♤ 人類圏 1
大阪特区『W3』ゲートに着いた。
「いいか。両手を上げて、ゆっくりと歩いてゲートまで向かう。」
「はい。」
小夜子が真面目な顔で頷くのを確認する。
「特区外の人間が武器を携行しているのは普通のことだし、警備員は基本的に先制攻撃をしない。ゲートの人間用通用口までそのまま近づき、入場管理場を通るだけ。簡単だ。」
「ですね。」
緊張を隠すように、彼女は微笑む。
「じゃあ、行こうか。サラも良いな?」
「はい。」
「もちろん!」
ゆっくりとビルの影から出て、ゲートへと向かっていく。
頑丈な防壁の上で周囲を警備している人間も俺達に気付く。
警戒はしても、武器を向けるとことはなく、こちらを注視している。
そのまま歩いていき、警備員とお互いの顔が見える距離まで近づいた頃、向こうから声がかかる。
「お前、真か?」
「ああ。あんたは確かー…村山?」
「村瀬だよ。今日は連れが多いな。いつも一人じゃなかったか?」
村瀬とは何回か顔を会わせたことがあった。向こうが覚えているのは意外だったが、それならそれで気分的にもハードルが下がる。
「妹と『仮宿』のサラーサだ。」
「サラーサさんは知ってるけど、お前にそんな可愛い妹がいたとはな。」
「余計なお世話だ。」
「妹さん、兄貴似じゃなくて良かったな。じゃあ、気をつけろよー。」
「はーい。お仕事ご苦労さまでーす。」
村瀬の持ち場から十分離れたところで、
「こんな感じで良いですか?」
そう小夜子が聞いてくる。
「ああ。十分だ。もうゲートに着くから、その調子で頼む。」
「はい。」
ゲートは貨物輸送用の大型ゲートと、人間専用の通用口とで分かれている。
両方とも極厚の鋼鉄製。
特区はそれだけ外界に脅威を感じ、拒絶を表していた。
人間用ゲートとは言っても、軽車両程度なら通れるほど大きい。
ゲートの横には入場審査官がいる審査台が壁に埋め込まれる形で併設されている。
今日は女性の審査官が詰めている。
「ごきげんよう。入場ですか?」
審査官に、先に声をかけられる。
仕事とはいえ、あまり使用頻度が多くなさそうなゲートの審査業務をサボらずにしている。
「はい。非常時戦闘員登録、五角 真です。」
そう言って、IDカードを提示する。
『非常時戦闘員登録』とは非常時の武力雇用を要請する代わりに、武器等の携行を認めさせる登録種だ。
このIDカードは一種の呪具にもなっており、非常時にはその付近一帯のIDカード所持者に警報の知らせが届く仕組みになっている。
審査官はカードを受け取り、真贋判別用の呪具にて提示者に通行許可を与える。
「非常時戦闘員登録、見上 サラーサでーす。」
「通常登録、五角 小夜子です。」
「はい。確認いたします。」
『通常登録』は武器類の携行をしない、文字通りの入場のみの登録だ。
武器の携行も出来ない代わりに、非常時の要請もない。
そして、手続きが非常に簡略に済ませられるために『仮宿』でも発行できた。
「3名とも入場を許可いたします。ようこそ、大阪特区へ。」
すぐに重厚な音とともにゲートが開き始める。
ゲートは防壁を抜けるまでに、都合3枚の鋼鉄の扉がある。
防壁の厚みは一番厚い所で2mにも及ぶ。
ここが人類最後の生活圏の一つ、『大阪特区』だ。
「やっと着いたな。」
「そうですね。」
「2人ともありがとうねー。お陰で退屈しなかったよ。」
サラが俺達に渡していた荷物をまとめながら、笑顔で言う。
「こちらこそ助かった。」
「私も助かりました。」
そう言って、握手を交わす。
「そう言えば、2人は今日泊まるところあるの?」
「いや、これから探すんだが。」
それならばとばかりにサラが、
「じゃあ、今日は家に来ない?泊めてあげるよー。」
「いいのか?時間も時間だから、助かるが。」
「もちろん!小夜子ちゃんを野宿させるわけにはいかないっしょ!」
そうして、今日の最後の目標はサラの新居へと決まった。




