22.真面目なアドバイス(?)
「ライナス!お前まだ結婚してないのか!信じられん!結婚はいいぞ、結婚は!恋人くらい作れ!好きな相手の一人や二人いやむしろ三人くらいいないのか?男なら…」
まだまだ続きそうな怒涛の大声。それを諫めたのは鶴の一声だった。
「おばあ様」
「ええ。…あなた!いい加減になさって!本っっ当にみっともない!!」
傍らの老年女性から叱責され、一方的にまくし立てていた人物はチュンッと静かになった。
そうして女性が頑強な腕を取り、「本当にごめんなさいね、公爵様。…行きましょうか、あなた?」と微笑めば「うん」と委縮した巨体が速やかに遠ざかっていく。
それを見送る暇もなく、今度はライナスの目前に深く下げられた茶色い頭。
「申し訳ありませんでした!」
「いや…」
「本当に本当に、申し訳ありません。祖父がとんだ失礼を申しまして…!誠にお恥ずかしいかぎりです」
「あれは我が家の恥です」と言い切るルルリエにライナスは苦笑した。
あの猛攻からこの謝罪まで。ここまでの流れを彼はすっかり慣れており、もはや一連の儀式だ。
「相当酔っておられたな。仕方ないだろう」
「ええと…言い訳にもなりませんが、祖母と和解したのが効いたのかと」
本当に申し訳ありません、とルルリエに再度謝られる。
今ライナスに容赦なく絡んでいたのは国軍の元帥、ミゲル・ガーランドその人だった。
貴族籍ではないというだけで、軍部では名実共にトップの存在。それに彼はライナスの剣の師であり、気さくに話しかけられるのも今更だ。
しかしそれが気になるらしく、ルルリエはいつも申し訳なさそうにする。知り合って十年経つが、相変わらず律義だ。
気疲れしたのか、はあ…と溜息をつく彼女を横目に、ライナスが壁時計を見ていると。
「……あの、聞いてもいいですか…?」
「ああ」
「…少佐、本当に今は恋人もいないんですよね?」
中々に率直な質問だ。
客観的に考えれば、今の騒ぎの後に尋ねるものではない。だが二人の間柄ではさほどの話題ではなかった。
「いないな。今はそんな暇もないのは知っているだろう」
「じゃあ好きな人は…あ、気になる人でもいいですよ?」
(なぜそこで身を乗り出す?)
すでに聞き飽きた、令嬢の親のような質問をライナスは訝しむ。
「急にどうした?はっきり言ってくれ」
「………もういいです。そこで『君のことが気になるんだ』とか、言ってみたらどうですか?」
「婚約者がいるくせに、なにを言う」
ライナスは彼女が婚約者と相思相愛なのを知っている。そんな睦言は間違っても言うわけがない。
そう反論すれば、隣の丸い頬があからさまにむくれた。どうやら酔っているのはルルリエもらしい。
「そうですけど…!…ああもう、そうじゃなくて。ライナス様……好きな子にそんな態度じゃあ、伝わらないですよ?」
もう会話の脈絡もなくて、眉を寄せる表情にライナスは笑った。ルルリエはやっぱりあの元帥に似ている。
すると彼女は目を半眼にさせて…。
「…笑わないでください。私は真面目に言ってるんですよ?」
「ふ…ああ、わかった。ちゃんと聞くから怒らないでくれ」
その後しばらく、ライナスはますますの謎理論で今夜のパートナーに責められ続けた。
笑い続けたせいで、最後には「あの娘のことで困っても、知りませんからね」とまで言われ、一体なんの話かと、余計に面白かったが。




