22話
依頼主と会うために東門へと来たクーガー達。そこで互いに紹介を済ませ、今は商人の馬車に乗り街道を進んでいた。
「いやー助かりました。数日前から依頼は出していたのですが、なかなか受けてくださる方がいらっしゃらなくてどうしたものかと途方にくれていまして…、ですが皆さんのお陰でようやく商売を再開することが出来ます」
「そりゃ良かったです。まぁウチのギルドも人手が潤沢とは言えないですからねぇ。こちらこそ期限までに依頼を受ける事が出来て良かったですよ」
近頃魔物の勢いが増したことにより、ギルドへの依頼の数も増えている。しかし毎日のようにギルドに送られてくる依頼の数に対して冒険者の人数が絶対的に足りていないのが現状だ。それにより今回のように後回しにされる依頼も出てくる。中には依頼主が待ちきれず依頼自体を取り消す事もある。今回の依頼主はある程度日数に余裕を持たせて依頼を出していたが、それが原因でギルドの冒険者達も後回しにしてしまったようだ。
「そう言ってくださると助かります。まだ魔物が出る付近までは距離がありますので、狭いですがどうかゆっくりしてください」
「それじゃあお言葉に甘えて」
そう言ってソーマ荷台から覗かせていた顔を引っ込める。荷台の中にはウォレスで仕入れた傷薬や薬草などを纏めた箱が積まれており、その中で空いている空間にクーガー達は座っていた。
「ヨイショっと、まだ目的地までは距離があるんだと。それまではどうぞごゆっくりってさ」
「そう、早く着かないかしら…」
待ちきれないのか、ウズウズした感じで何度も手のひらに拳を打ち付けるルセア。
「はいはい、早く着くといいですねー。ったく、ところでクーガーよ、今回はなんか作戦とかあるんですかい?」
そんなルセアを尻目にソーマはクーガーに訪ねる。クーガーは作戦って程でもないがな、と前置きをして話し始めた。
「それぞれの戦闘スタイルを踏まえて、俺とルセアが前衛、ソーマは後衛。コレを基本の型にするつもりだ。ルセアと俺は出来るだけ距離は離れずに戦闘をしていく、これは突出して相手に囲まれないようにするためだ。そして前衛の俺らが敵と交戦中、後衛のお前は投擲や呪文での援護をしてもらうわけだが、特に注意してもらいたいのが敵の状況把握だ」
「状況把握?敵の位置とか数とかに気を配ればいいのか?」
「ああ、今回の相手がゴブリンってことだからな、予想よりも数が多くなるかもしれない。もしかしたら戦闘中に隠れているやつが背後から増援として来るとも限らないからな」
特に今回は商人の護衛も兼ねている。クーガーとルセアがいかに前線で順調に戦っていても不意を突かれて護衛対象がやられてしまっては元も子もない。だからこそ"気配察知"の補助スキルを持つソーマに周囲を気にかけてもらう必要があった。
「なるほどね。そいじゃ俺は後ろで援護しながら周囲で何かあったら逐一伝えれば良いんだな?」
「そういうことだ。ルセア、お前も大丈夫か?」
「勿論。とにかく全力で相手をぶっ飛ばせば良いのよね?任せてちょうだい」
「本当に話を聞いてたんですかねコイツは!?」
ルセアの反応に一抹の不安を感じながらも、実際にルセアの戦いを目の当たりにしたことがないクーガーにとってこれ以上何か出来る事はなく、ただこの後におこる戦闘で何かやらかさない事を願う事ぐらいだった。
(まあ、後はなるようにしかならないか)
いまだに言い争ってる二人を見てクーガーはそう思った。幸い二人に緊張している様子は見られない。出来れば戦闘になっても余計に力まなければと思いながら、ゴブリンに遭遇するまでの間眼を瞑りクーガーは休息を取った。
ガタン!という衝撃音と共に馬が嘶き馬車が急停止した。その衝撃で馬車内にいたクーガー達は中で転がってしまったが直ぐに体勢を立て直していた。
「イテテ…、一体どうしたんだ…?」
「ボーッとするな、武器を構えて外に出ろ!――来たぞ!」
痛む頭を擦るソーマにクーガーは一喝をする。ルセアも状況を理解したのか手甲を嵌め外に向かう。
「冒険者の方々!ゴ、ゴブリンが出ましたぁ!」
商人の叫び声を聞いて、漸くソーマも状況を把握し武器を携え外に飛び出した。
外ではゴブリン達が馬車に向かってきていた。クーガーはソーマに馬車の上に登り、周囲を把握するよう指示を出す。その間にクーガーとルセアは武器を構え迎撃の体勢を整える。
「数は十体!奥の茂みから増援の気配は無い!後方も今のところ問題はなさそうだ!」
ソーマの報告を受け、クーガーは直ぐ様戦闘プランを立てていく。
「あ、あああの、本当に大丈夫でしょうか!?ゴブリンがあんなにい、いっぱいいて……ヒイッ!!」
「大丈夫だ問題ない。一応あんたは馬車の中に隠れていてくれ」
クーガーの言葉に、商人はあたふたしながらも馬車の中へと入っていった。それを見届けたクーガーは改めて状況を確認する。
(ゴブリンの数は十体。群れをなして一直線にこっちに向かってきている。左右や後方からの気配はなし、なら――いけるか…)
ゴブリンの装備も確認するが、刃こぼれがひどい剣などまともな得物は持っていない。これならば突出せずに一体一体確固撃破していけば問題ないなと確信したクーガー。その事を伝えようとした瞬間、クーガーの横を一つの影が通り抜ける。
「なっ――!?」
その影を確認すると、手甲に『エンチャント』を掛けてゴブリンの集団に突っ込むルセアの姿があった。
「おいっ!何をしてるっ!先行するなっ!!」
「何言ってるのよっ!相手はたかだかゴブリンなのよ!?ちまちまやるよりもとっとと真っ正面から叩き潰せばそれで終わりよっ!!」
ルセアのその言葉にクーガーは言葉を失う。じゃじゃ馬だとか猪突猛進だとか言われているが、あれはその程度じゃすまない。無鉄砲を通り越してもはや只のバカだ。確かにルセアの言い分も解るが、それを行うにはリスクが高すぎる。クーガーとしてはなるべくリスクを少なくして戦闘をしたかったのだが、それも最早叶わない。
「おいっクーガー!どうすんだよ!?やっぱりあのバカやりやがりましたよっ!」
ソーマの言葉にクーガーは我に返る。そうだ、今やらなければいけないのはルセアの行動に驚いているのではなく、目の前のゴブリンを倒すことだ。思考を切り替え、直ぐ様次の案を考える。
「ソーマはさっき話したとおり後方での支援を!万が一抜けたやつがいたら必ず仕留めろ!俺はルセアを追いかけてそのまま戦闘に入る!」
出来ればソーマの投擲の範囲内で戦闘をしたかったが、距離的に厳しくなった。クーガーは苛つきを感じながらもそれを飲み込み、意識を切り替えルセアの後を追い、ゴブリンの集団へと駆けた。




