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23話

「ハァっ!!」


 素早い踏み込みでゴブリンとの距離を詰めルセアは相手の顔面目掛けて拳を振り抜く。『エンチャント』により魔力を帯びた手甲が的確に突き刺さり、頭蓋を砕く感触が手甲越しに拳に伝わってくる。


(良しっ!まずは一体、体も軽いしこれなら楽勝ね)


 吹き飛んだゴブリンを一瞥し、次の標的を見据え直ぐ様行動に移る。


(相手は今ので動揺してるみたいだし、このまま押しきるっ!)


 体制を立て直す猶予など与えるつもりはない。コイツらを倒すのに下手に時間を掛ける必要は全く無い。ルセアは拳を強く握りしめ、近くにいた二体目のゴブリンに殴りかかる。

 一体目と同じように素早く相手との距離を詰める。相手のゴブリンは動揺しながらも手に持つ得物を振るいルセアを近づけないように抵抗する。


「甘いってのよ!」


 それを上体を前に倒して躱し、ゴブリンの腹に拳を打ち込む。体がくの字に折れ曲がったゴブリンの顎に今度はアッパーを放つ。


「シッ!!」


 鈍い衝撃と共にゴブリンが上空へと放り出される。ルセアはその後を見ることもせずに次の相手へと向かう。そして三体目へと接近し攻撃を仕掛けようとすると、周りの他のゴブリンが攻撃をしてきた。


「チイッ!邪魔だってのよ!」


 舌打ちをしながらも直ぐ様思考を迎撃に切り替える。まずは横から仕掛けてきた一体の攻撃を屈むことで躱し、続くもう一体のゴブリンを手甲で受け、そのまま滑らせるようにして逸らす。


「もらった!」


 そして無防備になった瞬間を逃さず一撃を叩き込もうとするが、そうはさせまいと他のゴブリンが殺到してきた。


「あー!もうっ!次から次へとっ!!」


 仕方なく攻撃を中断し、体を翻すことでこれを躱す。しかし相手の攻撃は途切れる事なく続く。それをルセアはなんとか捌いていたが、数の多さに押され少し旗色が悪くなった。


「っ!?危ないっ!」


 一体のゴブリンの攻撃がまともに当たりそうになり、ルセアはすかさずその場を飛び退いた。しかし、飛び退いた先には他のゴブリンが待ち構えており、ルセアへと武器を振るう。


「しまっ――」


 飛び退いたばかりで今は膝立ちほ状態だ。回避行動にはまだ移れない。――当たる。そう思った瞬間。


「動くなっ!そのままじっとしていろっ!」


 背後から聞こえたその言葉と共にルセアの頭上をハンマーが通り抜ける。放たれたその一撃はゴブリンの頭に直撃し、頭部を吹き飛ばした。


「無事か?」


「え、ええ。ありがとう、助かったわ」


「礼はいらん、さっさと立て。先ずはコイツらを仕留めてからだ」


 ルセアの方を見もせずクーガーは素っ気なく言う。それにルセアは少しムッとするが助けられた手前それ以上何も言う事なく立ち上がり構える。

そして状況を確認する。残りのゴブリンの数は六体。自分が仕留めた数は二体、そして今しがたクーガーが倒した一体。残りの一体はどこにいるのかと探すと、少し離れた所に頭部を潰されたゴブリンの死体があった。どうやらクーガーが自分の所に駆けつけるまでに倒したらしい。


(これで残りは六体か、さっさと片付けたいけど――)


 そう思いクーガーの方を見る。本当は今すぐにでも飛び出したいのだが、またさっきのような事になればさすがに目も当てられない。どうしたものかしらとウズウズしながら考えてるとクーガーが視線をゴブリンに向けたまま話し出す。


「ルセア。今から言うことをよく聞け」


「……なに?」


「この戦闘の間だけでいい、俺の言うことを聞け。一つ、俺の近くで戦うこと。二つ、俺の咄嗟の指示に黙って従うこと。それさえ守れば戦闘中はお前の自由に動いていい」


「咄嗟の指示って例えば?」


「避けろや仕掛けろとか簡単なものだ」


 クーガーの提案にルセアは少し悩むが受け入れる事にした。思うところがなくはないが、今は目の前のゴブリンを倒すことを優先しなければならないからだ。


「よし――、なら行くぞっ!」


 クーガーの言葉に合わせてゴブリンへと駆け出す。手甲に『エンチャント』を施し一直線に駆ける。しかし先ほどとは違い、クーガーから離れないように少し速度を落として駆ける。そして距離を詰め一体のゴブリンの顔面目掛け拳を放つ。


「シッ!」


 放たれた鋭い一撃は惜しくも手に持っていた得物で防がれた。しかしそんな事ではルセアは止まらず続けて左右の拳を連続で打ち込む。無数に放たれる拳をゴブリンは捌けるはずもなく、魔力を纏った拳を何発も体に受け沈んだ。


