第97話 僕にとってのヒーロー
申し訳ございません、この話の投稿を飛ばしておりました...
「ひ、ひぃっ! な、何が起きて…!」
突如として、ピューマンたちと黒山羊の戦いが始まった。なんだ、なんで、なんでモンスター同士で? それに、ミナトとソウをたった一撃で殺したバケモノを、殺せるはずがない!
:ミナト様が
:ソウくん
:どうして
:なにあれ
:ピューマンが戦ってる
:縄張り争い?
:何がおきてるの…
這うようにして岩場まで進み、様子を窺うようにして戦いに目を向ける。唯一生き残った撮影ドローンがピューマンたちと黒山羊の戦闘を写しているようだ。
この際、もうコメントなんてどうでもよかった。
俺を蹴り飛ばしたピューマンが、風のように駆け抜けながら触手を斬り飛ばして行く。他のピューマンたちも、洗練された動きで跳ね回るようにして戦っている。
:ねぇ、ピューマン強くない?
:ショックでそれどころじゃない
:ヒナタくんは?
:ヒナタ君生きてる?
:たぶん…
:岩陰にいるの、ヒナタ君じゃない?
:ほんとだ
:生きてて良かった
:隠れてるのださい
:ソウとミナトの仇討ってよ!!
くそ、バカ言うな! あんなバケモノ、俺一人で勝てるわけないだろッ!
:ねぇ、こっち睨んでない?
:ださ
:自分だけ逃げやがって!
:ふざけんな!
:リーダーなんだから戦えよ!
:二人が死んじゃったのお前のせいだ!
傍観者が好き勝手言いやがって! 俺だって死にかけてるんだぞッ! 殺すぞ、クソ女どもッ!!
バシィーーーンッ!!
『『グルル、ギャオーーッ!?』』
衝撃音と、ピューマンたちの叫び声。目を向けると、黒山羊の攻撃によって複数のピューマンたちが負傷したようだ。素早さで翻弄しながら攻撃を加えるピューマンたちであったが、決め手に欠けている。
フン、これじゃあ勝てないだろうな。俺たちの<パステル☆ナイツ☆ストリーム>でさえ殺しきれなかったんだ。ピューマンごときに、黒山羊が殺せるかよ!
このままこいつらも、皆殺しにされちまえ!!!
負傷で動けないピューマンたちに、触手の群れが襲いかかる。あーあ、死んだな。そう思った瞬間、黒いピューマンが目にも留まらぬ早さで割って入り、触手のすべてを黒い風の刃で断ち切った。
なんだあいつ。あいつが、黒い疾風か!? いや、黒い疾風は隻眼のピューマンだったはず。そういえばモブゴローの配信で見たような…。
ブオンッ!!
「ひぃいいいっっ!?」
伸縮する触手が黒いピューマンを追って、こちらまで伸びてきた。あと少し岩陰から顔を出していたら、死んでいたところだった!
:ひい、だって
:だっさ
:幻滅しました
:さすが、マケテル☆ナイツ
:お前もソウくんたちと死ね!
:何一人だけ生き残ってるわけ?
:恥ずかしくないの?
:さすがに不謹慎だろ
:二人亡くなってるんやぞ
:騎士団、ぐう畜で草
:同じ人間だと思いたくねえわ
クソ、クソクソッ。どうして、どうしてなんだよ…! 俺が、悪かったのか? 俺が、傲慢だったから? あのとき、黒山羊が現れた瞬間逃げていれば。ソウとミナトは死ななかったんじゃないのか?
俺も、死んだ方がいいんじゃないのか?
涙で視界が歪む。そうだ、俺も死ねば良かったんだ。そうすれば、こんな思いすることも無かった。パステル☆ナイツも、黒山羊に挑んだ英雄として、歴史に名を残せたかもしれない。
ああ、俺も一緒に死んでいれば。
絶望に心が飲まれそうになった瞬間。
青い光が、差し込んだ。
「えっ?」
ドォオオ、ン。
巻き上がる土煙のその奥に。
青い鎧が、佇んでいた。
「…ヒーロー?」
それは、子供の頃に憧れた英雄の姿だった。
10年以上前、人々を守るために戦って散った、俺にとっての“ヒーロー”。
俺が探索者を志した、きっかけ。
蒼天の英雄、守野ヒデオさんの姿だった。
○
:なに!?
:なんだ!?
:あの青い鎧、誰??
:おいあれって
:蒼天の英雄じゃねえの!!!!
:は!? 15年前の!?
:いや、英雄は死んだはずだぞ
:じゃああれは誰だよ!!!!!
騒然とするコメント欄。俺自信も困惑していた。そう、“英雄”守野ヒデオはすでに死んでいる。ではいったい、あれは誰なんだ…!?
そんなことを考えていると、目の前で信じられないことが起きた。
ズドォオオオーーーーンッ
:うそだろ!??
:うそでしょ!!!?
:投げた!?
:背負い投げしたぞ!!!
:黒山羊を背負い投げ!!?
あの黒山羊を、ぶん投げたのだ。ありえない、だが。
龍の王を討った、英雄なら。
視線が釘付けになった。見間違えるはずがない、あの姿。幼い頃、何度も見たその姿。蒼天の鎧を身に纏い、聖女と共にダンジョンを駆ける。
その英雄が今、目の前に…!
黒いピューマンが駆けだした。同時に英雄も駆け出し、黒山羊の触手を切り刻んでいく。どちらも速い。強化された視力でギリギリ追えるかというほどの速度。なぜ、英雄がピューマンと共闘しているのかはわからない。
わからないが。そんなことは、些細なことだった。俺は、英雄しか見えていなかった。
苦戦するピューマン達を守りながら、籠手から伸びた刃で触手を断つ。初めて見る攻撃だが、弱き者を助ける姿は、まさに英雄そのもので。
『ホウ、ホウ、ホウ。』
不吉な鳴き声に目を向けると、黒いピューマンに向かって、「死の触手」が振るわれようとしていた。
避けろ、死ぬぞ!
しかし、黒いピューマンは走り続ける。避けるそぶりすら見せない。何故だ、殺されてしまうぞ! あれ? 俺はどうして、黒いピューマンを応援して…?
再び、青い光が明滅した。
黒いピューマンのすぐそばに、青き英雄が現れて。
「<我が身を盾に(かばう)>。」
ああ。
ああ、本物だ。本物の、英雄だ。
あの技こそ、青き英雄のスキル。人々を守り、時には聖女も守ったスキル。見間違えるはずがない。
だって、俺は、僕は、何度も見てきたから。
幼き日の憧れが、色を帯びて蘇る。そうだ。僕は人気配信者になりたかった訳じゃない。僕がなりたかったのは、彼のような英雄。
彼のような、“騎士”。
轟音、光り輝く英雄は自らを盾にして攻撃を防いだ。黒いピューマンが雄叫びを上げると黒い風が渦巻き、それらが美しい装束となって具現化した。
英雄は、ピューマンを見守っていた。不意に彼が、こちらを向いて。
青く、まっすぐな眼光と目が合って。
ああ、僕は、僕はあなたの――。
首筋に、軽い衝撃。
「ひょひょ、続きはファンテ○アで見るんじゃな!」
『ヒナタ、あんた宿題はやったの!!』
『あーっ、待ってよ母さん! 今、すごく良いところだったのにーっ!』
幼き日の記憶。
テレビの電源を消されるように。
意識がぷつりと、暗転した。




