26話
「シグマさん、この前頼まれた調査の報告書が来ましたのでお持ちしましたよ」
「おおそうか。助かる」
受付嬢が持ってきた報告書を受け取り直ぐに眼を通す。内容は以前クーガー達が受けた依頼の調査だ。クーガーの話しを聞いて少し異変を感じたシグマは調査等が得意な冒険者を選び、戦闘があった付近を調べてもらっていた。
「こいつは……ちと不味いか」
報告書には付近の森に数体のゴブリンを発見し、更に詳しく調べたところ近くに群れをなした集団を発見したという。そしてそれはその集団は移動しているようで、その進行先には村がある。このままいけば数日の内に村へとたどり着いてしまうだろう。
「参ったな。ここ数日は魔物がらみの依頼が多くて大半が出払っているっつうのに……」
今日も朝イチからほとんどの冒険者が依頼を受けて出発している。しかしこのままゴブリンを放っておく訳には勿論いかない。シグマは受付嬢に手透きの冒険者は残っていないか尋ねた。
「えっと、パーティーを組んでいる人達はほとんど出払っていて……、後は普段ソロの人達ばかりですかね」
「そうか、ならそいつらに依頼を出すしかないか」
ある程度多数の魔物を相手にするには普段から連携がとれているパーティーのほうが安心なのだが、この際仕方がないとシグマは緊急の依頼書を書き始める。すると受付嬢は何か思い出したようで
「あっ!そういえばパーティーで残っている人達が確か一組いましたよ!」
そして出された名前を聞いたシグマは何とも言えない表情をした。
ギルドの広間では職員から緊急依頼があるので手の空いてる冒険者は至急集まるようにとの言葉を受け、冒険者が集まっていた。
「緊急依頼?」
「そう。ギルドマスターからみて直ぐ様対処しなければならない事態になった時に出るものよ」
「おいマジかよ、今ほとんどの奴ら居ないんだろ?ちょっとヤバくないですかね……」
「そんなの話しを聞かないと分からないでしょ。ほら来たわよ」
不安がるソーマに対しいつも通り自然体なルセアがそう言うと、受付嬢と共にシグマがやって来た。
「先ずは急に集まってもらって悪いな。早速だが今回の緊急依頼について話しをさせてもらう」
そしてシグマは今回の経緯を話し始める。ある依頼の報告で感じた違和感。そして調査をした結果、緊急依頼を出す必要性があることを。その話しの最中ギリッという音が聞こえ、クーガーは音の方を見る。音の正体は拳を力強く握りしめているルセアだった。その眼はいつにも増して鋭く普段とは違い剣呑な雰囲気を纏っていた。しかしシグマの話しの腰を折るわけにもいかず、ルセアのことを後回しにすることにした。
「そこでお前らにはゴブリンの討伐に向かってもらいたい。普段ソロで決まったパーティーではない者が多いだろうが、今回は事が事だ。なるべく共闘の経験がある者同士で即席だがパーティーを組んでもらいたい」
その言葉に冒険者達は直ぐ様行動に移る。既にパーティーであるクーガー達はそれが終わるまで待っていた。そして程なくして複数のパーティーが出来上がった。
「よし、それじゃあ確認するぞ。五人のパーティーが一つ、四人が二つ、そして三人組の固定のパーティーが一つ」
人数とメンバーを確認したシグマは次に作戦内容を説明する。
「先ず部隊を三つに分ける。一つのパーティーは村へと先行している調査隊と強力して、ゴブリンの襲撃に備えろ。もう一つのパーティーは街道周辺の警戒、場合によっては遊撃も頼む。そして最後、残りの二つのパーティーでゴブリンを討伐する。それぞれの割り振りだが――」
そしてそれぞれのパーティーを割り振る。支援や守備が得意な四人のパーティーは村の警護へ、身軽な装備をしている者が多いもう一つの四人組のパーティーを遊撃へ。そして一番人数の多い五人組のパーティーとクーガー達がゴブリンの討伐へと割り振られた。
「この編成でいこうと思う。何か意見は?」
「はいっ!自分は遊撃部隊に異動を希望しますっ!!」
「却下だバカ。クーガー、ルセア、そいつの首根っこを掴んででも連れていけよ。他に意見は?……なさそうだな。それでは!これより緊急依頼を開始する!各部隊速やかに準備を済ませ行動に移ってくれ、頼んだぞ」
オォー!と応える冒険者達。そして直ぐ様装備や道具を整える為に行動に移る。クーガー達は同じ討伐部隊に割り振られたパーティーと話しをすべく集まった。
