ!」

「わかりました!エイ!」

「ああ!姉さん!」

判断は一瞬。双子は頷き合い懐から赤符(せきふ)を取り出す。


「起こすは火相!火鞭(かべん)束ねて堰(せき)となれ!」

エイの祝詞に応えて炎が自分たちの周囲に熱と衝撃のが円形に広がる。


「積むのは土相!土蛇(つちのみ)巻いて堰(せき)となれ!」

メイの祝詞に応えて炎の外周に鱗のように幾重もの土の壁が円周状に形成される。

2人の呪術はこれで終わらない。


「「火!土!相を生(しょう)じて理(ことわり)を成せ!『錬鱗(れんりん)刺頭槌(しとうつい)』

土の鱗は炎を吸い込み、漆黒の刺(とげ)が周囲へと一瞬で広がる。

その威力は屍はおろか、『餓者髑髏』の動きも縫い止める。


2人の最後の大技は5秒を十全に稼ぎ出す。


(よしっ!)

この5秒。無駄にはしない。


刀を一瞬で納刀し、抜刀の体勢をとる。

鞘の仕込刃で親指に傷をつけ、血流を操り、鞘全体に術式を書き巡らせる。

細かく精緻な術式は鞘を一瞬で赤く染めていく。

呪力を十分に練り、鞘の術式へと流し込む。ここまでで1秒。


「水蛇(すいだ)をもって炎龍(えんりゅう)を御(ぎょ)する!淘汰(とうた)の蒼炎、相成(あいな)り慶(けい)す!」

鞘に水の帯が巻き付き締め上げる。収まった刀は柄ごと炎に飲み込まれている。

膨れ上がる炎は一瞬で赤から白へと眩しさが増していく。

飛び出そうとする刀を力ずくで押し込みながら術は完成する。


「相克剣(そうこくけん)裏斬(うらぎ)り!蒼刃炎瀑布(そうじんえんばくふ)!」

炎の圧力を解放し、超高速の抜刀を放つ。


5秒を擁したその一撃は音もなく、風も起こさない。こちらの世界には。

裏斬りは位相をずらした、高次元への一撃。


霊子への感受性が強い者が見れば波紋の大爆発が見えることだろう。そして同時に耳を覆いたくなる爆発音も。


その高次元の爆発の衝撃は『餓者髑髏』を粉々に吹き飛ばし、霊子の残骸へと還していく。

爆発の余波は周囲の霊子をも吹き飛ばす。

屍も、双子が築いた漆黒の防壁も何もかも。


霊子感受性の高い双子は思わず耳を塞いでその光景を見ていた、畏怖と恐怖で。

今だに膨れ上がる陽炎のような爆発を。




やがて爆発が急速に収束する。残るのは静寂。


刀を振り抜き、残心をとる真の手には、黒く朽ち果てた刀の柄のみが残っている。



「5秒…。稼いでくれたおかげだ。」



振り返る先には、呆けた表情の双子たち。


「帰ろう。俺らの役目はこれで終わりだ。」


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