♤ 境界へ 5
この先にいる、もう一体の屍がこちらの異変を感じてした様子がないことを確認し、残心を解く。
刀を素早く振り、血糊を落として鞘に収める。
単体の屍の処理自体は簡単だ。
呪術で頭部を破壊するか、物理的に頭部を身体から消失させれば良い。
屍の一番厄介なところは群れで行動し、群れを呼び寄せるところだ。
群れからのはぐれ者の処理は、ある程度の技術をもった人間にはさほど難しくはない。
他の屍を呼び寄せる間もなく、無効化すれば良い。
「真さん、…強すぎませんか?」
「そうか?コレくらいは出来ないと特区外では暮らしていけないぞ?」
驚いているとも、あっけにとられているともいえる顔をしている小夜子に答える。
◇
俺の剣はほとんど我流。型などは学んだことがない。
それでも刀を降る際の力の入れ方、抜き方、足運びなどはそれなりに長い時間をかけて自分なりに効率を突き詰めて鍛錬をしてきた。
他者と切磋琢磨したものではないため、相対的な強さはあまり意識したことが無かった。
だが、鍛錬した時間だけには自負があった。
そして、先程の技は刃に霊子の付与を施した抜刀術だ。
霊子の高次元性を刀にのせ、切れ味と耐久力を飛躍的に上昇させる。
屍は手足を動かす神経網の代わりに霊子での情報伝達を行っている。
その情報伝達速度は神経を伝う電気信号よりも早い。それ故に反応速度も人間の比ではない。
しかし、中枢はあくまで頭部であり、頭部と胴体を何らかの方法で離すことができれば霊子はその制御を失い、霧散し屍は活動を止める。
故に、気付かれず一刀のもと切り離せば安全に屍を無力化できる。
◇
トンネルをさらに進んでいく。
トンネル内の敵は、残り屍1体のみ。その位置は解っているので、ある程度大胆に進む。
距離はあと450mほど。
廃車の列が視界を遮り、目視はまだ出来ない。
「真さん、さっき2体って言ってましたけど、そういうのがわかる術でも使っているんですか?」
小夜子が後ろから小声で聞いてくる。
「ああ、それか。反響定位って知ってるか?」
「エコーロケーションのことですよね?イルカとかコウモリとかが持ってる。」
「意外と博識だな。その通りだ。」
彼女が知っていることに少し驚きつつも、
「俺は霊子を用いて、エコーロケーションをしたんだ。」
説明を続ける。
「トンネルの入口で、爪先で地面を叩いたろ?あれは音波ではなく、霊子の波をトンネル内に送ったんだ。その反響でマーキングを行い屍の位置を知った。霊子っていうのは科学では観測されない高次元粒子ことなのは言ったか?今使っている、『隠形』や『甘闇』なんかも、この霊子を呪力によって指向性を持たせたものなんだ。」
小夜子は新しい知識に強い好奇心をもった瞳で聞いている。
「いまでは、霊子は空気と一緒で目には見えなくても、一定の濃度が存在している。それを操り、情報のやり取りができれば、屍の位置も掴めるったわけだ。」
「精度はどれくらいなんですか?」
「1度マーキングすればかなり正確だ。ちなみに、あと400mちょっとで次の屍がいる。」
そう聞いて、屍の再び想像したのか、彼女の顔が少し引きつる。
「まあ、次も同じように倒していく。さっきも言ったが、一方的に攻撃できる状況なら大した脅威じゃないから安心してくれ。」
「…はい。それでも霊子ですか…。すごい便利なんですね。」
◇
それから俺たちは3つのトンネルを通過し、5体の屍を倒した。
最後のトンネルを抜けた頃には夕日が落ちかけていた。
「もうすぐ日が暮れる。暗くなると屍の動きが活性化するんだ。急ぐぞ。」
「はい。」
「仮宿は俺の知人が維持してる場所だ。昔の陸上自衛隊の駐屯地だったところで、もう少し進むと高速道路から降りれる場所がある。そこからすぐの場所だ。」
歩く速度を少し上げながら今日の仮宿の説明をする。
「それで確認なんだが。ロープ降下した経験の記憶はあるか?」
冗談めかして彼女に聞いてみた。




