♤ 大阪特区防衛戦 1
…ズズンッ…
今だに音と振動が断続的に続いている。
俺とサラのIDカードへと非常事態の武力協力要請が表示され続けている。
「サラ。まずは小夜子とシェルターに行こう、案内してくれ。」
最低限の荷物と、刀を手に取る。
「オッケー!こっちだよ、付いてきてー!」
すでにプレートキャリア、アサルトライフルにハンドガンを身に着け。大きなバッグを担いで準備を終えたサラに付いていく。
「小夜子。離れずに付いてくるんだ。」
「は、はい!」
サラの家の外に出ると、特区の住人達は少しづつ自体を察し始めたのか、慌ただしく走り出す者もいる。
人混みほどではないにせよ、歩道や道路には人が溢れ始めている。
「小夜ちゃんこっちこっち。」
サラがはぐれないように、小夜子の手を取って引っ張っていく。
急ぎはしないが、するすると人混みを躱して進んでいく。
「何が…、」
「詳しいことは分からないが、さっき通ってきた西ゲート方面が襲撃されたみたいだ。まずは、小夜子をシェルターに送っていく。」
IDカードは襲撃の規模などの詳しい情報までは表示されない。
しかし、武力要請が来るなど、いままで経験がないことを踏まえると状況は深刻といえる。
それと断続的な振動と音、かなり大規模な襲撃の可能性が高い。
…シューーーッ…
…ヒューーーッ…
頭上から音がして見上げると、小柄な人影が2つ呪法の残光を残して西ゲート方面へと飛んでいく。
恐らく、陰陽寮の陰陽師だ。
『鳥獣式『鴉』』
雛形に呪力を通して、高速で顕現させる。
『鴉』より俯瞰からの視界を共有させる。
さっきの陰陽師が飛んでいった方向に視界を向けると、激しい砂埃と、時折閃光が光っている。
すでに防壁は突破されていそうだ。まずいな。
「シェルターはここだよ!」
金属製の大きなゲートにコンクリート製の頑丈そうな建造物、中は十分広い空間になっている。
人々はすでにシェルターへと殺到し始めている。
「小夜子はこの中に避難しててくれ。サラは行くんだろ?」
「もちろん行くよー。家を買ったばかりなんだから守らないと。」
当然とばかりに、装備をチェックしながら答える。
「私ひとり…ですか?」
小夜子も無理なこととは思ってても、心細いのだろう。
しかし、現状では小夜子はシェルターにいてもった方が安全だろう。
「小夜ちゃん、これ預かっててよ。」
そんな小夜子を見かねて、首からペンダントを外して小夜子に渡す。
「これは大事な物なの。遠くにいても、このペンダント持っててくれれば大体の場所分かるからね。」
「はい。」
小夜子はペンダントをグッと握り閉める。
「後で返して貰うから大事に持っておいて。」
サラは小夜子にグーサインを出して、笑顔を向ける。
「じゃあ、行こうか真。」
「ああ、急いだ方が良さそうだ。」
♣
…シューーーッ!
