第91話 死闘
チッ。黒い疾風の雰囲気が、ガラリと変わりやがった。いよいよ本気で来るか。
炎陣で誘い込み、ルナの一撃で仕留めるという作戦は失敗に終わった。あれで殺されてくれれば万々歳だったんだが、そう簡単にいくとは思ってねえ。
相手はあの、“黒い疾風”。
これまでに数十人もの探索者が、ヤツに挑んで殺されている。ただの数十人じゃねぇ、攻略勢の数十人だ。
さっきから分厚い雲が垂れ込めてきて、風が強くなっている。嫌な感じだ。こういうときは大抵、何かが起こる。
「さてと。ルナ、分かってるな?」
「はい、お兄様。」
俺たちが踏み込もうとした、瞬間。
「ッ!?」
風。
ガギィイイイインッッ! 甲高い音。
「ルナッ!!」
気づけばルナに、黒い風が纏わり付いていた。ルナは鎌を回転させるようにして、やつの攻撃を防いでいる。しかし、防戦一方だ。クソッ、こいつ、俺たちを各個撃破するつもりか!
「俺の妹に、触れるんじゃねえッ! <陽光>ッ!」
スポットライトのように、雲間から日の光が降り注ぐ。俺のスキル、太陽魔法。太陽が出ている限り俺の力は上昇する。陽光は曇天であろうと強制的に日の光を照射させる魔法だ。
ヤツは常に動き続けている。かろうじて目で追えるほどの早さ。しかし、目で追えるということは、“反応できる”ということでもある。
「そこだァッ!」
俺の戦斧、サン・バーンが炎を吹き上げて唸る。俺の魔力に呼応して炎熱を発するこの斧は、数々の強敵を屠ってきた。
ガギィイイイーーーーンッッ!!!
俺の一撃を、漆黒のナイフで受け止めた黒い疾風。計算通り。
「受け止めたな? 俺の一撃を。」
『ッ!?』
解き放たれる、魔力と熱波。
「――<サン・バーン>。」
己が武器の名を冠する、その技。
俺様の代名詞とも言えるその一撃は。
「お前、黒いからよぉ。」
太陽が如き炎と熱を、炸裂させる。
「よく、燃えそうだよなァッ!!!」
ドグォオオーーーーーーーーーーンッッ!!!
『グルルルゥァアアアッッ!!!??』
吹き飛ぶ黒い疾風。全身を焼かれながら宙を舞い、地面へと激突した。
「今だ、やれェ! ルナッ!」
叫んだときにはすでに、ルナは大鎌を振り上げ跳躍していた。
「これでお終いなの。――<ルナ・トーン>。」
鈍い光が鎌に宿る。ルナの全身から黄金色の魔力が迸った。これこそルナの代名詞。サン・バーンと同じくその名を冠する必殺技。月魔法を纏わせ一撃で首を断つ、即死技だ。
ヒィ、ン。
この武器特有の、不可思議な音が響く。月は残月となって、昇っている。故に、日中であろうと月魔法を行使できるのだ。
決まった。不可避の攻撃、ヤツに免れる術はな――。
『――<呪縛>。』
「「ッッ!?」」
なんだ!? 体が、動かねぇッ!!
どこだ、どこからこの魔力は!?
黒い疾風の背後。巨大な骨の杖を持つ老ピューマンが、茂みから見えた。体は半透明になっており、一切の気配も感じない。
そうか、この瞬間。この瞬間のためだけに、ずっと隠れてやがったのかッ!
視界の端、黒い影が飛び上がった。あいつ、動けるのにやられたフリをしてやがった!!
『――<黒爪一陣>。』
今まさに、ルナへとその刃を振りかざそうとしていた。クソ、動け。動け。
動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けぇえええええええええええーーーーーーーーッッ!!!!
ブチブチと音を立てて、何かがちぎれた。
「――<サン・フレア>ァアーーーーーーッッ!!!」
怒りに呼応するかのように、濃密な魔力が解き放たれた。掲げた俺の左腕から放たれた熱線は、直線上のものを一瞬にして焼き尽くし蒸発させた。
ジュゥウアアアアッッ
『―――ッッ!!!』
老ピューマンが慌てて回避を試みる。しかし、遅え。杖を持った右腕が、溶けるようにして蒸発した。
呪縛が解けた、動けるッ!
