第94話 『くだらない悲劇』
『キュルルルルルルル、フシュゥウウウウーーーーーッッ…。』
「なっ!?」
ぐしゃぐしゃにされて吹き飛ばされた僕は、これ幸いにと“変身”して舞い戻った。瞬間的な怒りのあまり殺意が膨れ上がって“X・フォーム”になってしまったが、好都合だ。
ふぅ、落ち着け。このまま怒りに飲まれては、前回同様の間違いを犯してしまう。もうあんな思いはこりごりだ。クールに行こうぜ、モンゴロー・X。
『…消えろ、ニンゲン。』
「…ヘッ、突然現れたかと思えば。何者だ? テメェ。」
大人しく消えてくれよ。こっちは譲歩してやってるんだぞ?
『…答える義理はない、これが最後通告だ。消えろ、スタンピードを引き起こしたいのか?』
困惑する様子の二人。しかし何を考えたのか、クソ妹の方がずいっと前に出てきた。
「モンスターの分際で、何様ですの?」
…ほう? よく僕を、俺を前にしてそんなに強気に出られるな? その蛮勇は一体どっから来ているんだ?
「スタンピードが、なんなんですの? モンスターであるあなたには全く関係ありませんの。」
まぁ、そう思っても不思議ではないが。だが何故そうまでして固執する?
「それに、またスタンピードが起きたって――」
起こさせてたまるか。お前らみたいなバカが、前回のスタンピードを引き起こしたんだ。そのせいで父さん、母さんは。
見ず知らずのニンゲンたちを守るために、死んだんだ!
「私たちが一人の犠牲も出さずに、止めてみせるの。――“無能な英雄様達”とは違って!」
無能な、英雄様達とは、違って…?
過去の記憶が、蘇る。
『ゴロウ君。君のご両親は、“英雄”だ。君のご両親のおかげで多くの命が救われたんだ。それはね、とても誇れることなんだよ。』
『ねぇ、おじさん。』
『なんだい? ゴロウ君。』
どうして。
『どうして、パパとママは、僕を置いていったの…?』
どうして、僕よりニンゲンなんかを選んだの?
こんな、目の前にいるこいつみたいな、クズばかりのニンゲンなんかを。
視界が赤く、染まっていく。
『…そうか。』
それが、お前の。お前達の、答えなんだな?
『死ね、ニンゲン。』
ならば、これが俺の“答えだ”。
<初速全開><怪力><突進><刺突突進><デスロール><俊足><骨格強靱><猛毒の牙>…
「ルナぁああああああああああああッッ!!!!」
グシャッ。
おや? 女の方を殺すはずが、兄の方を殺してしまった。ドリルのように回転する拳と、猛毒滴る変異牙が、おもちゃのようにピカピカと光る斧ごと、高松タイヨウの肉体をぐちゃぐちゃに粉砕して吹き飛ばした。
そうか、<かばう>スキルか! さっきの僕と同じだね。いやぁ、泣けるなぁ! これが兄妹の愛ってヤツかな? まぁ、そんな愛(笑)は俺が粉砕してやるけどな。
「…え?」
今更気づいたのか? 遅い、遅すぎる。
お前が全身に浴びたその血は、誰の血だと思う?
お前の大事な大事な、お兄様の血だよーーーーーーーーーーッッ!!!
いひひひひひひひひひひひひひひひひっ! あーあ、お前のせいだ。お前のせいでお兄様は死んだんだ。黙って消えていれば、殺されなかったのに。
でも、もう遅い。殺す。
宣言する。ホームラン宣言のように、指を指して。
『――次は、オマエの番だ。』
あの世で一緒になれるんだからさ。寂しくないよね?
「ああああああああああああああああああああああああッッ!!!」
発狂したように鎌で斬りかかってくる妹。全身からは赤く染まった魔力が噴き出しており、目からは血涙を流している。
何被害者面してんだよ。俺から手を出したか? 出してないだろ。お前が、お前達が始めたんだろ? このくだらない悲劇を。
怒りと悲しみで限界を超えた高松ルナの連撃は、怒れる鬼神のようであった。生身の俺であれば、一瞬で細切れにされていたかもしれない。いやぁ、恐ろしい。これこそ真の攻略勢。でもここはダンジョンだ。
攻略勢がモンスターに殺されることなんて、よくあること。
<霊体化><影魔法>
ほら、止めて見ろよ、この俺を。一人の犠牲も出さずに、スタンピードを止めるんだろ?
俺の父さんと母さんとは違ってさァッ!!!
『――<影霊の揺り籠>。』
全身が影のごとく真っ黒に染まり、赤い複眼だけが光を放っている。闇の化身がごときこの姿は、数秒間すべての攻撃を透過させる。
「お兄様を、返せエエエエエエエエアアアアアアアアッッ!!!!!」
金色と赤色の魔力が、高松ルナの持つルナ・トーンへと集約されていく。常人であれば失神するほどの魔力圧を放つその異様な鎌は、まるで血が滴る処刑台の刃が如く。
「――<死残月臥>ァアアアッッッ!!!」
一人残された、悲しい月の名を冠する絶技。
空間までも斬り裂きながら迫るその技を。
<影転移>
どぷん。自らの影へと沈み込み、受け止めもせず転移で回避。
高松ルナの背後に伸びる、その影から。不可避、必殺の一撃が放たれる。
『あばよ、ブラコンクソ女。』
「ッ!?」
<鞭打><骨格強靭>。強化された肉体と骨から打ち出された神速の尾の鞭は、音を置き去りにした。
『————<伸縮自在の死鞭>』
ベキャアッッッ!!!
「あぎゃごぽっ。」
ルナ・トーンを真っ二つに粉砕。全身から血を噴き出して、体をくの字に曲げながら曇天へ打ち上げられる。血煙と、キラキラと光る金属片と共に空の彼方へと吹き飛ばされた高松ルナの姿は、すぐに見えなくなった。
バシィンッ!
小バエをはたき落とすように、伸縮した尾で撮影ドローンを粉砕する。
分厚い雲が、太陽と残月を完全に覆い隠した。
『――父さんと母さんは、お前らなんかより強かった。』
作者のおしり炒飯と申します。
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