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【完結】ですから、嘘ではございません~完璧令嬢と呼ばれた彼女の真実~  作者: ジュレヌク


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ですから、噓ではございません2 ライヤー・スペシャリテ大公妃殿下編


「兄上!私は、大公の爵位を返上しようと思います。つきましては、王都より遠い、田舎の領地を一つください。この可愛い妻と静かに暮らしたいと思います」



元々、社交界など興味もなかった。


ただ、王家の血筋と言うだけで、王都に縛り付けられてきた。


自領は、優秀な部下達が切り盛りしてくれている。


殆ど領地に戻れないトゥルーよりも、他の者が治めたほうが、きっと運営も安定するはずだ。

 

王族から籍を抜き、飼い殺しでも良いから、小さな屋敷でライヤーと二人暮らし……いや、子供も含めて、何人かで暮らせたら、どんなに幸せだろう。


そんな小さな夢に、ライヤーが賛同する……………はずがない。



「トゥルー!貴方、馬鹿?爵位が無くて、私と子供を守れると思ってるの?屋敷だって、お金だって、必要なのよ!貰えるものは、全て頂かないと!」



ライヤーは、守銭奴ぶりを発揮しながら、ポコポコとちいさな手でトゥルーの背中を叩いた。


そして、おもむろに、





「本当に、困ったお父様ね」





と自分のお腹をさすった。



ザワザワザワザワ



一気に会場がざわつきはじめる。


そして、トゥルーも、慌てはじめる。



「え?え?え?ライヤー、まさか、子供?子供?子供?」



実は、今の王には、子供がいない。


妻は、王妃と側妃が2人居るにも関わらずだ。


既に婚姻して、十年以上。


新たな側妃をと家臣から勧められているが、それを行えば、先王とやることは同じ。


またもや、後宮の経費が財政を圧迫し、国を傾けることになるだろう。


しかも、本当に子供が産まれるかなど、誰も分からないのだ。


もし、ここでライヤーに子供が出来たら、一気に形勢は変わる。


このまま王に子供が出来ない場合、トゥルーとライヤーの子供が、王家を継ぐ者になるのだ。


それまで、トゥルーの立場をあえて悪くしようとしてきた面々は、真っ青になった。


散々父親の悪評を広めてきた自分達を、未来の王は、許すだろうか?



「あ、あの、スペシャリテ大公妃殿下!ご懐妊なさっていらっしゃるのですか!!」



真相を聞こうと、先ほどの大御所が、ライヤーの元まで駆け寄った。


すかさず、彼女は、夫の背後に隠れて彼の背中を押す。


トゥルーも心得たもので、両手を広げてライヤーの盾となった。



「君、私の妻に何用だ?いきなり駆け寄られたら、彼女がビックリするだろう」


「し、しかし」


「しかしもヘチマもない。前々から思っていたが、君、私の爵位を忘れていないか?私は、大公だ。公爵の君に、指図される言われはない」



いつもなら、数の暴力で、他の高位貴族がグルになり、トゥルーに最後まで話をさせなかった。


印象操作でトゥルーを追い込み、弁解することすら防いできたのだ。


しかし、今、パワーバランスは、大きく変わった。


スペシャリテ大公家を敵に回せば、未来の国王も敵に回す可能性がある。


他の高位貴族達は、真相を見極めようと、ライヤーのお腹を凝視するが、透視が出来るエスパーでない限り、腹の中なぞ覗けない。


しかも、ライヤーは、この国に来てから食事が美味し過ぎて少々食べ過ぎている。


ややふくよかになった腹回りでは、妊娠初期なのか、ただの食べ過ぎポッコリお腹なのか、見極めが厳しい。



「あなた……私、疲れちゃったわ」


「それはいけない」


「なんだか、酸っぱいものも食べたいかも」 


「すぐ用意しよう」


「最近、足がむくみやすくって」


「帰ったら、私が揉もう」


「あぁ、なんだか、眠いわ」


「ベッドまで、我慢しておくれ」



いかにも『匂わせ』を感じさせるライヤーの言葉に、既に父親気分のトゥルーは、甲斐甲斐しく世話を焼く。


周りの微妙な沈黙も無視し、軽く国王に頭だけ下げると、二人は、夜会会場をそそくさと出ていった。


残された者達は、皆、呆然と見送ることしかできなかった。


ただ一人、



「良かった、トゥルーに素敵な奥さんが出来て……」



と、国王だけが微笑んでいた。


その横顔は、ほんの少し寂しそうだった。

 

