第93話 『最後通告』
「はぁっ! はぁっ!」
:おいおいおい
:死んだわ、アイツ
:いやさすがにまずくね?
:殺人じゃん
:通報した
:何言ってんだモンスターかばうようなやつ殺して何が悪いんだよ
:そうだよ(便乗)
鎌越しに骨が砕ける感覚が、手に残っていますの。でも、我慢できなかった。あんなヤツに、お兄様と私の何が分かるっていうの!?
施設での、地獄のような日々。つかの間の幸せも、モンスターたちによって奪われた。クソ無能な“英雄”は私たちを、家族を守ってはくれなかった。
「ルナ、落ち着け。」
「ご、ごめんなさい、お兄様。つい、カッとして…。」
「良い、ルナが殺らなきゃ俺様が殺ってた。」
やっぱり、お兄様と私は以心伝心、運命共同体。
「モンスターをかばうようなヤツだ、殺されて当然。俺様達は悪くねぇ。アイツだって攻撃してきた訳だしな。」
:先に攻撃したのお前だろ
:殺されて当然
:そんな、モンゴロー
:うそだろ
:この人殺しが
:モンスター信者黙れ
:モデレーター仕事しろ!
私たちが雇ったモデレーターによって、クソゴロー信者たちがキックされていきますの。いい気味ですの。
「さて、と。待たせたなァ? 黒い疾風さんよ。」
黒い疾風はその隻眼で、鋭く私たちを睨めつけていましたの。動くこともできないくせに、なんて生意気なの。
「なんですの? その目は。まさか“お友達”が殺されて怒ってますの?」
モンスター風情が、お友達ごっこだなんて。
「あははははは! なんて滑稽ですの!? ああでも安心して欲しいの。あなたも今から――」
ルナ・トーンを振り上げる。雲間からうっすらと顔を覗かせる陽光を、鈍い銀色が照り返す。鎌のところどころには、モンゴローの血が付着している。
「お友達のところに、送ってあげますのッ!」
振り下ろされるルナ・トーン。命を刈り取る心地良い音。
<危機感知>が、反応した。
ズダァアアーーーーーーーーンッッ!!!
処刑を中断し後方へ飛び下がった瞬間、さきほどまでいた場所に何かが着弾した。
土煙の中、ゆっくりとソレが立ち上がる。
『キュルルルルルルル、フシュゥウウウウーーーーーッッ…。』
「なっ!?」
2mをゆうに超える巨体。全身は深い緑色の鱗で覆われている。ところどころに棘のような突起物があり、肉食昆虫のような顔。
背中の羽は黒く禍々しく、テラテラと曇光を反射していた。異形の脚、隆起した筋肉。腕には毒々しい色と形をした、角のような何か。
は虫類、いや。恐竜がごとき尾がゆらゆらと揺れ、口元からはどす黒い瘴気のようなものが垂れ流され、空へと溶けている。
かつて新宿ダンジョンに現れた、異形のモンスター。
「モンスター、X…ッ!?」
「な、なぜ富士ダンジョンにいるんですのッ!?」
全身に冷や汗が流れる。黒い疾風よりも濃密な気配と、殺気。殺せる? お兄様と二人でなら。ううん、例えどんな強敵であっても、お兄様と二人なら…!
『…消えろ、ニンゲン。』
しゃべった!? やはり噂は本当ですの!?
「…ヘッ、突然現れたかと思えば。何者だ? テメェ。」
さすがお兄様。あんな化け物を相手にしても普段通り。ルナも負けていられませんの。
『…答える義理はない、これが最後通告だ。消えろ、スタンピードを引き起こしたいのか?』
スタンピード? スタンピードがこいつに、何の関係がありますの? それにさっきから黙って聞いていれば。
「モンスターの分際で、何様ですの?」
再び、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「スタンピードが、なんなんですの? モンスターであるあなたには全く関係ありませんの。」
こいつにスタンピードなんて関係ない。モンスター如きが、人間のまねごとのつもりですの?
「それに、またスタンピードが起きたって――」
そう、仮に起きたとしても。
「私たちが一人の犠牲も出さずに、止めてみせるの。――“無能な英雄様達”とは違って!」
私たちは強い。家族を守ってくれなかった無能の英雄や聖女とは違うッ!
『…そうか。』
「そう。分かったなら、あなたこそ消えるといいの。さっさと後ろのピューマンを始末して」
『死ね、ニンゲン。』
時間の流れが、ゆっくりになる。ありえない速度で迫る、モンスター・Xの拳。突き出た角のような棘は、妖しげな液体で濡れておりそれが何かしらの毒物であることがわかる。
は、やい。避け、られない…ッ!?
あっ、私、死ん――。
「ルナぁああああああああああああッッ!!!!」
グシャッ! ぴちゃぴちゃっ。
「…え?」
全身に、暖かい何かがかかった。
おにい、さま…?
遙か後方、何かがべちゃりと音を立てて落ちる音がした。
ひしゃげた白い鎧は、血で赤く染まっており。四肢はあらぬ方向へねじ曲がり、黄ばんだ骨が突き出している。
ガイ、イン。
遅れて地面に落ちたサン・バーンは見る影も無くひしゃげ、歪み、破壊され。ばらばらと、その破片が大地に降り注いだ。
絶望がゆっくりと、私を指さして。
『――次は、オマエの番だ。』
フシューッ。まるでにやりと笑ったかのように。
黒い瘴気が、口元から立ち上った。
あ、あ、あああああああああああああああああああああああああ!!!!
作者のおしり炒飯と申します。
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