第89話 夢の終わり
近づくほどに明らかになる、その巨体と異様さ。
『ホウ、ホウ、ホウ。』
『メェエエエエエーーーーーーーッッ!』
それぞれの口が、異なる鳴き声を発している。黄ばんだ歯が覗く口からは、絶えず緑がかった唾液が滴り落ちている。
「散開だッ☆」
俺たちはほぼ同時に散開し、黒山羊を取り囲むようにして布陣した。
「ミュージック、スタートッ☆」
マイク型の杖を、それぞれがアイテムボックスから取り出す。ドローンから大音量で、軽快かつポップ、しかしどこか緊張感のある音楽が流れ出した。
「放たれた光、君を打ち抜く<光線>☆」
カメラドローンが俺を写す。指先から光魔法、光線が迸る。
ヂュンッ!
光は黒山羊の体表に着弾したが、粘液に阻まれ煙を上げただけだった。クソ、だがまぁいい。これはただの挨拶に過ぎない。
「さわやかな風、君の髪を撫でる<爽風>~!」
ソウの風魔法、爽風。パーティ全体の行動速度や跳躍力を上げる補助魔法。
「透き通る水、君を映し出す<水鏡>。」
ミナトの水魔法、水鏡。これは空中に水のレンズを無数に展開し、光を反射することで相手を攪乱する妨害魔法。日の光が無くとも、俺の放つ光魔法やライトドローンの光も反射することができる。
さぁ、これで舞台は整った。
「「「君のためのナイツ☆ 忘れられない夜! パステル☆パーティ☆ナイツ!」」」
『メェエエエーーーーーーーーーッッ!!!』
触手の群れが踊り狂う。鞭のように振るわれる無数のそれらが、空を裂きながら俺たちに迫る。だがそんな攻撃、俺たちには通じないッ☆
「「「とうっ!!」」」
それぞれがステップを踏み、宙を舞うようにアクロバット回避を披露する。光、風、水。それぞれが魔力の残光を描きながら、黒山羊の周囲を飛び回る。
「照らせスポットライト! 眩しすぎたらごめんね☆ <レーザー・ビーム>☆」
俺の両手から、二条のビームが放たれる。雑魚モンスターであれば当たっただけで消滅するほどの光線だ。黒山羊とは言え、無傷とはいかねぇだろ!
『メェエエエァアアアアアッッ!!!』
黒山羊の絶叫。ビームは水鏡にも反射して、何度も黒山羊に照射される。細い触手のいくつかが焼き切られて、ジュウジュウと煙を上げながら、ボタボタと地面に落ちた。
「風は気まぐれいたずらっ子! 巻き上がれ、<トルネード>~!」
黒山羊を中心に竜巻が巻き起こる。ただの竜巻ではない、風の刃を内包した竜巻だ。ビシュビシュと粘液ごと体を切り刻まれる黒山羊。
粘ついた体液がビチビチと宙を舞い、非常に不愉快だ。
『メェ、メェエエアァアアアアアアアア!!!』
「水はクール、けれどその流れは激しい。唸れ、<ウォータージェット>。」
超高圧の水流が、ミナトの手から解き放たれる。それはもはや水の槍。螺旋を描きながら黒山羊へと殺到し、ドリルのように表皮をえぐる。
絶叫をあげながら身もだえする黒山羊。よし、すべての攻撃が効いている!
やれる。やれるぞッ!!!
「さぁ、いよいよフィナーレだ☆」
三人が集結する。今、トルネードとウォータージェットが合体し、<ウォーター・トルネード>となって黒山羊を足止めしている。
今こそ、パステル☆ナイツ最強の必殺技を放つ好機ッ!
「さぁ、僕たちを応援して~!」
「皆さんの力を、結集させる時です!」
:スパチャ:\10,000 やれえええ
:スパチャ:\60,000 栄光あれーーーーーーーーっ!!!
:スパチャ:\280,000 ころすsころおるこう
:スパチャ:\160,000 いけええええええええええっ!!!
光、風、水の魔力が渦巻き、俺たちの体を巡る。
キィィ、ン。
反発し合う魔力をねじ伏せるようにコントロールして、圧縮する。額から汗が流れ落ちた。
ビカビカと光が明滅し、とてつもない力が生まれていた。
臨界点。ここだッ!
今ここに、三人の魔力を束ねて解き放つ。
三人同時に、腕を思い切り前に突き出した。
「「「パステル☆ナイツ☆ストリーーーーーーーーーム!!!」」」
豪ッッ
三色の光が螺旋を描くようにして絡み合い、解き放たれた。
爆音と閃光。ドローンから大量の紙吹雪がばらまかれ、俺たちのライブは盛大なフィナーレを迎えた。
やった、やった、やってやった!!! これで復活だ。パステル☆ナイツの完全復活だ! 今日この日から、俺の大躍進が始まる。モンゴローなんて目じゃない。あんなやつを遙か彼方に置き去りにして、俺は配信者の王になるッッ!!!
「ふぅ☆ ありがとう、みんな! みんなのおかげで、あの黒山羊を討伐することができたよ☆」
「みんな、ありがとう~! どうにかなってよかったぁ~。」
「ありがとう、子猫騎士団員の皆さん。皆さんのおかげ――」
ベシャアアアンッ!!!
…え?
なんだ、これ。
ミナト? どこに、行ったんだよ。俺の全身、濡れてる? なんだこれ、汗、水?
違う、ちがう。これ、は。
血…?
ずるり、ずるり。
音の方向に視線を向けると。
真っ黒で太い何かがゆっくりと、地面を這うように動いていた。
その下からは、大量の血。そして。
ミナトの腕らしき物が、ビクビクと指を震わせていた。
「う、あ、え?」
立ち上がる、黒い影。
ぶるり、と。震えた。
『ギュルルルルェエエエァアアアアアアアアーーーーーーーーーーーッッッ!!!』
「う、うぁああああああああああああああ!!!!!!」
ソウが一目散に逃げ出した。黒い触手の群れがソウを襲う。死に物狂い、限界を突破した動きでそれらを回避する。ドローン4台が即座に叩き潰された。
「あっ。」
思わず、俺の口から声が漏れた。
太い触手。ミナトを叩き潰したのと、同じような触手が動き出した。それは細かな触手とは一線を画す動きと威力をしていて。
「あ。」
ベッチャァアアアアアアンッ!
まるで、人間が蚊を潰すように。いとも容易く、ソウはぺしゃんこになって。血と肉片の雨が降り注いだ。
「あ、うぁ…。」
俺は、その場にへたり込んでしまった。もう、動けなかった。俺たちの与えた攻撃は、確かに効いていたのかもしれない。
けれど。
俺たちの本気の攻撃は、こいつを“怒らせただけ”だった。
:いやぁああああああ
:きゃああああああああああ
:やだやだやだやだやだ
:むりむりむりむりむり
:あああああアアあああああ
配信のコメントは阿鼻叫喚だった。でもそんなことはもう、どうでもよかった。死んだ。俺ももうすぐ、殺される。
血の雨が頬を伝う。暖かい。いや、それは俺の涙かもしれなかった。
『ホウ! ホウ! ホウ!』
笑っている。黒山羊が、笑っていた。いくつもある醜悪な口が、ニタニタと笑みを浮かべていた。
触手の群れが、俺めがけて殺到する。ああ、死んだ。
「ごぶぅッ!?」
衝撃が体を襲った。あれ、思ったよりも、軽い衝撃…?
『ガルゥッ。(邪魔だ、どけ。)』
「う、うぇ?」
顔を上げると、そこにいたのは。
黒い、ピューマンの男だった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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また、本作カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