「ルナァアアーーーーーッ!!」
「うぁああああああああああッッ! <ルナ・リフレクト>ッ!!」
月の光は太陽の光の反射。ルナ・リフレクトは一定以上のダメージを反射する防御魔法。すんでのところで防御が間に合ったが、黒い疾風の一撃すべてを無効化することは出来ない。
「ぐぅううううううううううッッ!!!」
ルナが黒い疾風の一撃で、地面に激突した。口からは血を流しており、少なくないダメージを窺わせた。
「ルナッ! ぐぅっ!?」
ルナに駆け寄ろうとした時、左腕に激痛が走った。見ると左腕は血まみれになっており、ボロボロに裂けてしまっていた。そうか、呪縛を無視して無理矢理動かしたせいで筋繊維ごとズタズタに引き裂かれて…!
『ガフゥッ!!』
見ると黒い疾風も重症だった。全身から煙を上げ、息も絶え絶えだ。老ピューマンは右腕から大量に血を流して倒れており、動く気配はない。
双方、瀕死。
次の一撃で、すべてが決まる。
「ルナ、気張れ。行くぞ。」
「は、い。お兄様。」
気丈に笑顔を見せる、ルナ。
ここで、こんなところで負けるわけには行かねぇ。
「――<陽光>。」
「――<残月>。」
それぞれが、それぞれの魔力を体に帯びる。黒い疾風もすべてを悟っており、最後の気力で全身に黒い風を纏った。
さぁ、決めようか。
勝者を。
「うおおおおおらああああああああーーーーッッ!!!<サン・バーン>ッッッ!!!」
高熱のあまり白く変化した炎が、すべてを焼き尽くしながら黒い疾風へと迫る。これが俺の持てる、全力の一撃。これを食らって、消し飛――。
『ひゃひゃ!――<天与呪縛>。』
突如、体が動かなくなった。まさか、まさかあのクソババアッ!!!
視界の端で、ニヤリと笑いながら顔を上げるクソピューマンが見えた。まずい、先ほどよりも強い呪術。さっきのは本気じゃ無かった、今この瞬間のためにすべてを残していたのかッ!
黒い疾風が駆け抜ける。俺は全身に灼熱の業火を纏っている。故にヤツは近づけない。いや、近づかない!?
ヤツの真の狙いは、ルナ。最初から最後まで、各個撃破に専念していたのか!
黒い死の風が吹き抜けて、ルナへと迫る。すべてが奴らの、手のひらの上ッ!
『―――<黒爪千刃>。』
嵐だ。死の風の、嵐。
すべてを無に帰す、自然災害をも超越した力。
ああ。
ああ、クソ。
“ざまぁみろ”!
ゴォー、ン。
不思議な音。荘厳な音が鳴り響いた。
それはまるで、鐘の音だった。
俺のサン・バーンは、攻撃のために放った訳じゃねえ。すべては、ルナのため。ルナが持つ最強の必殺技のため。
なぁ、知ってるか? クソピューマン共。
月ってのはな、太陽の光を反射して輝いているんだ。太陽の輝きが強ければ強いほど、月はその輝きを増す。そして、太陽が沈めば、月が昇る。
つまり、何が言いてえかって言うと――。
『さようなら、黒い疾風。――<落陽昇月>。』
俺様達の、勝ちってことだ。
○
視界が、揺れている。呼吸が出来ない。記憶が、曖昧だ。ワシは今、何をしていた? そうだ、確かニンゲンのガキ共と戦っていた。
ああ、思い出した。そうか、ワシは。
ワシは、負けたのか。
『ガヒュウッ!?』
視界に色が戻った。自らの体が、ひどく暖かく感じる。斬られていた。おびただしい量の血液がドクドクと流れ出し、己の体を濡らしていた。
「勝負はついたぜ、黒い疾風さんよぉ。」
揺れる視界の中、戦斧を掲げたニンゲンのガキが近づいてくる。負傷している様子はない。どうやらポーションとやらを使って、回復したようだ。
「“ババアには逃げられた”が、まぁ良い。俺様達の標的は最初からアンタ一人だったからな。」
「ずいぶんと手こずらせてくれたけど、これで終わりなの。」
ああ、ここまでか。
ガルフフフ、悪くない一生だった。風のように、駆け抜けた。
ロロ、今行くぞ。
「あばよ、黒い疾風。アンタ、強かったぜ。」
さらばだ、皆の者。さらばだ、我が息子よ。さらばだ、モンゴローよ。
ゆっくりと、目を閉じた。
ガィイイイーーーーーンッッ!!!
耳をつんざくような、衝撃音。
「…テメェ、なんのつもりだ?」
「ガズルさんを、殺させはしない。」
ああ、この声は。
『…モン、ゴロー。』
我らピューマンの、“英雄”。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
面白ければぜひ、リアクションと評価いただけると嬉しいです。
また、本作カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




