39話
ウォレスを出立して二時間程、康一達は街道を道なりに北へと進んでいた。
「ところで確認なんですが、私達は北のソイル村へと向かってるのですよね?」
「そうだ。情報によればソイル村周辺ではコボルトが何度か出没しているのだが、ここ最近ではその姿を見かけなくなりその代わりにオークが現れるようになったらしい」
「コボルトは狩られたの?」
「いや、冒険者ギルドにも確認をとったが討伐の方向はない。そしてコボルトを他の場所で見たという話しもない」
「あの…、一緒にいるっていう可能性は?」
ライアット達が話している中に康一は疑問を投げ掛ける。
康一的にはゲームなどで魔物達はいろいろな種類の魔物が襲ってくるものだと思っていた。
「なくはないが、可能性は低いだろう。魔物達もそれぞれに少なからず同族意識というものがある。そして違う魔物同士が縄張りを争う時は弱い方が去っていくのが基本だ」
「でも周辺には逃げたコボルトの姿はなく、討伐された情報もない」
「となると可能性は二つ。オークに狩られたか、オークの群れに混じったか、だ。そしてなぜ康一の言った事の可能性が低いと言ったのは、単なる群れでは異なる種族の魔物を纏める事が出来ないからだ」
いくら同じ魔物という括りになっていても、魔物にとっては自己の種族の存在がなによりも優先される。徒党を組んだとて、弱い者に分け与える食いぶちなど微々たるものだろう。
ならば弱い魔物は自分達の食いぶちを確保するために、強い魔物と争わず次の縄張りを求めるのが一般的だ。
「――だがしかし、そんな魔物達を一緒くたに纏めることが出来る存在がいる。それが"魔族"だ」
「魔族……」
「魔族が生まれる原因は様々だ。生まれながらに魔族であるもの、人を沢山屠った事で魔族になるもの、環境によってなるものもいるらしい。そして、魔族になったやつらはすべからく普通の魔物とは一線を越えた強さを持つ。単純に力が強くなる、特殊な能力を身につける、という具合にな。そんな存在だからこそ異なる種族の魔物でも纏めることが可能になる。それと魔族となったものは例外なく人の言葉を喋るようになる。まぁ程度の差はあるが」
ライアットから語れる魔族の驚異に康一は息を飲む。
「確かにいずれは倒さねばならない存在だ。しかし強力な存在ゆえに数も少ない。幸いソイル村には深刻な被害はまだ出ていないらしい。これが魔族が率いているのならこうはいかないからな」
不安がる康一を安心させようとライアットは続けた。
意気込んでいる康一には悪いが今必要なのは、戦いに勝利することで得られる自信だ。
今回が康一の初陣であるゆえに、康一にも他の者達にも隠しているが極力危険が高くならないような魔物を選んだのだ。
(オークは攻撃的な性格だ。コボルトの逃げた形跡が無い以上殺したとみて間違いないだろう)
しかし先ずはともあれ村に着かねばどうにもならない。ライアット達はソイル村へと急いだ。
村にたどり着くと迎えてくれたのは、鎧を着たローランド王国の兵士だった。
「ライアット将軍!お待ちしておりました!」
「ご苦労。早速で悪いが村長の元へ案内してもらえるか?」
「了解しました。こちらへ、自分が案内します。お乗りになられた馬はそちらの者に」
促されるまま康一達は馬を託し、案内を引き受けた兵士へと続いていった。
「こちらです」
案内された小屋の中にはソイル村の村長とそれに連なる人達が座っていた。村長達は康一達が入って来たのに気付くと慌てて立ち上がるがライアットがそれを制し、康一達はそれぞれ席に着く。
「この度はこの村まで来てくださりありがとうございます。まさか勇者様達にお越し来てもらえるとは思わなんだでした」
「あっ、いえそんなっ頭を下げなくても」
いきなり深く頭を下げた村長に慌てる康一。ただでさえ人と話すのは得意ではないのに初老の男が自分に対して頭を下げるものだから対応に困惑する。
「村長、頭を上げてください。礼ならば討伐が終わった時に改めてお受けいたしましょう。先ずは状況を整理させてもらいたい」
すかさずライアットが助け船を出す。将軍という立場上このような場面はお手の物だ。
村長は頭を上げると、今の状況について話し出した。
「オークが出るようになったのは一週間程前です。それまでは少数のコボルトが幾度か出ておりましたが、その度に冒険者ギルド等に依頼を出して解決しておりました」
「なら今回のオークはギルドの方に依頼を出さなかったのは?」
「その時はたまたま警戒の為に各村を回っていた騎士団がいたからな。その者達からの報告を受けて俺達がここに来たわけだ」
シータの疑問にライアットが答える。
「えぇ、私達もその時は本当に幸運でした。丁度冒険者の方々がお帰りになった後でしたので、村の者に被害が及ばず助かりました。おっと、失礼。先ずは話しの続きでしたな――――」
村長の話しを纏めると、オークが出没してからコボルトの姿が見えなくなったこと。オークが住み着いた付近は、普段村の者が野生の獲物を狩りに行く場所であること。もしオークが狩場の動物を狩り尽くした場合、村へと襲ってくる可能性があること。
状況を整理したライアットはオークの討伐を村長に改めて約束し、宿場へと案内してもらった。
「ふぅ」
「少し落ち着いたか?なら明日のことについて話し合うぞ」
そして、ライアットを中心として翌日のオーク討伐の動きについて話し合う。
「と言っても、動き自体は特別なことはなにもない。俺と康一が前衛、シータとリフルが後衛。各々の役割を果たせば問題のある相手ではない」
「ま、所詮はオークだものね。騎士団の報告を聞く限りじゃ高レベルの個体がいる可能性も少なそうだし」
「それでも、あまり無茶はなさらないようにして下さいね。何かあれば直ぐに回復はしますが、怪我を負わないに越したことはありませんから」
戦いを前にしても三人はさほど緊張する様子はない。ライアットは当然だとして、シータとリフルでさえ同じような感じだ。
(ううっ、どうしよう。震えて、きたっ…)
体が震える。頭では分かっていても、明日には魔物相手に命の取り合いをしなければならない現実が徐々に康一へと襲ってくる。
「――そうだな、特に康一。今回お前にとって初めての実戦だ」
震える康一に気付いたライアットが声を掛ける。
「不安だろう。緊張もしているだろう。だが安心しろ、俺達がついている」
康一を安心させるように優しく、立ち向かえるように強く、ライアットは言った。
「―――はい」
そんなライアットの言葉に、康一は真っ直ぐに返す。
震えは、もうおさまっていた。




