27話
目的地の街道へと向かう馬車の中、クーガー達は装備や道具の最終点検をしていた。そんな中ルセアは物思いにふけっており、顔は俯き眼を閉じていた。
暗い意識の中で声が響き渡る。
――ねえ!どうしてよ!?どうして助けてくれなかったの!?
(ああ…またこの場面なの……)
――何でもっと早く来てくれなかったのよっ!!なんでっ……!なんでよっ……
目の前では小さい少女が涙を流しながら甲冑を纏った騎士団と思われる人物に問い詰める。対する騎士は沈痛な面持ちで唇を噛みしめたまま何も言えないでいた。その様子を見て少女は一際大きな声を上げる。それをまだ幼い自分は母親の背中から顔を覗かせて見ていた。
(もうヤメテ…、あなたの気持ちは分かるわ。けど皆も全力を尽くしたの。お願い、もう責めないで……)
この言葉が届かないことは分かっている。今見ている光景は過去の出来事で今さら何も変わらないことも。それでも――
「――ア。ルセア、どうした?」
自分の名前を呼ぶ声でルセアは我に返る。
「あ、れ?私?」
「何かあったか?少し震えていたようだが」
クーガーの言葉に自分の体がいまだに小刻みに震えているのに気づく。ルセアは差し出された手拭いを受け取り体の汗を拭う。
ベタついた汗を拭い、気持ちが落ち着く。
「ありがと…」
「礼はいい。本当に戦えるのか?」
「……勿論よ。ここで外したら絶対に許さないから」
拳を握りしめ、クーガーをキッと睨む。その眼には強い決意が現れていた。
「……分かった。だが戦闘中は俺の指示には従え、これが条件だ」
ルセアの調子に不安を覚えるクーガーはせめて目の届く、声が届く範囲で戦わせようとした。
「了解よ」
「そうか、ならもう少しで到着する。準備を済ませておけ」
クーガーはそう言ってライアン達の元へと向かった。ルセアは道具袋の中身を確認し、手甲を付け来るべき時に備えた。
(大丈夫。今回は先回りしてくれる人達がいる。だから私は村に一匹たりとも行かせないように全部潰すだけ)
もう二度とあんな思いをするのもさせるのもゴメンだと、ルセアは強く拳を握りしめる。
「着いたぞっ!」
御者の言葉と共にクーガー達は馬車を飛び出していく。村へと先行してもらう部隊はそのまま進み。遊撃の部隊は周りの警戒を、もし他に通る者がいたら巻き込まれないように注意しなければならないからだ。そしてクーガー達は全員の準備が完了したのを確認し、街道横の茂みを掻き分け森へと入っていく。
「このままこっちの方で良いんだよなっ?」
森の中を駆け抜けながらソーマが尋ねる。事前に調査をしたとはいえ相手は魔物、予想外の動きを取ることも勿論ある。
「予定通り動いているのを願うしかないだろ」
「いやまぁそうなんだけどさ……」
「喋っている暇があったら足を動かすっ!」
前を走るルセアが一括する。その言葉にいつもの余裕は感じられなかった。
「お前も少し落ち着け。気持ちは分かるが一人で先行しても仕方がない。それにこれ以上早く走ればライアン達は追い付けなくなる」
そう言って後ろを指差すクーガー。そこには少し離されながらも走るライアン達の姿がある。
「あの装備じゃ仕方ないよなー。普通はお前さんももちっとしっかりとした装備をするべきなんだけどな」
「動きづらいから却下だ」
「さいですか」
そう、ライアン達とクーガー達の速度の差は身に付けている装備によって生じていた。ライアン達は各々魔物との戦闘に備え前線で戦う者は鉄の鎧や盾など、弓や魔法を使う者でも動きの阻害にならない程度の装備をしている。後の者達はライアンら前線組に合わせているのもあるのだが。
対するクーガー達は、後方から投擲や魔法で援護するソーマは勿論、素早い動きで近接戦を行うルセアは軽装備であるのは問題ないのだが、前線でハンマーという長者を振るうクーガーですら革の鎧と革の手甲しか装備していない。
理由は今さっき言ったように"動きづらいから"という理由のみ。ソーマに限らずライアン達も今は慣れてしまっているが、当初は驚いていた。クーガーにしてみれば、昔から一対多数の戦闘をしていたのだから相手の攻撃をいかに捌いて立ち回るかとやっていたので、今さら重い装備を付けようとは思わなかった。
「~~っ!」
理由は分かってる、でも自分としては一刻も早く向かいたいと思っているルセアは口を噛みしめ唸る。それを見てクーガーはため息をつく。
「――分かった。ならソーマ、悪いが少しだけ先行してくれるか」
「はいいぃ!?いやなんで!?」
「!待って!それなら私も…!」
「駄目だ。お前はこのままの速度で走れ。今のお前を先行させるわけにはいかない。ソーマ、先行といっても少しだけだ。お前は気配察知の補助スキルがあるだろう?それでゴブリンがいたら教えてくれ」
有無を言わさず言いきるクーガー。ソーマはルセアの様子を見てしぶしぶながらも納得をしてクーガー達の前方へと先行した。
「なんでよ…」
「それすら分からないか?」
その言葉にルセアは二の句を出せない。本当は分かっている。今の自分が先走ったところでゴブリンと遭遇したらクーガー達の到着を待たず戦闘を仕掛けることだろう。だから今はクーガーの言うとおりにするしかなかった。
程なくして先行していたソーマが戻ってくる。しかしその様子はどこか慌てた様子だった。
「まずいぞクーガー!敵さんの数も多いがそれよりもヤバい事があるっ!」
「ヤバい事?」
「アイツらの集団の中に一体にトロルがいやがったっ!!」
告げられた事実はクーガーの予想を上回るものだった。




