第3話 死霊狩り2
さて、低階死霊の操作は現代の霊魔を扱える死霊狩りにとっては楽に倒せるが、流石に中階死霊の展塊が三体は霊魔持ちでも厄介。
しかし、今の自分に求められているパフォーマンスを考えると倒すのは当たり前である。
霊魔持ちでない死霊狩りの者や死霊と人々が戦い始めた時代のトップ層の死霊狩りですら中階を倒すのがやっとの者ではないのだ。
依頼通り片付けよう。
敵の展塊は五感は無くともほんのわずかしかない脳でレーダーの周辺を感知し、敵性の者がもつ武器や霊魔の量や行動を記憶し、展塊にとって最適な姿に変える。
今回の場合──というかヨルルの装備の種類はいつも変わらないため大体いつも同じ姿に変わるが──大鎌と二丁拳銃よりもリーチの優位を取るためか、全体の大きさはそのままに全身を球体に変え、丸い体から霊魔の黒い弾を打ち出すために赤い機関銃が生え、展塊三体は360度銃撃できる状態に。
銃撃開始までもうすぐだ。
『展塊が戦闘態勢に入ったことを確認しました! 援護の方はもう可能です!!』
せっかくなので援護してもらおうと思ったところ──それより先にあるものが目に入った。
ここの最上階が崩れたお陰で見えた……展塊が姿を変えた所を見たせいで逃げ出そうとした所を腰を抜かしてしまったのであろう、服装は普通のパーカーとズボンを着た恐らく十歳程度の兄妹。
──まあ、その兄妹は白い羽が生えた天使なのだが。
「……まずい……!」
直感で展塊三体が銃撃開始するまでは残り四秒。
いつも眠そうで無表情で冷静なヨルルも子供が展塊の銃弾による攻撃に巻き込まれるのではないかと考えると焦りを隠せなくなる。
思考を研ぎ澄まし加速させ、状況を整理する。
間違いなく展塊三体は、360度銃撃するだろう。
幻想都市は大抵ゲートやバリアといった外部からの上階死霊クラスまでの侵入及び攻撃への耐久力を割き、内部の建物は現代の技術と新発見の素材で造られ、壊されても発展した修理技術でたったの三時間で元通りになる上、死霊発生時は確立されたワープ技術により避難が用意に可能なため耐久力を割いていないおらず、中階死霊クラスの攻撃力があれば豆腐のように脆く砕け散る。
つまり展塊が辺り一面に銃撃すれば、ヨルルは無事でも幼い天使の兄妹は周りの建物ごと木っ端微塵になる。
……それだけは絶対に避けなければならない。
銃撃開始まで残り三秒。
だが、どうする?
ヨルル一人では兄妹を守りきれないし、銃撃しきるよりも先に展塊三体を仕留めるなんて今の自分の実力では不可能だ。
援護も依頼前に聞いた話では時汐防衛組織によるものらしい。
確か時汐防衛組織の装備は守りに徹しており、攻撃は時汐所属かフリーの死霊狩り頼みだ。
ならば展塊三体を殺す攻撃を期待するのはダメだろう。
ではヨルル一人で展塊三体を一瞬で片付けられる攻撃があるかといえば──ある。
とはいえ今度は攻撃の規模的にヨルルの手で展塊と共に兄妹を殺すだけになる。
それに遠隔から兄妹にバリアを張ってもらえば──いや、遠隔からバリアを張るために必要な兄妹の位置を一瞬で伝えられない。
どうすればいい……?
兄妹に速く気付いていれば……。
いや、“速く”?
そうだ……!
「私に加速化を!! 一瞬でかけて!!」
銃撃開始まで残り二秒。
時汐防衛組織“自体”には攻撃力はないが、時汐で死霊狩りとして働くのに必要なサーバーに登録していれば遠隔からの直ぐにサポートを受けられる。
その中に超短時間の身体強化やバリア展開がある。
あの兄妹は法律上、年齢的に戦場に出るのが許されていないだろうから、サーバー登録はまだだろうからサポートは受けられないだろう。
ならば、ヨルルの動きを加速させる加速化をかけてもらい、速攻で展塊を始末する。
『わ、分かりました!!』
急に大声を出したせいか、オペレーターは驚いているが一瞬でヨルルへと加速化を実行。
ヨルルは大鎌を置き、翼を展開し、敵の裏側に回り込む。
大鎌や銃で攻撃しては一瞬で倒せない。
それに兄妹を巻き込んではいけない。
と、なれば兄妹を巻き込まない位置から──一瞬でカタがつく程の高火力で終わらせる。
銃撃開始まで残り一秒。
ヨルルは体内の霊魔を消費し、四重に重なる魔方陣のような見た目の円から極太の霊魔で構成されたレーザーを放ち──展塊三体を消し飛ばした。
「…………はぁ」
依頼の内容的には悪戦苦闘する筈ではなかったのだが、かなり精神力を消費した気がする。
……後ろから二人分の視線を感じる。
振り返ると天使の兄妹が唖然としてヨルルを見つめていた。
なんとなく……本当になんとなく、ヨルルは右手で兄妹にピースをした。




