25話
「おっ、いたいた。あれがヨダ爺だ」
そう言ってソーマが指差す先には男の冒険者に魔法を指導している一人の老人がいた。ちょうど終わったところなのだろう、額から汗を流している冒険者が老人に礼を言うとギルドの中へと戻っていった。そして入れ替わるようにしてクーガー達はヨダ爺と呼ばれる老人へと近づく。
「よう、久しぶりだなヨダ爺。相変わらず元気そうでなによりなにより」
「なんじゃソーマか。お前さんが会いに来るとは珍しい。ん?後ろの男は誰じゃ?見ない顔じゃのう」
ヨダの疑問にクーガーは一歩前に出て答える。
「クーガーだ。ギルドにはここ最近入ったんでな」
「クーガー?……おおっ、お前さんがシグマが言うとった生意気な新人か!なるほど確かに小生意気そうな眼をしとるわい」
カッカと笑うヨダ。クーガーは取り敢えずこの後シグマに問い詰めることを決め、ヨダが笑い終わるのを待つ。
「おーいヨダ爺そろそろいいかー」
「ん?おおそうじゃの。それでその新人の坊主を教えればいいのかの?」
「話が早くて助かるぜヨダ爺」
「よし、なら先ずはお主のステータスを見せてくれんか」
ヨダの言葉に従いクーガーはステータスを提示する。ヨダはそれをまじまじと見ながらふむ、と頷く。
「まぁコレなら問題ないじゃろ。さてクーガーや、お前さんの属性は土とあるが魔法を使ったことは?」
「何度か挑戦したが成功したことはない」
「ふむ。なら先ずはお前さんがどういう風にやるのかを見せてもらおうか」
促されるままにクーガーは少し距離を取り、手の平に魔力を集中させる。そして地面に向けて手をかざし叫ぶ。
「『ストーンエッジ』!!」
魔法名と共に地面から小さな石の破片が宙に舞い、クーガーの前方に放たれる。しかし放たれた破片は小さくまた勢いも弱い。魔物を倒すどころか傷を負わせるのも難しいほどに。
「ッ……、ハァ…ハァ」
一回放っただけなのに多量の疲労がクーガーを襲う。あの程度の威力でこれだけ疲れるのだから全くもってわりに合わない。クーガーは息を整えながら改善点を聞こうとヨダの方を向いた。
「……クーガーよ、お主このやり方は誰に習った?」
「?魔法はこうやるものだろう?」
クーガーの返答にヨダは頭を抱える。別にクーガーは何も間違った訳ではない。確かに魔法の練度がある程度あれば初級の魔法程度ならば詠唱を破棄し、名を叫ぶだけでも発動は出来るだろう。そう、ある程度の練度があるという前提での話だ。そうでなければそもそも魔法は不発に終わる。しかし目の前の男はきちんと魔法を発動出来たことが無いと言っていたのに、弱々しいものではあったが詠唱なしで魔法を発動させた。そのちぐはぐな部分がヨダを悩ませる。
(目の前の男から嘘をついているような気は感じられんしの。まぁ悩んだところでやることは変わらんか。面倒なのはシグマが全部やってくれるじゃろう)
そもそも面倒くさいのはゴメンじゃしな。とヨダは頭を切り替える。
「おほん。まあええじゃろ。取り敢えず最初は基礎の基礎から教えるからの、しっかり聞いておれよ」
(面倒だからって今のクーガーの魔法についての疑問を投げたな)
ソーマの視線も何のその。ヨダはクーガーに近づき説明を始める。
「魔法を発動させるにはただ魔力を込めて放てばいいというものじゃない。確りとした詠唱を唱えねば威力は落ちるし、果てにはただ魔力を消耗して不発に終わることもある」
ヨダの言っていることはクーガーも理解できている。前の世界でも大規模な魔法を放つには相応の詠唱をしなければ発動は出来なかった。しかし初級の魔法には詠唱は存在せず魔力を込めて魔法を叫べばそれだけで発動出来ていた。この世界でもさっきのように発動は出来るが何とも言えない違和感があり、十全に発揮出来ずにいた。
「お主はさっき詠唱なしで魔法を放とうとしていたがそれでは上手く発動出来ん。先ずは魔力の回路を切り替えねばな」
