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セラン・ブルーと幸福の少女  作者: Annabel
第2部 テュリエール王国編
62/143

4.春の訪れ

(初めて見た。とても珍しい色だわ…)



 目の前の黒々とした双眸そうぼうがきらめき、柔らかな声が響いた。


「…やっぱりとってもお綺麗で愛らしい方ね。今日お会いできてよかったわ」


 弧を描く薄桃色の唇。その完璧な角度へ見惚れつつフェルシアは答える。


「いえ。私などステラ様には到底およびません」


「ふふ、ありがとう。それよりも驚かれたでしょう?急にごめんなさいね」


 そういって首を傾げる仕草すら、花のように優美だ。


 彼女はステラ・シェイン。ライナスの妹である。

 たった今、婚家からこのオリヴィエ邸に到着し、フェルシア達のいる庭先へと現れた。


 真っ直ぐで艶めいた黒髪、大きくてぱっちりとした漆黒の瞳。空色のドレスもこの上なく似合っており、まさに淑女のかがみのような人だ。

 歳は二十二というが、ともすれば少女のような愛らしさがある。


 互いに挨拶をすませ、フェルシアはその素晴らしさに感嘆するばかり。しかしそこへ素早く合いの手が入る。


「驚かせたと思うなら、遠慮して中で待っていればよかっただろうに」


 ライナスだ。カップを傾けつつ、しれっと己の妹を見返す。


「まあ…お兄様ったら。まさか私を邪魔者扱いですの?」


「突然現れてそれか?来るならもっと早く連絡してくれ」


 「邪魔者扱い」を否定しない言い様にステラが眉をひそめる。だがそれでも口調はよどみない。


「まあまあ…!なんてこと。フェルシア様、今のお聞きになりまして?こんな冷たい殿方を夫にしてはいけませんことよ」


「え…あの……?」


「あのな…。彼女に変なことを吹き込むな」


 溜息を隠さない口調。さっきから、ライナスのこんな態度は初めてだ。


「『変なこと』ですって?未来の夫がどんな人か見極めるのは当然のことです。ねえ?フェルシア様もそう思うでしょう?」


「だからやめろと言ってるだろう。彼女が困っている」


 対するステラも口を開けばかなり強気だ。ここぞとばかりにこちらへと首を傾げてくる。

 そうしてまた戸惑うフェルシアへライナスが助け舟を出す。ステラが現れてから、こんなやりとりの繰り返しだった。


 そうしてフェルシアがたじろぎつつ兄妹を見守っていると、今度はもっと予想外の話が始まる。


 はぁ…と言わんばかりのライナスが静かにカップを置く。


「…ステラ。本当にしばらくここにいるつもりか?」


「ええ。シーズンまで予定が空いたし、せっかくだからフェルシア様とお話してみたくて。…だめかしら?」


 瞠目どうもくするフェルシア。そこへすぐにライナスが申し訳なさそうに尋ねる。


「すまないフェルシア。ちょうど今話そうとしていたんだが……妹がしばらくうちにいてもいいだろうか?」


 期間は四月半ばまで。このようにやや騒がしくなるが、と説明されフェルシアは更に驚いた。

 まさか断りを入れられるとは思わなかったのだ。ここは彼らの家で、自分と姉は居候いそうろうにすぎない。


「そんな…ライナス様、私の許可など必要ございません。どうぞご随意に。むしろ私達がいることで、ステラ様にご迷惑をおかけするやもしれません」


「そんなことはないし、今優先されるべきは君達だ。全く気にしないでくれ」


 首を振る彼。それにも気後れしていると、彼は仕方なくといった風に話を決める。


「…では滞在を許可するが、妹のことで問題があればいつでも言ってくれ。すぐに対応する」


 それを受け、フェルシアもステラへと向き直った。


「ステラ様。恐れながら、私達姉妹がご一緒することになります。それでもよろしいのでしょうか?」


「ええもちろん。ぜひ仲良くしてくださいませね」


 そう言ったステラがたおやかに微笑めば、まるで穏やかな春陽のようで。

 本当にこの兄妹は似ている。眩しいほどに優しく、美しい。


「はい。こちらこそぜひ」


 気負いのない表情にフェルシアも頷き、それからは三人で、美しい兄妹を中心ににぎやかな一時を過ごした。



 花壇へ並んだつぼみが開くまで、あと少し。

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