第98話 親友
あ、パステル☆ナイツのリーダー、生きてたんだ。って、突然現れたぱんじーさんが当て身をしたかと思うと、気絶したリーダーを肩に担ぎ上げてどこかへと消えた。またゲートに放り投げに行ってくれたのだろう。
視線を戻すと、雄々しい姿に変化したクーガーが、黒爪を振り降ろす瞬間だった。僕の目でも捉えられぬ早さで放たれた斬撃は、一撃で黒山羊を切り刻んだ。
『ホウ、ホウ、ホウ、ホウジョウヲ、サズケン。』
シャ、シャベッタァアアアアアアアアアアアアア!?
さ、最後の最後でしゃべったよ、黒山羊君(ちゃん?)。でも自らの意思でしゃべったというよりは、倒されたときにそう言うようにあらかじめ“設定されている”ような…?
『加護獲得:黒山羊の加護』
ん、ん!? 加護!? 加護って何!? いいや、とりあえず一回後回しにしよう。
黒山羊は黒い汚泥となって、辺り一面にばしゃばしゃと降り注いだ。汚泥が地面に落ちた瞬間。そこから勢いよく様々な植物が顔を出して、早送りのように成長を始めた。
『み、水だ!』
『オアシスが生まれるぞッ!』
ピューマンたちが歓喜の声をあげる。振り返ると、黒山羊の本体があった場所から大量の水が湧き上がっていた。その水は非常に透き通っており、不思議なことに魚まで泳いでいた。
「これが、豊穣か…!」
『モンゴローーーッ!!!』
神の恵みに感動していると、すぐそばにクーガーが着地した。いつのまにか足下まで噴出していた水がしぶきをあげて、僕の鎧を濡らした。
「クーガー! やったね、おめでとう!」
『何を言う、お前が守ってくれたからではないか!』
僕の青い鎧と、クーガーの黒い装束が、ほどけるように消えていく。
「ってかしれっとその新技なに? びっくりしたんだけど。」
『わからん。お前の変身かっこいいな~と思ってイメージしたら、なんか出来たのだ。』
え、えぇ…。イメージだけで再現しちゃったの…?
『リーダーッ!』
『隊長――ッ!』
ブチを筆頭に、戦士たちがバシャバシャとしぶきをあげながら走ってくる。みんな、輝くような笑顔だ。
『お前たち、よく頑張ってくれた。お前達がいなければ今の我はない。お前達と戦えることが、我の誇りだ。』
『リ、リーダー…!』
雲が晴れ、光が差し込む。その光がスポットライトのように、オアシスを照らし出した。
天使のはしご。キラキラと輝く水面、心地よい風。
クーガーの猫のような髭が、ふわふわと揺れた。
『リーダー。いえ、我らが新しき長よ。』
一斉に跪くピューマンたち。
『我ら、新しき長の群れに加われること。誇りに思います。』
クーガーは民を見渡して、深く頷いた。
『我が群れの戦士たちよ。お前達と共に戦えることを、この大地を駆け共に生きることを、我は誇りに思う。立て、戦士達よッ!』
ピューマンたちが一斉に立ち上がる。彼らの目は、誇りと、希望で、輝いていた。
『帰ろう、我らの故郷に! 凱旋だァーーーーーッ!』
『『『ウォオオオーーーーーーーーーーッッ!!!』』』
クーガーが駆けだした。僕も、ピューマン達も駆けだした。
平原を駆け抜ける新しき黒い風は、どこまでも爽やかで、自由で、優しかった。
○
『ガルルウォオーーーンッ! クーガー、我が息子よ! よくやった、よく成し遂げたァーーーーッ!!!』
『ちょ、父上! もう三度目ですし、あまり動き回らないでください! 傷が開いてしまいます!』
『ひゃひゃひゃ、今日くらい良いでは無いか! このまま死んだとしても、それこそ本望じゃろうて!』
『オババまで! そんな縁起でも無いこと言わないでくれ!』
夜。集落ではそれはもう大規模な宴が行われていた。ガズルさんとオババは一時生死の狭間を彷徨ったが、どうにか一命を取り留めた。僕が提供したポーションと、<癒やしの汗>のおかげだ。傷口に汗を塗ろうとしたら、二人からすごい微妙な顔をされたのは良い思い出(?)だ。
ガズルさんは後遺症で左腕の握力をほぼ失い、オババは片腕を失った。それでも二人はこうして楽しそうに笑っている。強いなぁ。
『さて、我もこれから忙しくなるぞ。まずは新しく生まれたオアシスの管理からだな。』
「集落からも近いし、便利になりそうだよね。果物なんかもたくさん実ってたし。」
『うむ。まぁ、果実があれだけ実るのは最初だけだから、今後は我らがしっかりと管理しなければならない。』