足に水相の力を宿し、空を滑空する『天流軀』。
その力を全力で使い、非常事態の現場にいち早く向かっている2人の陰陽師。
その一人である少女、
『土御門 明』は焦りを滲ませながら、今だに土煙に轟音、それとわずかな銃声のする西ゲートに向かっていた。
「エイ!響子姉に伝心繋がった!?」
「だめだ姉さん!繋がらない!」
メイと並走するように、火相『天昇軀』を使い飛んでいるその少年は、
『土御門 影』
メイの双子の弟である彼も、姉と同じように焦りを滲ませていた。
「急ごう!」
「うん!」
◇
彼らは若干17才という若さで陰陽寮の討伐部隊編入という、才能のある双子だった。
土御門家本家の血筋を引き、英才教育を施されてきた姉弟で、実戦もすでに経験している。
今日は、部隊本体は東部方面での活動を行っており、討伐部隊は常駐の中央部隊を除けば、学校というしごく当たり前の理由で都市西部にいたこの双子が現場に一番近かった。
授業も終わり、帰ろうかと言うところで親戚の「加茂 響子」から緊急の伝心を受け取る。
伝心は一定範囲、霊子濃度下において特定の個人、または複数人と意思疎通を行う現代の呪術師の必須技能の一つだ。
『メイ!エイ!西ゲートで襲撃が起こってる!すぐに救援に着てほしい!』
響子はメイ・エイの叔母にあたり、陰陽寮に在籍しながらも軍部へと進んだ才媛だ。
そんな普段は沈着冷静な彼女が、少し上ずった声で連絡してきたのだ、それだけで自体の深刻さを現している。
『メイです!2人ですぐに向かいます!』
メイ・エイは頷き合い、すぐに無属性呪式で身体を強化。ビルを飛び上がり、一直線に西ゲートを目指した。
◇
西ゲートに近づくと、その状況の悪さも明らかになってきた。
『W3』ゲート周辺は半壊し、屍はすでに内部に侵入してきていた。
結界外を放棄し、今は内部から屍郡に迎撃を行っている。
数名の陰陽師と一般の防衛員が対応しているが、屍を倒す数より増える数が多いのが現状だ。
結界は十全に機能し、屍を押し留めていた。
この結界は地形配置から、霊脈にいたるまで綿密に計算されて敷かれている。
そのため、これ以上結界の範囲を拡大することは出来ない。その代わり容易には破れない。
しかし、弱点が存在する。
一点に過剰な霊子がぶつかると、結界はそれを相殺するために強度を上昇させていく。
それは霊子の高次元性に、はからずも3次元特性を付与することとなる。
そこに物質的な高負荷がかかった場合、結界は意外なほどの脆弱性を露呈してしまうのだ。
今までは、屍に組織だった行動は起こさなかった。せいぜい、群れで攻めてくるのが関の山だ。
しかし、今回はその組織だった行動を起こしている。
防壁は何かの質量攻撃で崩され、そこになだれ込んできた屍。
屍とは霊子によって稼働する端末である。数が集まれば結界はその強度を上げてしまう。
そこに、遠距離から膨大な質量の瓦礫が飛んでくる。
それが結界に接触した瞬間、結界はガラスのように一部が砕けてしまった。
◇
「まずい!結界が破られた!」
「まずは数を減らそう!姉さん!」
空中を高速で駆けながら、2人は懐から黒紙の呪符を取り出す。開口一番、奥の手を切る。
「注ぐは水相!流れ留まり水劉を成せ!」
「起こすは火相!逆巻き唸りて火劉を成せ!」
メイとエイが同時に祝詞を唱える。
2人の呪力に答えて世界は五行を顕現させる。
片方は水。鋭い円錐形の槍が100m以上の規模で防壁内に展開される。
もう一方は火。同じく100m規模で防壁外の屍の群れの下に火の陣が広がる。
「「水!火!相克捻れて生へと至れ!!」」
本来相克は片一方を弱めてしまう、しかし双子は相克の特性を反転させ互いの術を強化させる。
水柱を作り、その熱を火相の呪術が奪い火力を高める。熱を奪われた水柱は氷柱となり威力を高める。
その術の強化の過程を補い合い、その余った呪力を攻撃範囲に全振りする。
霊子濃度も上がったこの戦場ではまさに乾坤一擲の一撃となる。
「氷円凍靂陣!!」
「炎結牢獄陣!!」
双子の結の文言により、大規模呪術が完成する。
数多の数の氷の円錐柱が、崩れた防壁周辺を徹底的に蹂躙していく。
大人一人と同じ位の大きさの氷柱。それが高速で屍の群れを穿っていく。
刺し貫き、凍らせ活動を止めていく。
一方、防壁の外では広範囲の火炎の檻によって、屍は閉じ込められている。
檻の色は白く、いかに高温となっているのかが分かる。
中の屍は溶け、崩れ、灰となる。
防壁内外に溢れていた屍が一瞬で消滅していく。
2人は慣性のまま手前に着地し、崩れた防壁への警戒をする。
「「はぁ…、はぁ…、はぁ…」」
ここまでの大規模呪術。2人は大きく呪力を消費したのを感じていた。
静寂も一瞬。
巨大な瓦礫の塊が再び防壁に飛来する。
「はぁ…、多分でかい怪異がいる。」
「そいつをやらないとだめか。」
2人は再び、高速で駆け出す。




