♤ 大阪特区防衛戦 3
俺は身体強化術を用いて前線であろう西ゲートへ駆けている。
その速度は農耕地という悪い路面状況を加味するれば、自動車などよりも速い速度で進んでいた。
幾分、攻撃による音や光波は散発的になってきているが、怪異の存在が高いとなると予断は許さない。
自信の五感で感じる霊子濃度は高くなる一方だった。
今は地面を踏み抜かないギリギリの身体能力を維持して、最大効率で向かっていく。
◇
術者が使う『身体強化術』。それは一言でいっても、様々な系統へと分かれていく。
身体の運動能力を強化するもの。
身体の強度を強化するもの。
その他に、各知覚能力を強化するもの。
これらの呪力によって体内に巡る霊子へと働きかけ、身体能力を強化する術をひとまとめに『身体強化術』と言っている。
これは、身体能力を常人以上に引き上げると同時にデメリットもある。
1つ目は常時、呪力を消費してしまうということだ。
呪力というのは個人個人で容量に差があり、呪力を練り上げれば上げるほど扱える霊子の量が増えていく。大規模な術を行使するにはそれ相応の呪力と霊子が必要になってくる。
また呪力は術を行使するほど消費していき、最終的に使い切れば術はおろか最悪、疲労で立てなくなることもある。これはある程度、しっかりとした休息を取らなければ回復しない。
そこで『身体強化術』について触れる。
この術は単体能力の強化ならば強化率に比例し消費する呪力が増加していく。
しかしこれが、運動能力と身体強度の同時強化など、複合的に能力を強化した場合、消費呪力は乗数的に増加していくのだ。
したがって術者は常時最大強化をすることはせず、効果的に術を行使する技能が必要となる。
2つ目は強化された能力に意識が追いつかず、振り回されてしまう事が上げられる。
例えば、強化前後で同じ感覚で身体を動かした場合、強化後の身体では過剰すぎる動作をしてしまう。
これを防ぐには強化率の見極めと、そのときの身体感覚に慣れるしかない。
最後に運動能力強化に比して、身体強度の強化が疎かだった場合の問題だ。
この場合、術者自信の身体はその増加した力に耐えられなく、怪我を負ってしまう。
軽度ならば筋肉痛ですむが、重度の場合は肉体が耐えきれず崩壊する可能性もある。
このような理由で身体強化術は奥が深く、術者の技量が目に見えて反映される呪術となる。
効率的に取捨選択をしながら身体を強化して戦闘を行うのが一般的なのだ。
なのだが、それを覆す例外も世界には存在する…。
◇
前線に近づいてきた。
すでに結界は破られ、数は多くはないものの屍に内部への侵入を許している。
すぐ先には、小柄な少女の陰陽師が屍を効率的に排除している。
すると、彼女の背後で影が盛り上がり、彼女に食らいつこうと口を広げる。
影の怪異『影鰐』だ。
平時は平面で移動し、背後から術師を襲う中級怪異。その隠密性と攻撃力から、多くの犠牲者をだしている。
少女は屍の迎撃に気を取られていて、気づいていない。
だが、そこは俺の射程内だ。
「陰の法『影縫』。」
文字通り、影を縫い付け動きを止める呪法。
影の怪異には効果は抜群だ。『影鰐』は俺の足に踏まれ動けなくなる。
「サラ撃て!」
『はいよー!』
返事から一拍遅れて『影鰐』の頭部が弾け飛ぶ。遅れて銃声が届く。
2000mもの距離を狂いなく撃ち抜くサラの狙撃技術は凄まじい。
「メイ!?良かった…!」
近づいてきた少年が少女に声をかける。
「エイ…」
少女は今、自身の命が危険だったことに気付き顔を青くする。
「姉が助かりました!ありがとうございます。」
「ああ、気にするな。お互い様だ。君たちは陰陽寮か?状況を教えてくれないか?」
♣
サラは高架の上から伏せ撃ちの体勢で狙撃をしていた。
『サラ撃て!』
スコープの先では真が『影鰐』の影を踏んでいる。
「はいよー!」
真と少女の間にいる『影鰐』。その頭部に気負いなく照準を合わせる。
下手に外せば少女ごと撃ってしまう。しかし、サラにその不安はない。
…起きなよ、ᚦ…
弾丸に刻まれたルーンを呼び覚ます。
刻んだ効果は『巨人の一撃』。
ガンッ!!
銃撃による強い衝撃を逆らわずに上手く受け流す。
巨大なマズルフラッシュと共に放たれた特大の弾丸は3秒間かけて『影鰐』に吸い込まれ、その頭部のみを吹き飛ばす。
まさしく『巨人の一撃』となった。
「よし!…でもまだ他にもいるなー。」
真から支配権をもらった『鴉』が別の敵性個体を伝えてくる。
サラの使っている狙撃銃『バレット M82』は強力だ。
強力すぎるが故にただの屍に使うには勿体ない、したがって大物を狙う。
ガンッ!
3体目の『影鰐』を葬る。
高速で移動し、部隊の背後を襲おうとしていた。
ガンッ!ガンッ!
防壁の崩れた箇所ではなく、単純な身体の跳躍力で防壁を飛び越えてきた2体の屍を着地前に撃ち抜く。
このような、通常の屍よりも強力な個体は甲型、乙型、丙型と序列が上がっていく。
屍の群れには一定の割合でこの上位個体が存在する。
しかし、サラはそれを判別して的確に撃破していく。
2000m。発砲から着弾までに3秒を擁する。
『鴉』から視界を得ていても、そのタイムラグで移動するターゲットを撃ち抜くのは至難の技だ。
さらにはそこに風、気温と湿度、コリオリの力が働くことを計算しなければいけない。
そんな絶技をサラは観測手も置かず、一人で外すことなく積み重ねていく。
端から見れば、それは敵の動きを予知しているかのような精確さだった。
「折角買った家を…」
ガンッ!
「…壊されてたまるもんか!」
ガンッ!
「弾代も…」
ガンッ!
「…絶対ぼったくってやる!」
ガンッ!
言動はともかく、神がかり的な狙撃をサラは続けていく。




