38話
ウォレス城下町の大通り。その道の左右に大勢の人達が押し合うように集まっていた。
「うっわ凄い人数。よくこんなに集まったなー」
「それだけ期待が大きい証拠でしょ?にしても本当に多いわね」
勇者一行の姿を見ようと来たクーガー達だがあまりの人の多さになかなか前に進めないでいた。
「もうちょい前に行ければだいぶ見やすくなるはずなんですがねぇ」
近くで見たいのは誰も同じ気持ちなので皆我先にと詰めていく。
「これ以上はもうキツイかしら」
「まあ、ここでも充分見えるでしょ。お前もそれでいいか?」
「ああ」
流石にこれ以上人をかき分け進むことが難しくなって足を止めたその時。
「おいっ!来たぞっ!」
誰かがそう言った瞬間歓声が上がる。
「うおっ!?」
あまりの歓声の大きさに耳を塞ぐソーマとルセア。しかしクーガーは気にすることなく勇者が来る方向を見つめていた。
ウォレス城内。康一達はそれぞれ馬に跨がり後は出発するだけにまで準備を終えていた。
「ううっ。緊張してきた」
今日に至るまで心の準備はしてきてたものの緊張するものは緊張する。康一は胸に手を当て深呼吸を繰り返す。
「いつまでやってるの?ほら、もう出発するんだから胸を張る!」
見かねたシータが康一の背中をバシバシと叩く。いきなりやられて少しむせるが、シータの言うとおりだと気を取り直す康一。
「準備は出来たか?」
ライアットの言葉に全員が頷く。それを確認したライアットは康一を先頭にして城下町へと走り出した。
「うわぁ……」
城門を抜け城下町へと入っていく。今まで城の中で過ごしていた康一にとって見るもの全てが新鮮で辺りをキョロキョロと見回している。
「感心するのはいいが、もう少し顔を引き締めておけよ。これは町の者達に顔を見せる意味もあるからな」
ライアットの言葉に康一は慌てて表情を引き締める。幸いまだ城下町に入ったばかりなので大丈夫だったが。
そして少し進み大通りへと入っていく。
「来たぞっ!!」
観客の誰かが言ったその声を切っ掛けにワァッ!!という歓声が一斉に上がる。
「――――っ!?」
いきなり上がった歓声に驚くもなんとか落ち着いた表情を維持した康一は、内心心臓をバクバクさせながらも大通りを進んでいく。
「勇者様ーっ!!頼んだぞーーっ!」
「あんたが頼りだーっ!」
周りから上がる応援の言葉。それを聞く度に手綱を握る手に力が入る。
「えっ、勇者様って先頭のあの子!?後ろの鎧を着込んだ人じゃなくて!?」
「大丈夫なのか?だいぶ幼く見えるが」
「大丈夫だって!後ろにいるのはローランド王国一の将軍、ライアット様だろ?そんな人も付いているんだ問題ないさ!」
勿論全ての人が康一に期待出来る訳ではない。なかには今のように康一の姿を見て不安がる者もいる。
「――――っ」
今度は歯を食い縛る。分かっていたことだ、自分が逆の立場でもそう思うだろう。そんな人達が後ろに続いているライアットに期待をするのも当然のことだ。
でも、だからこそ自分は頑張らねばならない。自分はやれるんだと、皆の期待に応えられるんだと、だから少しでもいい、安心してくださいと。
尚も歓声が響くなか大通りを進んでいく。
雰囲気に少し慣れた康一は、表情に気をつけつつも周りを少し見回す。
「―――――!」
「――――――!」
前の世界でも両親にあまり心配を掛けまいと、無意識の内に顔色を伺うのが出来るようになった康一。右を見ても左を見ても向けられるてるのは期待だったり、応援だったり、心配だったりと様々な気持ちが康一へと向けられていた。
「――?」
そんな人達の中になぜか目を惹かれる人がいた。
目付きの鋭い男性。ハンマーらしき物を背負っているのを見るに冒険者と思われる人物。
(なんだろう?)
理由は分からないが目を離せない。その男性が自分に向ける視線が周りの人とは違うからか。
少し、ほんの少し注意をその男性に強く向ける。
視線が合う。その時間は僅か。
「康一?どうした?」
その時、後ろにいたライアットから声が掛けられる。
どうやら無意識の内に歩みの速度を遅くなっていたようだった。
「あ、いや何でもないです」
直ぐに速度を戻す。そして先程の男性がいた辺りを見るが、すでにその人物はいなかった。
(なんだったんだろう)
あの人から向けられたのは、康一の勘違いでなければ感じたのは申し訳なさ。
勿論その感情を向けられたのは初めてではない。しかしそれはウォレス城にいて、康一と交流があり、人となりを理解したライアット達のような人達だった。
だからだろうか、初めて会うであろう人物にそのような思いで見られていたと思うと気にならずにはいられなかった。
(いけない、それよりも先ずは魔物を倒さなくちゃ)
疑問は消えないが自分にはやらねばならない事がある。康一は先程の人物の事を頭の片隅に置いて、大通りを通り抜けウォレスを後にした。
ソーマとルセアを置いて一人クーガーは人ごみを抜けギルドへと向かう。後ろからは未だに人々の歓声が聞こえ、今からでも向かおうとする人達とすれ違う。
「………」
一本路地に入る。まだ歓声は聞こえるが、人通りも少なくなり大分静かになった。
「――はぁ…」
少し落ち着いたのかため息がこぼれる。記憶に残るはこれから討伐へと向かう勇者の姿。
「―――」
自分はどこか期待していたのかもしれない。いくら神が自分に手を貸してやってくれと頼んでも、勇者として喚ばれるのだから幾らかはやれる者が喚ばれるのだと勝手に思っていた。
「まだ…子どもだったな」
しかし実際自分の目で見てみれば、その姿は勇者の肩書きを背負うにはあまりにも幼く見えた。
視線が合った時に見た勇者の眼、どこまでも純粋に見えて真っ直ぐな瞳。
「―――っ……」
ズキリと胸の奥が痛む。ここに来るまでに整理したはずの贖罪の念がまた痛みだす。
神は知っていたのか?喚ばれるのがあの少年だと。ならばなぜその事を自分に伝えなかった。知っていればもしかしたら自分は―――
「―――っ!!」
ドン!と民家の壁に拳を打ち付ける。
何を今さら、自分は言ったはずだ、荷が重いからと断ったはずだ。だからこそ力を手放したのだ。それを今になって"たら""れば"の話しを考える自分に腹が立つ。
ふと後ろを振り替える。もう見えるはずもない少年の無事を身勝手ながらも思い、クーガーはギルドへと向かっていった。