自分の保身で十五年もの間、不遇な立場に追いやっていた弟。


それを文句も言わず、甘んじて受け入れてくれていたことに、慣れ過ぎていた。


日和見な高位貴族達は、今頃、どうやればスペシャリテ大公家とお近づきになれるか頭を悩ませているだろう。


あの嫁が、それを許すとは思えないが。









「お待ち下さい、スペシャリテ大公!」



背後から、自分達を呼び止める声と多数の足音が聞こえてきたが、トゥルーは、それどころではない。


新妻に手を添え、抱え上げんばかりの勢いで馬車の中に入れると、



「出して」



と御者に命令した。


その声は、かなり興奮しており、遠足前の子供のようだ。



「ねぇ、ライヤー、本当に、赤ちゃんができたの?」


「あら、いやなの?」


「違う、違う、そうじゃない。めちゃくちゃ嬉しい。だからこそ、嘘でしたとか言われると、ちょっと…」



普段からライヤーは、チョイチョイ嘘をついては、トゥルーをからかう。


これだけ糠喜びをさせられて、



「うそでしたー。アホが見るー豚のケーツー」



とか言われると、かなりキツイ。


トゥルーは、ライヤーの表情から本心を読み取ろうとした。


しかし、窓の外をボンヤリ見つめるライヤーからは、『眠たそう』という情報しか得られない。



「私、子供は、沢山欲しいわ」


「それは、私も一緒だが……」


「それには、こんな、王都で精神衛生上良くない暮らしは、やってらんないの」



ライヤーは、お腹に手を当てながら、トゥルーに視線を移した。



「もう、良いんじゃない?あんな奴らのご機嫌を取るより、私達のご機嫌を取ったほうが百万倍幸せになれるわよ」


「え?じゃぁ、やっぱり…」



まだ半信半疑の夫。


その手を取ると、ライヤーは、自身のお腹の上に置いた。


トゥルーは、フワッと手が温かくなるのを感じた。


トクントクン


まだ、聞こえるはずもない心音が、聞こえる気がする。


トゥルーは、自問自答した。





今まで、何故、これほどまでに、虐げられることを使命のように思い込んでいたのか?


何故、王都に滞在することを義務だと思い込んでいたのか?


そんなことよりも、妻と子の健康と幸せと笑顔を守る事のほうが、ずっと大切な使命なのではないのか?






「なるべく早く、引っ越しの準備をしよう」



スルリと口から言葉が出た。


トゥルーは、思ったことしか口にできない男だ。


そして、言ったからには、即行動に移すフットワークの軽さも併せ持っている。



「それから?」


「領地に引っ込んで、君と私達の子供を慈しみながら、最高に幸せな人生を送るよ」


「そうこなくっちゃ」



トゥルーとライヤーは、右手を握りしめると、拳と拳をそーっと合わせた。


 

「スペシャリテ大公国を、世界一の場所にしてみせるわ」


「それは、私のセリフだと思うのだけど」


「だって、貴方、すごーく間が悪くて、揚げ足を取られ慣れてるんだもの」



毒舌に、隠しきれない愛嬌を滲ます妻に、おっとりに見せかけて実はやり手な夫は、自ら尻に敷かれにいく。



「おおせのままに」



その後、彼ら2人は、風のような速さで自領へと引っ越した。


王都内の屋敷は、もぬけの殻。


使用人達も、メイドに料理人、庭師に門番まで全員彼らに付いていった。


焦った高位貴族は、何度も面会を求め書状を送ったが、返事が返ってくることはない。

 

国王には、反旗を翻すつもりがないことと、他国との戦の際は、助力を惜しまない旨の誓約書が届いた。


しかし、国王は、その事を咎めない。


それどころか、自分の元にやっと生まれた王子を、夏休みごとに大公領へ遊びに行かすほどの寛大な態度を貫いた。



『何事も、自分の目で見て、考えなさい』



未だに王都に燻るスペシャリテ大公家に対する悪評。


王子は、8歳の時に初めてライヤーとトゥルーとその家族に出会い、毎年帰りたくないと泣き叫ぶような子供へと育っていった。


何故なら、そこには、気を遣わず喧嘩したり笑い合ったりできる沢山の子供がいたのだ。


時折、国王が、式典などへの参加要請を出しても、必ず、



「妻が妊娠中ですので、傍を離れることができません」



と断られるほどに。

 

文字通り、スペシャリテ大公家には、ほぼ毎年と言っていいほど新しい命が産まれた。


父と母の正直さを受け継いだ彼らは、相手を慮り、物事を婉曲的に伝える………などと言う大人の対応が大の苦手だった。


馬鹿正直に思ったまま話すため、自領の外に出せないと判断され、家臣と縁付いていくのだが、それは、また別の話。


こうして、スペシャリテ大公は、本家よりも栄華を極め、文化と物流の中心地として名を馳せていくのだった。














ライヤー・スペシャリテ大公妃殿下


今も、彼女は、類稀なる善人として語り継がれている。


彼女を語る物語が、各地にも残されており、その全てが、彼女の功績を称える物ばかり。


完璧夫人と呼ばれた彼女は、聡明で、博識で、心優しい人だった。


しかし、その事に異論を唱える者が、一人だけいた。


夫のトゥルー・スペシャリテ大公だ。


彼は、とても寡黙な人物で、他国との折衝などは、全て妻が担っていた。


代わりに、品種改良、学術分野の発展等に貢献し、天才の名を欲しいままにした人だ。


彼は、思ったことしか口にできない人物としても有名だった。


そんな彼が、妻について聞かれた時に、こう答えた。




怠惰で


思い込みが激しく


守銭奴で


本来は、小心者でありながら


毒舌で武装し


感謝されて戸惑う


とても愛らしい女性です






その言葉に、どうしても納得いかなかった者達が、ライヤー・スペシャリテ大公妃殿下に直接話を聞きに行った。



ご主人は、嘘をおっしゃっているのではありませんか?



その質問に対し、彼女が言った言葉は、




ですから、嘘ではございません





結局、彼女の真実を知るのは、夫だけだった。



また、ライヤーに会いたいよと思っていただけましたら、お☆様、ブックマークなどで知らせて頂けると嬉しいです。


現在、当て馬令嬢リベルタ、アルジェ・ロッシーニ元王太子妃、灰色の天使の三作品を連載しております。

興味を持たれた皆様、ご一読いただけると嬉しいです。

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