そうか、今後の管理も必要なんだね。なんか「里山」みたいだな。管理されなくなった雑木林はうんぬんかんぬん、みたいな。
『そうだ、モンゴロー。あのオアシスには“モンゴレイブン”と名付けようと思う。お前の活躍を、我らの後生にも伝えていきたくてな。』
「え、いいの? なんだか恥ずかしいな。」
モンゴレイブン。僕の名前が、ピューマンという種族に語り継がれていくのか。なんだかむずがゆいような、嬉しいような。
『恥ずかしがることは無い、お前は我らにとっての英雄なのだからな!』
英雄、か。そうか、僕は、彼らにとっての“ヒーロー”になれたんだ。え、モンスターにとってのヒーロー…? って感じで、某シャドウなヒーローさんは苦笑いしてそうだけどね。
「おいおいなんじゃお主ら、こんなところで飲みおって! オイラも混ぜてちょ~!」
うわ、面倒臭そうなのが来たな。
『ぱんじーさん、お前にも感謝しているぞ。よく襲撃を知らせ、瀕死のオババをも救い出してくれた。改めて礼を言おう。ありがとう。』
クーガーはぱんじーさんに頭を下げた。
「ひょひょ、よせよせ。オイラとクーガーくん達の仲じゃないか。のぅ? モンゴロー君。」
「えぇ? ま、まぁ。ってかもうナチュラルに会話してません?」
モンスタースキルもなしに会話してるのは、一体なぜ…?
「言葉は分からずとも、伝わるよ。オイラたちは心の友…。いや、心の変態友達じゃからな!」
『うわ、なんか嫌なグループでひとくくりにされたのは分かるぞ。』
クーガーにも伝わっちゃってるじゃん。え、っていうかそれ、もしかして僕も入れられてない??
『ところでモンゴロー。お前はこれからどうする? 我は村長になった故、今後お前の案内は難しそうだ。代わりの者をつけるか?』
あ、そっか。クーガーは以前ほど簡単には村を離れられない。そうかぁ…。
うん。ちょうど良いかな。
「僕は、次のエリアに向かうよ。密林エリアへ。」
『そうか。寂しくなるな。』
「うん、お互いにね。」
お互いに、手に持ったコップを口につけた。カルモルアントジュースの甘みが、舌を喜ばせる。でも、どこかしょっぱいようにも感じた。
『お前に、これを渡しておこう。』
クーガーから手渡された物。
「これは、ネックレス?」
丁寧に磨かれた骨や牙で作られた、簡素なネックレスだ。炎の光を反射して、キラキラと輝いている。
『ああ。我が一族に伝わる、伝統のネックレスだ。お前と共に見つけたモンスターたちの骨や牙で作った。生涯で唯一、長の相棒となった者にしか贈れないしきたりなのだが、お前にやる。』
「いいの?」
「ああ。今後お前を超える相棒と出会えることは無いだろうと、確信しているのだ。受け取ってはくれまいか?」
僕はそのネックレスをすぐに首から提げた。
「ありがとう、クーガー! 一生大事にする。君は僕にとって、初めて出来た親友だ!」
自然と、笑顔が溢れた。
僕は右手を差し出した。クーガーは僕の右手を、握り返してくれた。不思議な感触のする肉球が、暖かい。
「え~、いいなぁ、オイラにも頂戴よ!」
『ええい、うるさいぞぱんじーさん! お前には後ほどピューマン伝統のパンツをくれてやるから、それで我慢しろ!』
「え、パンツ!? やったぁ~~~!!!」
『おーいモンゴロー、クーガー!こんなところで何をしているのだぁ! ワシと親子の杯を交わそうではないかぁ~~~!』
「うわ! ちょっとガズルさん酔っ払いすぎですよ!」
『あ、ちょ! 父上! こぼれてる! 酒がこぼれてます!』
宴は夜明け近くまで続いた。
出会いもあれば、別れもある。でも、僕とクーガー達の絆は永遠だ。
風は今日も、平原に吹いている。
―――――
黒山羊の加護
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作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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また、本作カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