「よう。なんだか大変な事になっちまったがお前さんらがいるならなんとかなりそうだな」
無精髭の冒険者ライアンは髭をさすりながらそう言った。クーガーも何度か一緒に依頼をこなした面子を見つけてコレならゴブリン相手なら問題はないだろうと考えた。するとどこか余裕のない様子のルセアが口を出す。
「何してるの?さっさと行くわよ。……早くゴブリンどもを倒さないと」
「シグマが話している時から少し様子がおかしいと感じたが、何かあるのか?」
「……こうして話している間にもゴブリンは移動しているわ。集団はまだかもしれないけど先行しているヤツだっているかもしれない」
「それはそうだが…」
「私たちは戦えるから感覚が鈍っているのかもしれないけれど、もう一度よく考えて?普通の人達は魔物に襲われたらほとんどの人が何も出来ずに殺されてしまうのよ?今この一秒一秒もその危険性は増していく、だからこそ急がなくちゃいけないのっ……!」
強く訴えるように語るルセアにクーガーは勿論、ライアン達も何も言えずにいた。少ししてハッと我に返ったルセアは自分を落ち着かせるように頭を振った。
「ごめんなさい、私ったら少し頭に血が上ってしまって……、でも今言ったのは私の本心。だからこそ少しでも早く行動したくて…」
「そうだな、村の人達はまだゴブリンが迫っていることを知らないかもしれない。まともな準備が出来ていない状態で万が一でもゴブリンが村に到達したら身を守ることすらままならないだろうな」
シグマの話では群れをなせる程の数のゴブリンがいると言っていた。いくら調査隊の冒険者がいても完全にゴブリンを捌ききれる保証はない。ここに来てまだ認識が甘かったかとクーガーは反省する。
「分かった。なら手早く準備を済ませ向かうとしよう。ライアン、すまないがアンタ達も早めに準備をしてくれるか?」
「あいよ。そうだよな、これは緊急依頼だったよな。悪いなルセア、俺たちちょっと意識が甘かったわ。直ぐに支度をするから東門の前で待っててくれや」
そう言ってライアン達は駆け足でギルドを後にした。ルセアの話しを離れた場所で聞こえていた他のパーティーもそれに続く。
「あの、その、ごめんなさい私ったら感情的に……」
「別に良いんじゃない?お前さんが言った事は間違いなく正しいんだし」
「ああ。今回は俺達が事態の緊急さを甘く見ていたからな」
二人にそう言われ、ルセアはいたたまれなくなったのか「私も準備をしてくる!」と走ってギルドを出ていった。
「さてそれじゃあ俺は家に荷物を取ってから向かうわ」
そう言い残しソーマも走り出した。残ったクーガーも準備をしようとギルドを出ようとした。しかし少し気になることがあり、その場にまだ残っていたシグマへと声を掛ける。
「なぁ――」
「ルセアの事…だろ?」
「やっぱり何か知ってるのか」
「………これはあいつ自身の問題だ。本当はあいつ自身の口から語られるべきことなんだがな」
「そうか」
「聞いていくか?」
「いや、いい。あいつが何かを抱えている事が分かっただけで、それでいい」
ルセアが語った言葉。最初は騎士の娘だからこその正義感で放たれた言葉と思っていたが、それにしてはどこか追い詰めたれたような表情で語った事がクーガーには引っ掛かっていた。そして何か事情があると言ったシグマ。その事を知ったクーガーはそれだけでいいと言い放つ。
「抱えている事情なんざ人それぞれだ。それが良いものだろうと悪いものだろうと、ソレは本人だけのものだ。それを無理に聞き出す趣味なんざない。その事情を知る時は本人が自分の口から語った時だけだ」
現に自分自身がそうなのだから、ルセアに話せと強制する事はない。
そう言ってギルドを後にしようとするクーガーにシグマは呼び止める。
「これから討伐に向かうお前に言う言葉じゃないが、ルセアの事を頼む」
親友の一人娘を贔屓するような事になるがそれでもコイツならばとシグマは頼む。
「ソーマの時にベリスにも言ったが俺自身が出来る範囲でだ。…過度な期待はするなよ?」
「やるっていう言葉で充分だ。改めて頼むぜ」
それにクーガーは手を挙げて応える。
なにか今回は一筋縄でいかない予感を感じる。せめて準備は怠らないようにしなくてはと、ギルドを後にした。




