第5話 12月7日 その二
「なにって……ただの稽古だ。ってか、ヨルル、へばり過ぎだろ。さっさと立ち上がれ」
「……はい」
言われて肩で息をしながらなんとか立ち上がった。
「さて……ちゃんと給水しないとな」
ミディアが死霊狩りなら誰でも付けており、対象の指輪に登録されている者が思いを込めたことに応じて、様々な機能を発揮する万能の指輪──ヨルルが右手の薬指に付けており昨日、戦闘前に血を補給する時に開けた物と同じ──狩人指輪に水筒出てこいと思いを込めたのか、彼の狩人指輪のルビーの部分から青い水筒が出てきた。
ミディアは宙に浮いている青い水筒を掴み、ヨルルに近いて渡した。
「飲め」
「……ありがとうございます」
蓋を開けて、中の液体を口に入れる。
液体は高品質のスポーツドリンクだったようで、乾いた体に甘くすっきりとした味が染み渡る。
ちなみに吸血鬼は血さえあれば生きていけるが、他のモノも摂取すればエネルギーになったり、太陽の下だからといって灰にはならない。
「……あ」
体は余程水分が欲しかったようで、気付くと水筒の中はからっぽだった。
こんな早くに飲みきってしまって失礼ではないかと謝ろうと瞬間、ミディアがなにやら感心しながら腕を組んでこう言った。
「……流石はレルが作ったスポーツドリンクだな。恥ずかしいからバレないよう俺から渡すようにされたが、この出来ならその必要はなかったな」
「!? バ、バカッ!! お、お前!! 言わない約束だっただろ!?」
ミディアの言葉でレルは大慌てしながら顔を赤くする。
「……ヨルルのために中身を最大限活かせる水筒を選ぶのを時間をかけていたし、レルの努力が報われてなによりだ。ヨルル、その水筒とレル特製のスポーツドリンク一週間分は後で渡すから存分に役立てくれ。ちなみに全ての発案はレルだ」
「!! は、はあ!? ミディア!! オメェ、追加でバラすな!!」
レルが更に赤面しながら、ミディアに近づき、彼の背中をポカポカ叩く。
「まったく……レルは稽古は厳し過ぎて、変に自分の努力を隠したがるところは直らないし、ミディアはフツーな感じで秘密のバラすの直らないし、まったく困ったカップルだねぇ」
ノユルはやれやれという感じで目をつむり両手を広げた。
その後、クシユルが神妙な表情でヨルルを見つめ、口を開く。
「……ところでヨルル。お前は自分が死霊狩りになった理由は忘れてないよな?」
──大事なことだ……だから、ちゃんと心に確認する。
……。
大丈夫、自分が死霊狩りになった理由──いや、もはや生きる意味と言ってもいいものは見失っていない。
「はい」
たった二文字。
しかし、心の底から強く思いを込めて答えた。
「ならいい。魔霊持ちの死霊狩りは今の世界では最高峰に稼げる存在な上に必要不可欠だ。だからお前がその状況に酔って、本来の目的を忘れていないか心配になっただけだ……まあ、金に飲まれて、周りがどうなろうが知ったこっちゃないと、自分の幸せだけを優先するクズみたいになるなよ」
稽古が終わり、依頼も引き受けていないのでなんとなく雪が降りしきる時汐を散歩していて、今は一本の雪が積もりに積もった木を囲うベンチに座ってのんびりしている。
時汐は清掃ロボのお陰でクリーンであり、白色と水色を基調として発展しているが、暮らしやすさが溢れ出るのが特徴的。
後、天国都市の景観というのは目が痛くない。
多分、昔の人が描く近未来都市像とは違うかもしれない。
『我々にとって一番脅威なのは死階死霊ですね。死階死霊はいつどこに姿を現すか分からない上、個体によっては幻想都市一つ壊すのも可能でしょう』
ふと、近くの大型ビジョンから流れる映像の音声が耳に入る。
『死階死霊は他の死霊とは違い、出現した2025年の12月31日だけ行動が著しく活発だったのかというのも未だに解明できていません。もしも、死階死霊と戦えるようになる前……おそらく2040年の頃までのどこかで死階死霊が暴れていたら人類は絶滅していたでしょう』




