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生ける生邪と屍と  作者: 碧兎


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16/26

♠ 大阪特区 4

思考戦車を見かけてから、数時間歩いてきた。


当初は記憶の断片と、知識の濁流に飲み込まれそうになっていたが、それも落ち着いてきていた。

『FFタンク』の件の話しは、今だに思うところがないでもない。


今日の進むペースは昨日と比べてかなり早い。

私の安全をサラが請け負うことで、真(しん)が自由に動き易くなったことが大きい。

残念ながら、今の私は真達の足手まといでしかない。


サラが同行してくれることは、私たちにとてもメリットがある申し出だった。

戦闘面でもそうだが、彼女の人柄に私はとても助けられている。

非常に前向きな彼女の性格は、ともすれば暗い私の性格を忘れさせてくれる。

真とはまた違う親しみやすい安心感を感じていた。


色んな新しい話を聞かせてくれた。

彼女の両親の話し、『仮宿』での生活の話、作物を育てようとして全滅させてしまった話。

それから、特区内に買った家の話や、これから占いで生計を立てようとしている話し。


「そう言えば、サラさんも陰陽術使えるんですか?」

「んー…、私は使えるかどうかで言えば、使えるんだけど。あまり多くは使えないんだよねー。」

「たしか、真さんは一定の呪力があれば誰でもって…?」

「それねー。確かにそうなんだけど、陰陽術ってやっぱり学問なんだよね。」

「それ真さんも言ってました。」

確かに真は、霊子という高次元粒子を扱うための学(・)問(・)が陰陽道と言っていた。


「あたし、こう見えて勉強嫌いでさー。」

と少しバツが悪そうにサラが言う。


「ぶふっ!」

あまりにもな理由に思わず吹き出してしまった。

「こう見えて」って言うあたりが、より彼女らしくて可笑しい。


「ちょっとー、笑うの酷くない?呪式の構築とか難しいんだよー?」

「ごめんなさい。あまりにもサラさんらしい理由で。」

やっぱ彼女は面白い。


「もー。真からも言ってよー。」

「ノーコメントで。」

「おいー。」

「私は学んでみたいです!すごい才能があるかもしれませんし。」

そういうのが異世界転移ものの定番だし!


そうして初日とは打って変わって、和やかに特区への道のりを歩いていると、サラが勢いよく後方を振り返りアサルトライフルの銃身を素早く構えた。


「頼んだよ、『 ᚺ (ハガル)』。」

そうサラが呟いた後に、


パンッ


と乾いた音が響く。

サラがアサルトライフルを撃った。

後方の何もない所に撃ったかと思えば、次の瞬間そのビルの間から飛び出してきた屍の頭部に命中する。

頭は弾け飛び、屍が崩れ落ちる。


銃声を聞いて、少し前進して離れていた真が戻ってくる。


「いたのか?」

「うん。一応周囲を警戒して。」

「わかった。」


彼女の射撃までの動作があまりにも自然で、私はあっけに取られていた。


真は瞳を閉じて少し集中した後、

「よし、鴉に敵影はない。大丈夫だ。」

「オーケー。ごめん、つい撃っちゃった。」

「気にするな。助かる。」


間近で実際の銃撃を見るのは初めてだったので驚いた。

映画で見るより軽い音だったことが意外だった。


「サラさんもすごいですね。」

「まぁ、これくらいはねー。訓練の賜物ってやつ?」


軽い感じで言ってはいたが、そこには少なくない自信を滲ませる。

彼女の雰囲気にこの世界の現実を忘れかけていたが、そこには確かにこの時代で生きる力を感じた。


「さっきのも呪術なんですか?」

「あっ、気付いた?あれは、ルーンの力を借りたの。」

「ルーン文字の、ルーン?」

「そうそれ。仕組みはちょっと言葉だと難しいけど。刻んだ文字によって物質に力を与える魔術?ってところかなー。」


陰陽術にルーン、世界にはまだまだ私の知らない未知がありそうだ。


      ◇


「見えてきた。大阪特区の西側ゲートだ。」

そういった真の先には広大な範囲を囲む、コンクリートの壁が建っていた。

高さは何mだろうか?遠近感のせいもあるが5m以上はありそうだ。

所々に大なり小なりの傷が出来ている。

壁の上には等間隔で人が武器を持って見張りに立っている。


その厳重さが、この外の世界の危険さを如実に表していた。


その長大な壁の幾つかに、頑丈そうな鉄のゲートが設けられている。

一番近くには『W3』とペイントされたゲート。


この2日間の旅がようやく終わろうとしてる。


「サラ。小夜子にアレを。」

「あっ、忘れてた。小夜子ちゃん、はいこれー。」

そう言って渡されたのは、1枚のカードだった。

そこには私の名前と顔写真、ID番号が記載されていた。

写真は『仮宿』で撮ったものだった。


『五角(いずみ) 小夜子(さよこ)』


「これがないと、手続きが面倒だからねー。『仮宿』で発行してる正規のやつだから安心して。一応、あそこは正規認可の施設だったんだよー。」


「名前は偽造だけど。」とサラは笑っていた。


「勝手ですまないが、俺の妹ということにさせてもらった。その方が色々と都合が良いかと思ってな。」

すまなそうに言ってくる真に、


「問題ないです。妹としてよろしくお願いしますね。」

とお辞儀して笑った。


「あんまり似てないけどねー。」

とサラが茶化す。


「じゃあ、呼び方も変えますか?兄さん?兄様?兄貴?」

「…いや、…真でいい。」

少し困った顔をしてる真が可笑しかった。

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