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星焔 - Genesis -  作者:
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第1話 闇オークション潜入


 宇宙警察の巡視艇をあとにした三人は、スペースポートのドックへ向かった。


 そこには、一隻の黒いスペースシップが静かに停泊している。


 流れるような機体。


 余計な装飾のない美しい機体は、どこか獲物を狙う猛禽類を思わせた。


 タイガは満足そうに笑う。


「待たせたな、ハヤブサ。」


 ライキは船を見上げる。


「……そういえば。」


「ん?」


「今更だけどさ。」


「なんでハヤブサなんだ?」


 タイガの目が少しだけ輝く。


「地球にいる鳥なんだよ。」


「鳥?」


「めちゃくちゃ速い。」


「しかも日本には『ハヤブサ』っていう超高速列車もある。」


 ルナが目を輝かせる。


「超高速ですか!?」


「最高時速三百二十キロ!」


 一瞬、静まり返る。


 ライキが首をかしげた。


「……おっそ。」


「宇宙船の離陸より遅いですね。」


 ルナも真顔でうなずく。


「いやいや!」


「地球じゃめちゃくちゃ速いんだって!」


 二人は納得していない様子だった。


 タイガは肩を落としながらハヤブサ号へ乗り込んだ。



 船内へ入る。


 広々としたリビング。


 ソファ。


 テーブル。


 コーヒーメーカー。


 奥には操縦室へ続く扉。


「ハヤブサ号、異常ありません!」


 ルナが元気よく飛びながら操縦室へ向かう。


「燃料九十八パーセント!」


「小型艇も発進可能です!」


「了解。」


 タイガは慣れた手つきでコーヒーを淹れる。


 ライキはソファへ倒れ込んだ。


「ほんと快適だよね、この船。」


「まぁな。」


「ほぼ強奪した船だけどね。」


 太嘉の動きがぴたりと止まる。


「……借りてるだけだ。」


 ルナが首をかしげる。


「返却予定日はいつですか?」


「…………。」


 ライキが肩をすくめる。


「考えてないね。」


「うるさい。」


 3人の笑い声が船内に響いた。



十五分後。


 操縦室。


 前方には操縦席や通信席が並び、その後ろ中央、一段高い場所に船長席が設けられている。


 タイガはそこへ腰を下ろした。


 前方では、ルナ専用の小さな操縦席が静かにせり上がる。


「自動操縦解除。」


「ルナ操縦へ切り替えます。」


 窓の外に広がる星空を背に、ルナは目の前へホログラムを展開した。


「隊長からいただいた情報を表示します!」


 目標銀河宙域を映し出したスター・ナビゲーションが起動する。


 無数の星々と惑星。


 それらを結ぶ光の航路。


 そして各地に点在するゲートポイントが立体的に表示された。


「目的地はこちらです。」


 緑色に輝く惑星が拡大され、その周囲に巨大な施設の立体図が浮かび上がる。


「違法闇オークション。」


「開催場所は毎回変わります。」


「終了後は数十分で撤収。」


「宇宙警察が到着した頃には、何も残っていないことがほとんどです。」


 施設内の地図へ切り替わる。


「こちらが一般会場。」


「こちらがVIP専用区画。」


「違法商品はVIP以外には見せません。」


「さらに案内は最新システムにて暗号化されていて、確認後はすぐに消滅します。」


「そのため証拠が押さえられず、令状も発行できない状況が続いているみたいですね。」


 タイガは腕を組む。


「だからロイド隊長は俺たちに頼んだってわけか。」


「はい。」


 ルナは再びスター・ナビゲーションを表示する。


「現在位置から最寄りのゲートポイントを経由します。」


「到着後は母船を待機させ、小型艇で施設へ潜入します。」


「通信は、このイヤホン型通信機で常時接続します。」


 三人は通信機を耳へ装着した。


「通信チェック。」


『良好です!』


『問題ない。』


「またこのアイスコープを目に装着していただいて、視界も共有します!」

 

 ルナはコンタクトレンズのようなアイテムを二人に渡す。


「俺これ苦手。」


 ライキが嫌そうに目に装着する。


「ライキ様!我慢ですよ!」


「よし。」


 タイガは立ち上がる。


「行くぞ。」


「了解です!」


「目標惑星最寄りのゲートポイントまで航路設定完了!」


「ワープシーケンスを開始します!」


 ルナが操縦桿を握る。


 ハヤブサ号の前方。


 何もなかった宇宙空間がゆっくりと歪み始めた。


 無数の光が一点へ集まり、やがて巨大な円を描く。


 青白く輝く光の輪。


 その中心は、水面のように静かに揺らめいていた。


「ゲートポイント接続確認。」


「航路固定。」


「ワープ開始!」


 次の瞬間。


 ハヤブサ号は吸い込まれるように光の輪へ飛び込んだ。


 一瞬、視界が白く染まる。


 星々が一本の光の線となって船の両脇を駆け抜けていく。


 身体がふわりと浮くような不思議な感覚。


 それも数秒で終了する。


 再び視界が開ける。


 そこには緑色に輝く巨大な惑星が静かに浮かび、その近くでは巨大なゲートポイントが青白い光を放っていた。


「目標銀河宙域へ到着しました。」


「ここから二人には小型艇で向かってもらいます。」



 数分後。


 小型艇は施設から少し離れた場所へ静かに着陸した。


「通信良好。」


 ルナの声がイヤホンから聞こえる。


「監視カメラは現在ルートを変更中です。」


「三十秒だけ死角ができます。」


「今です!」


 二人は音もなく施設内へ侵入した。



 人気のない通路を進む。


 物陰へ身を隠しながら奥へ進もうとした。


 その時だった。


「しかしすげぇよな。」


 二人は即座に通路の視覚に隠れる。


 スタッフらしき男たちの会話が聞こえてきた。


「十八年前もこの会場で純粋な地球人を競売にかけたらしいぜ。」


「シッ。」


「その話はするな。」


「今は昔より監視も厳しい。」


「地球人なんてそう簡単に手に入らねぇ。」


「だからVIPだけに本当のことを知らせてるんだ。」


「一般客には別種族って説明してる。」


「だからあんな値段になるんだよ。」


 タイガが反応する。


「……地球人?」


 ライキが小さく頷いた。


 スタッフたちが部屋の中に入る。


 そのまま奥へ進もうと部屋の前を通り過ぎた、その時。


「痛っ!」


 小さな悲鳴。


 タイガは振り向く。 


 ライキに服を引かれて物陰から様子を見る。


 先程の部屋から先程のスタッフが出てきた。


 小柄な少女がスタッフに腕を乱暴に引っ張られている。


「早く歩け!」


 少女は足をもつれさせ、その場へ転ぶ。


 スタッフは容赦なく腕を掴み直す。


「商品に傷付けるなよ!」


「分かってる!」


「ほら!はやくこっちの部屋に移れ!」


 乱暴に立たされる少女。


 タイガは思わず一歩踏み出した。


 イヤホンからルナの慌てた声が響く。


『タイガ様!』


『任務を優先してください!』


 タイガは返事をしない。


 その横で雷鬼が小さく息を吐いた。


「……行くんだろ。」


 タイガは静かに頷く。


「わかってんじゃん。」


 その時。


 少女がゆっくりと顔を上げた。


 不安と恐怖で揺れる瞳。


 その視線の先には、赤いコートを羽織った一人の青年。


 二人の目が、静かに重なった。

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