第2話 死霊狩り
敵の死霊は四方向からやって来ている。
たまたま一番高い場所に居たので分かりやすいが、丸く時汐を死霊や悪人から守るために囲っているゲートを破り、西側と東側と北側──そして、そんなことは関係なく月夜を背に天空から降りてくる死霊たち。
情報通り中階が十二体で残りは低階。
中階は非戦闘時には三メートルの赤い肉塊の姿で浮遊し、戦闘時は敵に合わせて見た目を変える死霊、展塊。
低階は古びた喪服を着ていて、壊れた操り人形の見た目をした全長一・五メートルの死霊、操差
人形ではない死霊はどれもそうだが、明らかに異形でこの世の存在とは思えない異質さと気色悪さである。
まあ、死霊は登場前したての2025年では低階で田舎の街一つ、中階で大きな街一つ、上階で都市一つ、死階で国一つ壊していたのが普通だったのであり──現在は人体改造技術の進歩や天使、吸血鬼の全体的な戦闘能力の上昇、高性能戦闘アンドロイドの量産化、その三つを中心に強くなったことを理由に死階死霊の動向次第ではあるが、基本的に人類も戦えてはいる──当時も現代の2124年の人々も出会えば死を直感するその異形の怪物に異質さと気色悪さを抱くのは当然かもしれない。
……まあ、嫌々であるとはいえ、流石に慣れてしまったのは悲しいが。
『ヨルルさん! あなたは空からやって来る死霊の対処をお願いします! ただ、空からの死霊はヨルルさんを狙って近づいていますのでいざという時、サポートできるように今は待機して、引き付けてください!』
先程の音声と同じ高い女性の声が腕輪から聞こえた。
「……了解」
吸血鬼だから翼を展開して、空を飛べるのだが今は待機でいいということならお言葉に甘えよう。
……ふと考えたが今回は年に一回程度の天国都市に攻めてくる死霊の対処だ。
死霊は天国都市に危険を察知して入ってこない。
いつもは既に天国都市へと潜伏している死霊(まあ、死階死霊は力が溢れすぎて潜伏できないが)の対処か、訳あって天国都市の外で死霊を狩るの二つだ。
大概、天国都市に攻めてくる死霊には何か絡んでいる。
既に侵入している死霊のせいか……考えたくはないが、人間のせいか。
まあ、強く知恵がある者たちの手助けがなければ、天国都市を守るバリアを突破し、そもそも最上級の死階クラスでないと破れないゲートを壊し、強引に侵入など。
自分達のように死霊を倒し生きていく“死霊狩り”の中の時汐内か時汐周辺に居たヨルル以上の強さを持つ者たちは現在待機中。
理由は敵の目的が分からない上に上階や死階の敵がいなければ下手に動かず、いざという時にすぐ動けるように準備し、今やって来た敵は今出ているクラスの死霊狩りで対処し、まんまと敵の手中に嵌まるという事態を避けるため。
まあ、それがベストだろう。
──と、考えていたら、もう少しで空からの死霊たちはヘリポートに到達しそうだ。
ヨルルは深呼吸し、平常心で戦うことを頭に入れ、大鎌を構える。
大丈夫……いつも通りやればなんてことはない。
そして──中階死霊の展塊三体、低階死霊の操差二十体との戦闘開始だ。
まず、操差たち全員がヨルルの周りを囲むみながら突っ込んで来る。
それに操差二十体は死霊が持つ霊魔と呼ばれる力で作られた弾丸を放ちながら。
操差は霊魔を持つものならば簡単に使える黒い弾丸を──弾丸の大きさは小屋一つ分と強さの割には大きい──放って接近し、敵の原型が残っていれば食らってどこにあるのかは知らない胃袋へと流し込み、原型が残っていない場合は次の獲物の気配を素早く感じ取れるようにしながら停止する。
──操差の特徴をふと、考えてしまうと死霊狩りの新人時代に同じ新人の少女が死にかけの操差に食われて、自分はその前の戦いでボロボロになっていたせいで操差を倒すのが遅れ、その前に少女が食われ尽くされた光景を思い出す。
……ダメだ。
自分の師匠に教わったように私情は切り捨てて、目の前の死霊を狩ることに専念しないと……死ぬ。
少女には悪いが思い出を振り払い、目の前の操差二十体に向け、大鎌から360度霊魔──霊魔は死霊でなくとも訓練などの後天的な要素で獲得可能である──で構築された斬擊を放ち、操差は全滅。
足場のヘリポートへの斬擊は手加減したが流石に崩れ、ビルの最上階は木っ端微塵になり、一つ下の階に着地する。
展塊は上手く避け無傷。
……大丈夫。
自分は死霊と同じ霊魔が扱える死霊狩りだ。
それにちゃんと強くなっている。
そう自分に言い聞かせて、平常心を保つ




