第9話 護衛対象の少女
またボヤいている。
人形死霊は苦労するらしい。
全く同情しないが。
なんて考えていると、車が自動で動き始めた。
「……まあ、我々としては人質を下手に殺すとマイナスになります。というわけで前置きはこれくらいにして、出発です」
進み始めて十分くらい経ったところで、車は停車。
シャルルが先導していき、裏路地に入り、マンホールを開け、地下水道を進み、急に右を向き、左のポケットから取り出した狩人指輪を右手の薬指に嵌め、狩人指輪のルビーの部分を壁に押し当てた。
その壁に黒色のドアが一つ現れ、彼はドアを開き、ドアの先にあった通路を進み、暗い中見えてきた次の扉に取っ手の下に付いていた暗証番号錠に『1229』と入力し、扉は開き、落ち着いたワンルームにはおそらく──護衛対象の天使の少女が居た。
「……お初にお目にかかります。ヨルルさん、リミクさん、ネネアさん、シャルルさん。私はモルネという名です。覚えていただけると幸いです」
テーブルで読書をしていた少女は立ち上がり、そう挨拶した。
少女、モルネは髪が白いツインテール、虚ろな目付きの翠眼、心配になる程に痩せていて、身長は148センチメートル、トップスは黒いセーター、ボトムスは黒いロングスカート、顔立ちはお嬢様のように可憐であり──ヨルルは名家の出身なので……まあ、お嬢様だがここではそっとしておく──天使の白い羽が似合っている容姿で年齢は大体15才に見える。
「どうぞ、お座りください」
モルネが読書をしていたテーブルのヨルルからみてこちら側には四つの椅子が並んでいた。
ヨルルたちはヨルルが右から二番目、リミクが右端、ネネアが右から三番目、シャルルが左端に座る。
その直後にシャルルが口を開く。
「では、護衛依頼についての話をしましょう。まずは……今回モルネさんがこちらに護衛依頼を出した理由をヨルルさんたちにも教えなければなりませんね」
「……そうですね」
モルネは明らかに深刻そうな表情で話した。
「……私は世界は未だに死霊と争い続けているのに、天国都市で“人”と争い、物や命を奪う犯罪者たちを倒すために必要な力を集めていたのですが、犯罪集団に狙われていたところで運悪く孤立してしまい……助けを求めたのです。本望ではないとはいえ……パイプを築いていた人形死霊に」
そのまま話し終えるとうつ向いて彼女は黙り込んだ。
「あ、そういえば思い出しましたけど、我々死霊の手を煩わせない護衛依頼を進めてくれるボディーガードを決める時にモルネさんは候補の中からこのお三方に任せたがっていたそうですね?」
「「「え?」」」
ヨルルとリミクとネネアの声が重なる。
……いやなんで?
自分はモルネと会うのは初めてだし、リミクとネネアからモルネらしき天使の話なんて出てきた記憶はない。
自分の命がかかる時に信用できるか分からない人物に命を任せられるものではないだろう。
気付くとヨルルだけではなくリミクとネネアも首を右に傾げていた。
するとモルネは顔をバッと上げ、一気に赤面し、再び口を開く。
「……あのー……その……実は私、リリノル家に関係する方にお世話になったことがあるんです。そこで初めてリリノル家の皆様がどれだけ強く、優しく、他者を助ける心の暖かさを持っているかを知って、その後も色んなところでリリノル家の方々のご活躍を聞き、各地で録画された、死霊を倒す時や人を助けたシーンのこっそり見ていたりして……。更に孤立する前にある方から『頼るなら悪人相手でなければ裏切ることはないリリノル家を頼れ』と決定的な助言を頂いたのです……というわけで……」
なんかうちの家のファン……みたいな子らしい。
「そ、そうだったんですね! 僕、リリノル家の一員として嬉しいです!」
「あの……私もリミクと同じで嬉しいです!」
弟と妹は笑顔を見せ喜んでいる。
でも、自分は……。
「…………」
あくまでも“ヨルル”ではなく自分なんかより才能があって、強くて、みんなが憧れていて、自分自身も大好きでかけがえのない存在で自分の命より大切な命で自分も憧れている“リリノル家の家族たち”が作り上げた栄光では……喜べなかった。
最大のコンプレックスである、“ヨルルとヨルル以外のリリノル家の人間”の違いを嫌でも感じてしまうから。