「魔力の回路?」
「さよう。武器に魔力を込める『エンチャント』と魔法では使う魔力の回路が違うんじゃ。お前さんはその切り替えが上手くできていないからあのような形になってしまうんじゃ」
「ならどうしたらいい?」
「遥か昔より回路を切り替える切っ掛けとなる言葉がある。それぞれの属性に合わせて少し言葉は変わるが大まかには同じじゃ。お前さんの属性は土だから――」
そう言ってヨダはクーガーから少し離れ手の平を構える。
「生命を育む豊かな大地よ、敵を撃ち抜け――『ストーブラスト』」
言葉と共に地面が少しずつ削れヨダの前方に幾つもの鋭い石の破片が宙に出来上がり、勢いよく放たれた。
「とまあ、このように回路を切り替える言葉、続けて発動させる魔法をイメージさせる詠唱、これらをきちんとこなして初めて十全に魔法が発動出来る」
「魔法を使うにはイメージが必要不可欠じゃ。その魔法がどのようなモノなのかを明確に想像するために言葉を紡ぐのじゃ。それが詠唱となる」
ほれ次は実践じゃ、とクーガーを促すヨダ。クーガーは意識を集中させ、先ほどのヨダの行動に習い詠唱を行う。
「(先ずは魔力回路を切り替える言葉)生命を育む豊かな大地よ――」
その瞬間クーガーの中で何かがカチリと切り替わる音がした。その感覚に驚きながらも言葉を紡いでいく。
「(次は放つ魔法を明確にイメージできる言葉)敵を撃ち抜け――」
さっきまではただ放出していた魔力が言葉と共に明確な形を作る。土が削れ石の破片となり宙に浮く。
「『ストーンブラスト』」
そして完全な形で魔法が発動する。最初にやった時とは比べるまでもないほどの出来にクーガーは確かな手応えを感じた。
「ほれ。出来たじゃろう?そしてその魔法を使い続け自分のイメージを一寸のくるいなく発動出来るようになれば、ようやく詠唱部分を無くしても発動が可能になる。若干威力やら効果は落ちるがの、このようにな――『ストーンブラスト』」
そして唱えられた魔法は先ほどよりも破片が少なく、勢いも多少ではあるが落ちていた。
「こんな感じにな。まぁ最初は魔力値が低いからむやみに戦闘中に連発せずに安全な場所で修練するのがいいじゃろ。お前さんも疲れがあるじゃろう?」
ヨダの指摘通りクーガーは肩で息をしている状態だ。これ以上はやらないほうがいいだろう。自分の状態を自覚しながらも、ようやく魔法が使えた事実が疲労感を上回っていた。
「礼を言う。アンタのおかげでようやく使える手札が増えた」
「カッカ。なあに別構わんよ。少しでも成長してくれればそれだけで魔物との戦いで死ぬ可能性が減る。お前さんみたいな若いモンにはこれからの時代を引っ張ってもらわないといけないからの。これはお前さん達より長く生きてきた者の役目じゃよ」
魔物との戦いが激しくなるなか、少しでも冒険者の危険が減るならばと。そう語るヨダの目は優しさに満ちていた。
「さてお前さんはもう良いとして。ソーマ、次はお前さんじゃ」
「えぇ!?いや俺はもう必要ないでしょ?ほらある程度の魔法は使えるし……」
「全くお前はまた向上心のない言葉をつく……。せっかく素質はあるのになんと勿体ない。ほれさっさと来い。ついでにその性根も直してやろう。おっと、クーガーよお前さんは少し離れてしっかりと観ておれ。観るのも修練の一つじゃ」
分かった、と返し距離を取るクーガー。ソーマは文句を垂らしながらも観念してヨダの訓練を受けた。
「だあぁぁあっ!!もう無理っ!もう魔力ないし集中切れてるしもう終わりにしましょうよおぉお!?」
「何を言っとるお前さんならまだ出来るじゃろうが。どうせ今は依頼も受けてないのだろう?なら余力を残さず全力でやらんかい!」
「ちくしょう…。暇だから案内しただけなのにぃ……、あんまりだああぁぁああ!!」
訓練はソーマが魔力を使い果たして動けなくなるまで続いた。




