40話
翌朝、康一達は朝早くから村周辺の森を探索していた。
今回討伐するオークは基本的に昼過ぎから行動を開始する魔物だ。そこでライアットはオーク共が行動していない早朝に動くことに決めた。
「大丈夫ですか?」
「えっ?あっ、はい大丈夫ですよ!」
リフルが康一を気に掛ける。康一は大丈夫だと返すが、注意深く見ると手先などが震えているのが見える。
強い子だ、とリフルは思う。自分よりも2、3年下の少年が、人に頼りきるのではなく自分の力を尽くし事を成そうとする姿。
成る程、これは皆が力を貸すわけだ。こんなにも真っ直ぐな少年の姿を見れば、自分もやらねばと奮起する気にもなるだろう。
「そうですか。でも、何かあったら直ぐに言ってくださいね」
康一ははい、と返すが素直に言うことはないだろう。短い間だが誰かに頼りのを得意に出来るような性格だと理解している。
これは自分もいつも以上にしっかりせねばとリフルは気持ちを入れた。
「静かに。―――居たぞ」
前を歩いていたライアットが武器を構える。残りの三人も直ぐ様構え警戒をする。
「1、2、……全部で四体か」
視線の先には豚の顔をした二足歩行の魔物、オークが居た。
「こんな朝から起きてるなんて珍しいわね…」
「ああ、しかし寝起きなのか知らんが動きが鈍い。仕掛けるには絶好の機会だ」
「ま、準備運動には丁度いいかもね。康一、いけるわね?」
シータの言葉に康一は剣を握る手を強くする。
覚悟は決まっている。自分はやれるはずだ、自分がやるんだと。しかし体はその気持ちとは裏腹に緊張し体は強張る。
そんな康一の肩にポンと優しく手が置かれた。
「大丈夫ですよ。康一さんは目の前の事に集中してください。大丈夫、私達が必ず支えます」
リフルの言葉が優しく康一の中へと入る。
「ライアットさんもシータさんも私も、康一さんより戦闘の経験があります。だから康一さん、恐怖もあるでしょう、不安もあるでしょう。だけど、勇気を出して進んでください」
「――――っ!」
ああ、そうだ。ライアットさんも言っていたじゃないか、自分達がついていると。いつの間にか自分一人もやれねばと思っていた康一は、リフルの言葉で落ち着きを取り戻した。
「行けるな?」
「はいっ!行きますっ!」
「よし、仕掛けるぞっ!!」
康一の決意を確認して、ライアット達はオークへと駆け出した。
「!?」
「遅い」
襲撃に気付いたオークが迎撃しようと構えるが、そんなことはお構い無しにライアットは一撃で切り伏せる。
「―――!!」
それを見て残りのオークがライアットへと襲いかかるがレベルの差があるのだろうか、ライアットはオークの一撃を難なく防ぐ。
そして正面からでは倒せないと感じた一体が回り込もうとするが。
「そうはいかないってね。『ファイアーボール』!!」
シータにより放たれた火球をモロにくらい倒された。
他にも敵がいたことと仲間があっさりとやられた事により残りのオークは慌てだす。
「ほらっ!康一!チャンスは逃さず仕掛ける!」
シータの激を受け、康一はオークの後ろへと回り込み一気に仕掛ける。
「『エンチャント』!!」
剣は魔力を帯び輝く。康一は駆ける勢いそのままにオークへと斬りかかっていく。
「!?!?」
なんとか気付いたオークだったが最早何か出来るわけでもなく真っ二つに斬られる。
「っ!?わぁっ!?」
しかし康一はオークを斬った勢いでつまづいてしまう。そして最後の一体が康一へと仕掛けようと近づく。
「させません。生命を導く聖なる光よ、敵を捕らえよ――『バインド』!」
しかしそれはリフルが唱えた魔法によって阻まれる。
幾重もの光の輪についてよって身動きがとれなくなるオーク。
「康一!トドメだ!」
ライアットの言葉を受け、康一は直ぐに立ち上がり剣を振るう。
「やああああぁぁ!!」
雄叫びと共に放たれた一撃はオークを容易く一閃した。
ドサッと倒れたオークと同時に康一も膝を着く。
「ハアっ!ハアっ!ハアっ……!」
乱れる呼吸のまま、胸に手を当てる。今まで感じたことの無いくらいに脈打つ心臓の音と熱が、康一にこれが現実だと教える。
これが本当の戦い。ゲームやアニメ等で知ったものとは違い、文字通り己の命を掛けて繰り広げられるもの。
いくら頭では分かっていても、想像と現実の違いを実感した康一はしばらく立ち上がれないでいた。
「落ち着いたか?」
「……はい。なんとか」
そう語る康一の顔はまだ白い。本当なら一度引いた方が安全なのだろうが、そんな猶予はない。
「そうか、なら直ぐにでも動くぞ。本隊が近くにいる可能性がある」
「本隊?」
「ああ、どうやらこいつらは群れの奴等に食料を届けようとしてたみたいだ」
そう言ってライアットが指差す先には、頭を潰された動物が何頭か地面に転がっていた。
「あれを食わずにいるところを考えると、こいつらより上のオークがいる可能性が高い」
魔物は基本的に自分本位である。そんな魔物が目の前の獲物を食わずに運んでいるならばこいつらは群れのしたっぱで、本隊へと持っていく途中だった可能性がでてくる。
「こいつらがこの時間に行動している事を考えると、本隊の方も動き始めている可能性もある。ならば早いこと本隊を見つけ動きの鈍いうちに相手をしたい」
どのみち戦闘をしなければならないのならば、可能な限り自分達に優位な状況で行いたいとライアットは言う。勿論シータとリフルも同じ考えだ。
康一もライアットの言葉に賛同し、四人は森の奥へと進んでいった。




