第1話 闇オークション潜入
宇宙警察の巡視艇をあとにした三人は、スペースポートのドックへ向かった。
そこには、一隻の黒いスペースシップが静かに停泊している。
流れるような機体。
余計な装飾のない美しい機体は、どこか獲物を狙う猛禽類を思わせた。
タイガは満足そうに笑う。
「待たせたな、ハヤブサ。」
ライキは船を見上げる。
「……そういえば。」
「ん?」
「今更だけどさ。」
「なんでハヤブサなんだ?」
タイガの目が少しだけ輝く。
「地球にいる鳥なんだよ。」
「鳥?」
「めちゃくちゃ速い。」
「しかも日本には『ハヤブサ』っていう超高速列車もある。」
ルナが目を輝かせる。
「超高速ですか!?」
「最高時速三百二十キロ!」
一瞬、静まり返る。
ライキが首をかしげた。
「……おっそ。」
「宇宙船の離陸より遅いですね。」
ルナも真顔でうなずく。
「いやいや!」
「地球じゃめちゃくちゃ速いんだって!」
二人は納得していない様子だった。
タイガは肩を落としながらハヤブサ号へ乗り込んだ。
◇
船内へ入る。
広々としたリビング。
ソファ。
テーブル。
コーヒーメーカー。
奥には操縦室へ続く扉。
「ハヤブサ号、異常ありません!」
ルナが元気よく飛びながら操縦室へ向かう。
「燃料九十八パーセント!」
「小型艇も発進可能です!」
「了解。」
タイガは慣れた手つきでコーヒーを淹れる。
ライキはソファへ倒れ込んだ。
「ほんと快適だよね、この船。」
「まぁな。」
「ほぼ強奪した船だけどね。」
太嘉の動きがぴたりと止まる。
「……借りてるだけだ。」
ルナが首をかしげる。
「返却予定日はいつですか?」
「…………。」
ライキが肩をすくめる。
「考えてないね。」
「うるさい。」
3人の笑い声が船内に響いた。
◇
十五分後。
操縦室。
前方には操縦席や通信席が並び、その後ろ中央、一段高い場所に船長席が設けられている。
タイガはそこへ腰を下ろした。
前方では、ルナ専用の小さな操縦席が静かにせり上がる。
「自動操縦解除。」
「ルナ操縦へ切り替えます。」
窓の外に広がる星空を背に、ルナは目の前へホログラムを展開した。
「隊長からいただいた情報を表示します!」
目標銀河宙域を映し出したスター・ナビゲーションが起動する。
無数の星々と惑星。
それらを結ぶ光の航路。
そして各地に点在するゲートポイントが立体的に表示された。
「目的地はこちらです。」
緑色に輝く惑星が拡大され、その周囲に巨大な施設の立体図が浮かび上がる。
「違法闇オークション。」
「開催場所は毎回変わります。」
「終了後は数十分で撤収。」
「宇宙警察が到着した頃には、何も残っていないことがほとんどです。」
施設内の地図へ切り替わる。
「こちらが一般会場。」
「こちらがVIP専用区画。」
「違法商品はVIP以外には見せません。」
「さらに案内は最新システムにて暗号化されていて、確認後はすぐに消滅します。」
「そのため証拠が押さえられず、令状も発行できない状況が続いているみたいですね。」
タイガは腕を組む。
「だからロイド隊長は俺たちに頼んだってわけか。」
「はい。」
ルナは再びスター・ナビゲーションを表示する。
「現在位置から最寄りのゲートポイントを経由します。」
「到着後は母船を待機させ、小型艇で施設へ潜入します。」
「通信は、このイヤホン型通信機で常時接続します。」
三人は通信機を耳へ装着した。
「通信チェック。」
『良好です!』
『問題ない。』
「またこのアイスコープを目に装着していただいて、視界も共有します!」
ルナはコンタクトレンズのようなアイテムを二人に渡す。
「俺これ苦手。」
ライキが嫌そうに目に装着する。
「ライキ様!我慢ですよ!」
「よし。」
タイガは立ち上がる。
「行くぞ。」
「了解です!」
「目標惑星最寄りのゲートポイントまで航路設定完了!」
「ワープシーケンスを開始します!」
ルナが操縦桿を握る。
ハヤブサ号の前方。
何もなかった宇宙空間がゆっくりと歪み始めた。
無数の光が一点へ集まり、やがて巨大な円を描く。
青白く輝く光の輪。
その中心は、水面のように静かに揺らめいていた。
「ゲートポイント接続確認。」
「航路固定。」
「ワープ開始!」
次の瞬間。
ハヤブサ号は吸い込まれるように光の輪へ飛び込んだ。
一瞬、視界が白く染まる。
星々が一本の光の線となって船の両脇を駆け抜けていく。
身体がふわりと浮くような不思議な感覚。
それも数秒で終了する。
再び視界が開ける。
そこには緑色に輝く巨大な惑星が静かに浮かび、その近くでは巨大なゲートポイントが青白い光を放っていた。
「目標銀河宙域へ到着しました。」
「ここから二人には小型艇で向かってもらいます。」
◇
数分後。
小型艇は施設から少し離れた場所へ静かに着陸した。
「通信良好。」
ルナの声がイヤホンから聞こえる。
「監視カメラは現在ルートを変更中です。」
「三十秒だけ死角ができます。」
「今です!」
二人は音もなく施設内へ侵入した。
◇
人気のない通路を進む。
物陰へ身を隠しながら奥へ進もうとした。
その時だった。
「しかしすげぇよな。」
二人は即座に通路の視覚に隠れる。
スタッフらしき男たちの会話が聞こえてきた。
「十八年前もこの会場で純粋な地球人を競売にかけたらしいぜ。」
「シッ。」
「その話はするな。」
「今は昔より監視も厳しい。」
「地球人なんてそう簡単に手に入らねぇ。」
「だからVIPだけに本当のことを知らせてるんだ。」
「一般客には別種族って説明してる。」
「だからあんな値段になるんだよ。」
タイガが反応する。
「……地球人?」
ライキが小さく頷いた。
スタッフたちが部屋の中に入る。
そのまま奥へ進もうと部屋の前を通り過ぎた、その時。
「痛っ!」
小さな悲鳴。
タイガは振り向く。
ライキに服を引かれて物陰から様子を見る。
先程の部屋から先程のスタッフが出てきた。
小柄な少女がスタッフに腕を乱暴に引っ張られている。
「早く歩け!」
少女は足をもつれさせ、その場へ転ぶ。
スタッフは容赦なく腕を掴み直す。
「商品に傷付けるなよ!」
「分かってる!」
「ほら!はやくこっちの部屋に移れ!」
乱暴に立たされる少女。
タイガは思わず一歩踏み出した。
イヤホンからルナの慌てた声が響く。
『タイガ様!』
『任務を優先してください!』
タイガは返事をしない。
その横で雷鬼が小さく息を吐いた。
「……行くんだろ。」
タイガは静かに頷く。
「わかってんじゃん。」
その時。
少女がゆっくりと顔を上げた。
不安と恐怖で揺れる瞳。
その視線の先には、赤いコートを羽織った一人の青年。
二人の目が、静かに重なった。




