♠ 大阪特区 3
真とサラ、それに私の3人は大阪特区に行く途中で擱座した戦車を発見した。
それを見た瞬間、私はある単語を口走っていた。
「…『豊和田重工製自立思考戦車』…。」
フラッシュバックするように映像が頭の中に流れてくる。
◇
デスクのパソコンでなにかのコードを打ち込んでいる私。
手元にあるスマートフォンの画面には白衣を着て、眼鏡をかけた私の顔が反射している。
コーヒーのような物を飲み。
相手の顔はボヤけているが、同僚のような人間と何かを話している。
そして、その先には思考戦車の基部が置かれ、様々なケーブルが繋がり多くの端末が置かれている。
その数値を見ながら、携帯端末に何かをまた打ち込む私。
そこには少なくない達成感のような感情を持っている自分を感じる。
◇
「っつ…。」
こめかみに鋭い頭痛が走る。
思わずこめかみを押さえる。気づいたら真とサラが私を心配そうに覗き込んでいた。
「わたし、…たぶんこの戦車を造っていたんだと思います。」
真が少し驚いた顔をして、
「何か思い出したんだな。」
「はい。一瞬、記憶が流れ込んできて。そこはケーブルがいっぱい付いたこの戦車がありました。そこで私は…、私は何かのプログラミングをしていて。」
いっきに流れ込んできた情報量に、脳が悲鳴を上げているようだ。
ニューラルネットワークの構築?行動サブルーチンの最適化?照準補正にコリオリ力計算?POT?
流れてくる単語を知っていないのに、それを理解してしまう矛盾。それが大量に頭の中に溢れ返り、私をどんどん侵食していく。情報の波が瞼の裏で明滅するようで気持ちが悪い。
”パンッ”
いきなり私の両頬が手で挟まれた。サラの手だった。
「小夜子!落ち着く!」
「はい!」
サラの大声に、手袋を嵌めてても温かいその手に意識が集中していく。
情報の奔流が少しづつ収まり、周囲の景色に色が戻ってくる。
「小夜子!大丈夫か!?」
「っはい…。なんとか。」
「もうっ!なんか心配したよー。」
「サラさん、ありがとうございます。」
「ほら、水飲んで。」
サラに水筒を渡されて、ごくごくと飲み込む。気づけば喉はカラカラだった。
「…はぁ。」
「落ち着いた?」
「なんか、頭の中に色んなものが一気に溢れてきちゃって…。」
「そうか…、まだ小夜子は”小夜子”って呼んでいいのか?」
「そうですね…。自分の名前なんかは何も。」
そう、自分のことはほとんど思い出せなかった。
ただ、自分はこの戦車を造っている現場にいた。それは間違いない。
頭の流れてきのは記憶というより、知識を無理やり刻み込まれたような感覚だ。
「小夜子、FFタンク造ってたって、ホントに屍災害以前の人だったり?タイムスリップとか?」
「あると思います?」
「んー…、ないねっ。ね?真。」
「…ああ、俺も聞いたことがない」
それでも、さっきの頭に湧き出した情報の渦は、偽物とは思えなかった。
きっと、この戦車には私の記憶の手がかりがあるはずだ。おそらく、私は豊和田重工の社員だった可能性が高い。
改めて、戦車を見上げてみる。今度は特に何かが湧き出してくることはない。
大きな損傷は無さそうだ。
ところどころ錆が浮いているが、今すぐにでも動き出しそうな異様がある。
そう言えばさっき、サラがこの戦車のことをなんと呼んでいただろうか?
「サラさん、『FFタンク』って言ってました?」
「んー、言ったよー?」
「愛称かなんかですか?」
「まぁ、愛称っちゃ愛称かな?」
「あー…、」
真が何か言いかけたが、それよりもサラの言葉の方が早かった。
「”FF”はねー、フレンドリーファイアの略なの。」
それを聞いて”ガンッ”と頭をハンマーで殴られたような衝撃が走った。
自分が造った物に、そんなあだ名が付けられているなんて…。
「父さんも、一緒に戦っていた人が2人もFFタンクに食われたって言ってたなー。」
特に気にした様子も、悪びれた様子もないサラの言動だったが私の心にはぶっ刺さった。
「造ってた」と言った手前、それが味方から『味方殺し』なんて言われているなんて。
なんか申し訳ないやら、恥ずかしいやらで顔を上げられない。
「あー…、気にするな。確かにそんな風に言うヤツもいるが、単独運用では決戦兵器って言われたたぞ。戦果も上げていたって聞いたしな。」
そんな、私の心境を察してか、真が頑張ってフォローをしてくる。
それを聞いて私はさらにいたたまれなくなってしまった。
あれ?でも、私の思い出した記憶だと完成はしていなかったはず。
少なくとも知識の中では、まだまだ問題点が多すぎてデバッグの段階ですらなかったと思う。
もしかして、私は戦車完成の前にタイムスリップしてこの時代にきたってこと?
きっと、私がいなくなって後に屍災害が起きて、完成前に投入されたのだろう。
そう思った方が心の健康に良さそうだ。…はぁ。