「後ろに跳べっ!」


 次の相手へと向かおうとした時、クーガーから指示がくる。ルセアが咄嗟に飛び退くと、横から仕掛けようとしたゴブリンが飛び込んできた。


「危なっ!?」


「ぼさっとするな!仕留めろ!!」


 ルセアの周りに群がろうとするゴブリンを牽制しながらクーガーは叫ぶ。


「言われなくてもわかってるわ、よっ!!」


 飛び込んできて硬直しているゴブリンに向かい力強く踏み込み渾身の一撃を打ち込む。ドン!、という音を響かせ六体目のゴブリンを倒す。それを見たクーガーは大きくハンマーを振るい、ゴブリン達に距離を取らせる。そしてその内の一体をルセアの方に向かうように他のゴブリン達から分断させる形になるように立ち回る。


「もう一体そっちに行くぞ」


「どんと来いよ!」


 そしてルセアは()()()()()()()()()ゴブリンと一体一で対峙する。


(この状態ならもう大丈夫か)


 残った三体のゴブリンの攻撃をいなしながらクーガーはそう思った。ルセアの武器は手甲、その武器の特性上多数の相手をするのには向かない。だからこそ最初は迎撃の形をとって一体ずつ確実に仕留めにいこうと考えていたが、ルセアが突進したことにより失敗した。ならば自分のそばで戦闘をしてもらいルセアが一体一で戦闘出来る状況を作ればいいと考えたクーガー。

その目論見は当たって、ゴブリンを圧倒するルセア。噂通り実力は申し分ない。あれならゴブリン程度なら余程の事がない限りは傷を受けることもないだろう。そう思っているうちにルセアがゴブリンを仕留める。


「はぁっ、はぁっ……これで七体目っ!」


「息が切れてるな、もう限界か?」


「冗談っ。あんたこそ、喋りながらもっ、防戦一方じゃないっ。すぐに助けてあげるわよっ!」


 そう言うが息はまだ荒く腕は重そうだ。しかし今まで()()()()()()()()()()()()()()()休む事なく拳を打ち続けたのだから仕方なのない事なのだが。


(まぁこれだけやれればいいだろう)


 実のところクーガーは今回の依頼でルセアの実力がどれ程のものか測るつもりでいた。そのためなるべくルセアに戦闘をしてもらうようにしていた。決して戦闘前に決めていた作戦を無視されたことに対する報復ではない。そして目的を達したクーガーは仕上げにかかる。


「問題ない。すぐに終わらせる『エンチャント』!」


 言うが早いが、ゴブリンの攻撃を弾き上げその腹に一撃を打ち込む。打ち込まれたゴブリンは横に吹っ飛びそのまま息絶える。急に攻撃に移ったクーガーに驚き固まるゴブリン。すかさずクーガーは近くにいる一体の頭を砕く。頭蓋を叩き割る音で最後の一体が我に戻る。そして逃げ切れない事を悟りクーガーへと特攻を仕掛ける。


「ちょっと!?向かって来てるわよ!?」


 ルセアが叫ぶが、クーガーは動じる事なく体をずらすだけで攻撃を躱す。そしてゴブリンの背後に回り、ハンマーの柄を使い首を締める。ゴブリンはじたばたと暴れて抵抗するがクーガーが一際力を入れるとバギンッ!という破裂音が響く。それはゴブリンの首をへし折った音だった。


「うへぇ……。マジかよゴブリンをそうやって仕留める奴初めて見たわ俺」


「奇遇ね、私もよ」


 戦闘が終了したのを確認して駆けつけたソーマの言葉にルセアは同意で返す。クーガーは二人の会話に耳を傾けず今の戦闘の手応えを確認していた。


(ゴブリン程度なら問題はなくなってきたか……、あとはコイツらとの戦闘だが……、まあなるようになるしかないか)


 個人個人の実力は問題ないのだが共闘出来ているかと言えば答えは否だ。今回だってルセアが戦いやすいようにクーガーが相手を引き受けているだけで共闘とは程遠い。その部分がこれから先直ぐにとはいかないが早めに改善しなければなと考え、クーガーはフッと笑う。


(今まで一人で戦ってきた俺が、他の奴らと共に戦うことを考えるなんてな)


 今回以外にも他の冒険者と一緒に戦闘はしたが、その時はただ他のメンバーに合わせるだけの戦いだった。しかしこれからはチームを組んだこのメンバーで戦っていかなくてはいけない。今の面子で連携がしっかりとれるかはまだわからないが、それをどうするかを考える事に不思議と悪い気分はしなかったクーガーは、取り敢えず依頼を終わらせるために、依頼主の商人に戦闘が終了したことを伝えるのだった。

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