第13話 リリノル家
若手たちと別れたミリアはビルの最上階の死霊狩り協会会長が時汐にやって来た時に使う一室にて、ミリアとクルロ専用の机の前に並べられた二つの椅子に腰かけ、机の上に写し出した電子データ情報を目にしていた。
その一つのデータは様々な死階死霊の特徴を捉えた映像やこれから時汐に起きる可能性の事柄の対処について周りと共に作り上げたものが分かりやすく見れるように展開している。
ミリアは黙り込みながらも真剣な眼差しでデータを見つめ、どう動いていけば良いかを考えているが……どうにも行き詰まっている。
「ミリア君、あんまり根詰めすぎるのもよくないよ」
己がクルロの恋人ではなく、クルロに慣れていなければ顔が真っ赤になっていたこと間違いなしの彼女が顔をほんの少しで頬同士が触れ合う距離まで近づけて優しい声で語りかける動作をしてくるが平然と返す。
……内心、めちゃくちゃたまらないながらも平然と返した自分が怖い。
「気にしないでいいよ。時汐の人々の命がかかっている。速く対策を完全にまとめてきって、みんなに共有しないと」
「……相変わらずストイック。まあ、そういう強い優しさもキミを大好きになった理由の一つだけどね。ところで仕事が一段落したら時汐でディナーっていう話──」
と、クルロが続けようとした時にミリアの狩人指輪に電話がかかってきた。
『クルロにも聞こえるように』というメッセージが写し出され、電話をよこしてきたのはリリノル家、長男ミリアにとっては妹で次女のヨルルにとっては姉の長女で吸血鬼のアリスである。
ミリアは直ぐに左隣のクルロの方を向く。
彼女は口パクで『どうぞ』で言いながら左手を画面に差し向けた。
了承は取れたので狩人指輪にクルロの狩人指輪にも繋ぐよう思いを込めて、電話に出る。
「アリス。こちら、ミリア」
『あー、兄さん。その……実はヨルル、リミク、ネネアと連絡が取れない』
一瞬、間を置いて。
「──は?」
衝撃がやって来た。
何を言っているのか?
アリスとクルロと同じく命よりも大事な次女、次男、三女と連絡が取れない?
サイバー技術が異次元の領域まで発展し、連絡を取る方法なんていくらでもあり、世界中と簡単に繋がれる現代において?
それにアリスもサイバー技術に長けた者をいくらでも知っている筈。
かかってもたった数分で世界のどこに家族が居るのか知れる。
なのに……なぜ?
「アリス、本当なの?」
隣のクルロが真剣な表情で彼女に問いかけた。
『本当。近況でも聞こうかと思って電話したら、繋がらないし、ツテを使って三人の状況を知ろうとしても分からないみたいだし』
「「……」」
二人で黙り込んでしまった。
まずい。
確実に──何らかの事件に巻き込まれいる。
『ミリアさん、クルロさん。スカイです』
会話に加わったのはアリスの恋人で水色のサイドテールが特徴の天使の女性、スカイだった。
『クシユルさんたちは今日の昼まで、ヨルルに稽古を付けてみたいなんだけど……そこから、行方が分からなくなったみたいです。それと……クシユルさんは“アイツら”がヨルルたちの行方をくらませた、と考えているみたいです』
「…………分かった。スカイ、キミまでありがとう」
『いえ、あたしはリリノル家のアリスとお付き合いさせてもらっている身です。お手伝いできることがあればなんでも。でも今、あたしたちは時汐じゃなく夢末にて、どうしても外せない仕事をこなしているので……あまり力にはなれないかと……』
夢末は人口二億四千万人の世界最大の天国都市で時汐と一番離れた天国都市。
なんでも繋がりきった世界でもワープ機能で天国都市間を移動できないし、死階死霊を倒せる二人であってもここまで自力で来てもらうのは酷だ。
それに二人はフリーの死霊狩りであるし、その仕事の依頼主の信用をこちらの都合で落としまっては二人のこれからの生活に影響する。
……なんとかこっちでやりきるしかない。
「気持ちだけで充分だよ。じゃあ、また」
『……はい』
スカイは悲しそうな声で通話を切った。
もはやリリノル家の一員と言ってもいい程、リリノル家を愛してくれている彼女にとっても辛いところがあるに違いないようだ。
「……まず、ディナーは忘れようか」
悲壮感のあるクルロの声がミリアにどうしようもない程……のしかかった。




