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星焔 - Genesis -  作者:
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4/4

第1話 運命の出会い


 痛い。


 腕が痛い。


 何度も引っ張られ、足がもつれる。


「歩け!」


 聞き取れない言葉が頭の上から飛んでくる。


 何を言っているのか分からない。


 ただ怒鳴られていることだけは伝わった。


 怖い。


 涙が止まらない。


(お母さん……。)


(助けて……。)


 必死に歩こうとする。


 でも足が動かない。


 また転んだ。


「痛っ!」


 腕を強く引っ張られる。


 立ち上がる前に、乱暴に身体を持ち上げられた。


 怖い。


 帰りたい。


(お母さん……。)


 その時だった。


 目の前に、一人の青年が立っていた。


 赤いコート。


 腰には一本の刀。


 さっき、一瞬だけ目が合った青年だった。


 青年は静かにスタッフたちを見つめる。


 そして、聞き慣れない言葉で何かを告げた。


 当然、少女には何を言っているのか分からない。


 スタッフたちは顔を見合わせると鼻で笑った。


 次の瞬間。


 青年はため息をつき、静かに刀を抜いた。


 一閃。


 スタッフの一人が壁へ吹き飛ぶ。


 続けざまに銀髪の少年がもう一人の背後へ一瞬で回り込み、首筋へ手刀を打ち込んだ。


「ぐっ……!」


 二人はその場へ崩れ落ちる。


『タイガ様ぁ!』


 突然、青年の耳元から少女の声が響いた。


『予定にない行動はしないでくださいって言ったじゃないですかぁ!』


「悪い。」


 青年は苦笑しながら頭をかいた。


 そして、ゆっくりと少女へ近付く。


 少し考えるような表情を浮かべると、小さく口を開いた。


「……地球人だよな?」


 少女は驚いて顔を上げる。


 青年は少し照れくさそうに笑った。


「日本語なら話せるんだけど……。」


「通じてるか?」


 少女の瞳が大きく見開かれる。


「わ、分かる!」


「日本人です!」


 その一言を聞いた青年は、安心したように笑った。


「よかった。」


「ちょ、ちょっと待って!」


「ここどこなの!?」


「あなたたちは誰!?」


「なんで日本語が――」


 青年はそっと少女の肩へ手を置いた。


「落ち着け。」


「全部説明する。」


「まずは深呼吸だ。」


 不思議だった。


 その一言だけで、少しだけ身体の力が抜けていく。


 その間に銀髪の少年は青年へ何かを話しかける。


 しかし、その言葉はまったく理解できない。


 少女はゆっくりと辺りを見渡した。


 そこには無数の檻が並び、その中には地球では絶対に見たことのない生き物たちが閉じ込められていた。


 そして、一つの檻が目に留まる。


 無機質な檻の床には、まるで誰かが必死に壊そうとしたような無数の傷跡が刻まれていた。


 少女は震える声で呟く。


「……もしかして。」


「異世界?」


 一瞬の沈黙。


 青年は思わず吹き出した。


「日本人らしい結論だな。」


「残念。」


「異世界でも転生でもない。」


「普通に宇宙。」


「…………え?」


 頭が真っ白になる。


 その時、銀髪の少年が小さな装置を持って戻ってきた。


 青年はそれを受け取る。


「爆弾じゃない。」


「安心しろ。」


 首元へ小さな装置を取り付ける。


 ピッ。


 小さな電子音が鳴る。


「終わった。」


 さっきまで意味が分からなかった銀髪の少年の声が、日本語として聞こえてきた。


 少女は目を丸くした。


「しゃ、しゃべった!?」


 銀髪の少年は少しだけ眉をひそめた。


「最初からしゃべってる。」


 青年は笑いながら自分の首元を指差す。


「日本人に分かりやすく言うと、秘密道具だ。」


「宇宙じゃ、生まれた時にこれと同じ機能のチップを埋め込むのが普通なんだ。」


 その時、銀髪の少年が倒れているスタッフを指差した。


「装備リング、取ってきた。」


「ナイス。」


 スタッフの指から外したリングを自分たちの指へはめる。


 ホログラムが展開される。


『パスワードを入力してください。』


「ルナ。」


「ハッキング頼む。」


『また余計な仕事増やすんですかぁ!?』


 青年は小さな装置をリングへ取り付ける。


『はいはい……解析中です。』


『終わりました!』


『パスワードは――』


 青年が入力すると、目の前へ装備一覧が表示された。


「よし。」


 指先で画面を操作する。


 一瞬、リングが光る。


 倒れていたスタッフ二人の制服が、一瞬で青年たちの身体へ転送された。


 残された二人は下着姿だけになっている。


「きゃあぁぁぁ!!」


 少女は慌てて目を覆った。


「悪い悪い。」


 青年は苦笑する。


 イヤホンから再び少女の声が響く。


『それで、どうするつもりですか?』


 ルナが尋ねる。


 青年はスタッフ服の襟を整えながら答えた。


「潜入を続ける。」


『危険です!一度戻って作戦を立て直した方がいいと思います!』


「まだ闇オークション運営責任者の居場所が分からない。」


「でも地球人は目玉商品だ。」


「競売前には必ず確認に来る。」


「うまくいけば、そのまま責任者のところまで案内してもらえる。」


 青年は少女を見た。


「協力してほしい。」


 少女は首を振る。


「ちょっと待って!」


「じゃあここって本当に宇宙なの!?」


「私、誘拐されて……。」


「今から闇オークションに売られるってこと!?」


「そう。」


 青年はうなずいた。


「でも俺たちが助ける。」


 それから、少し感心したように笑う。


「さすが日本人。こういう非現実的状況の把握が早いな。」


「異世界もの、好き?」


「茶化さないでよ!」


 少女は涙目のまま叫んだ。


「無理ぃぃぃ!!」


 銀髪の少年がため息をつく。


「ごちゃごちゃうるさい。」


「俺たちが来なかったら、お前は数時間後には食われるか、金持ちのおもちゃになってた。」


「商品の保護は、本来俺たちの任務じゃない。」


「このまま見捨てることだってできる。」


 その言葉に、少女の身体が強張る。


「ライキ。」


 青年の低い声が響いた。


 その一言で空気が変わる。


 青年は少女へ向き直る。


「いきなり宇宙だ。」


「闇オークションだ。」


「俺たちを信じろ。」


「……なんて言われても無理だよな。」


「でも。」


「何もしなければ、こいつの言う通りになる。」


「良くても奴隷だ。」


 少女はしばらく黙り込む。


「……良くても奴隷って、何それ。」


「笑えないんだけど。」


 小さく息を吐く。


「……分かった。」


「協力すればいいんでしょ。」


 青年は笑顔になった。


「ありがとう。」


「改めて。」


「俺はタイガ。」


「こっちの態度悪いのがライキ。」


「態度悪いは余計だ。」


 ライキが小さく睨む。


 タイガは笑いながら尋ねた。


「君の名前は?」


 少女は少しだけ笑った。


「……さくら。」


「よろしく、さくら。」


 その瞬間、施設全体へアナウンスが響いた。


『まもなく、本日のオークションを開始いたします。』


 三人は同時に顔を上げた。


 タイガは静かに刀へ手を添える。


「始まるぞ。」

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