第7話 エッジラビット
「ねぇカツヤ、ちょっとこれ見てよ。」
「あ? どうした、リオ。」
ファミレスの一角、霧崎リオはスマホの画面をカツヤに見せた。
『では、どれくらいの消化力があるのか、スライムに指を突っ込んで、試してみましょう!』
そこに写っていたのは、モンゴローこと守野ゴロウの配信であった。
「は? マジかよ。クソゴローのやつ、配信なんて始めてやがる。」
「おいカツヤ、マジ?」
「俺にも見せてくれよ!」
シンジとダイもまた、モンゴローの配信をのぞき込む。
「マジじゃん。」
「モンスター解説配信、だってよ。」
「ねぇ、マジできもいんだけど。モンスターなんか触って、頭おかしいんじゃ無い?」
「それに、こいつ再生スキルなんて持ってるみたいだぜ。」
「もうさ、“こいつ自身がモンスター”みてぇじゃん。」
「ヤバ、マジでウケるんですけど。」
ファミレスに嘲笑が響き渡る。大声で騒ぎ、テーブルをガンガンと叩くその姿に、周囲の客や店員は、みな顔をしかめている。
「おいお前ら、クソゴロー探しに行くぞ。」
「え? 急にどうしたんだよ、カツヤ。」
「なぁお前ら、少し考えれば分かるだろ? “人間のフリしたモンスター”が、配信なんかしてるんだぜ? 痛めつけて、分からせてやらないとダメだろ。」
カツヤが、にぃっと笑った。
「俺たちは、“探索者”なんだからさぁ。」
カツヤが指先で、電気をバチバチと遊ばせる。
「えー、ずるい。リオも行きたかった! バイトがなければ行ってたのに。」
「悪いな、リオ。クソゴローは変態野郎だ。もうお前に近づけたくねぇ。」
「ひゅー! カツヤ、かっけえ!」
カツヤが、剣を手に立ち上がった。
「行くぞ、お前ら。モンスターを討伐しに。」
○
昨日、初めての配信を終えた僕は、今日もまた立川ダンジョンに来ていた。初めての配信、うまく行って本当によかった!
ちょっとドン引きされ気味だったけど、おおむね好評だったと思っている。今日立川ダンジョンに来たのは、次なる解説対象となるモンスターを探しに来たからだ。立川ダンジョンには、あと数種類のモンスターが生息している。
「今日は第三層に行ってみよう。」
ゲートを抜け、強化された脚力で草原内を駆け抜ける。遠目に噛みつきイナゴの群れと戦闘する探索者たちの姿を見かけた。小さくてもモンスター。体内には魔石があり、金になる。運動しながら小銭が稼げると思えば、良い趣味と言えるかもしれない。
「ついた! これまでくぐってきたゲートと変わらないなぁ。」
草原の一角、大きな石造りの門がそびえ立っていた。門の中は霧が立ちこめているような、もやもやとした不思議な状態だった。門の前後にはなにもない。どちら側から入っても、次の階層へ移動することができる。
「いざ、第三層!」
モンゴローはゆっくりと、ゲートに足を進めた。
○
「うーん、デジャヴというかなんというか。やっぱり第二層と変わらないなぁ。」
第三層もまた、草原地帯。立川ダンジョンは第五層まであるが、第四層まで同じような環境が続く。
「よし、気を取りなおして、モンスターを探すぞ!」
先ほどまでとは打って変わって、重心を落とし、そろりそろりと歩く。次なるターゲットは、警戒心が強い動物型のモンスターだからだ。しばらくその体制で進んでいると、少し開けた場所に出た。
「いた!」
白い体毛に覆われた、60cmほどの体。長い耳をピン、と立てて、周囲の音を聞いている。
「エッジラビットだ…!」
傍目に見れば、一般的なウサギ。しかしその本質は、獰猛なモンスター。長い耳がピクピク、と動いたかと思うと、モンゴローがいる方向をじっと見つめだした。
「バレちゃったなぁ。」
しばらく観察していると、エッジラビットの両耳に異変が起きる。根元の部分から金属的な質感に変化していったのだ。先端まで変質した耳は、キラキラと光を反射させ、輝いた。
「うわぁ、きれいだな。青、緑、赤、いろんな色に見える。構造色?」
ふいに、エッジラビットが前屈みになった。そう、まるで。
攻撃をしかけようとしているかのように。
「わ、わぁ! ごめんごめん、驚かせようとか、そういうつもりじゃないんだ!」
僕は慌てて立ち上がった。ビクッ、と体をこわばらせたエッジラビットは、しばらくじぃーっと僕を見つめていた。そして、ふいにその耳をだらりとさせると、「なんだ、お前か。」とでも言うように、もしゃもしゃと草を食み始めた。
「うーん、やっぱり僕はスキルのおかげで、基本的にはモンスターに襲われないみたいだ。」
エッジラビットに近づくが、エッジラビットは変わらず草をもしゃもしゃしている。これ幸いと、僕は近くでエッジラビットの観察を始めた。
「耳を刃のように変化させて攻撃するって、本当だったんだ。こう見ると、普通のウサギと変わらないのに。面白いなぁ。」
いろんな角度から観察していると、エッジラビットが後ろ足で頭をかきかきし始めた。
『かゆかゆ、かゆかゆ』
「体がかゆいの?」
『かゆかゆ、ずっとかゆかゆ』
「ずっと? どれどれ。」
僕はエッジラビットを抱っこして、膝の上に乗せた。かきかきしていた場所をよく観察してみると。
「これは、マダニ、かな?」
マダニらしきものが、とりついていた。血を吸ってぷっくりと大きくなっている。果たしてこれが、ダンジョンの外から持ち込まれたものなのか。それとも、ダンジョンに生息している固有のダニなのか。そのあたりの研究は全く進んでおらず、不明である。
「こういう、ダンジョン固有の生き物とかも面白いんだけどなぁ。」
『かゆかゆ、はよ』
「ああ、ごめんごめん。」
僕はアイテムボックスから、ピンセットとワセリンを取り出した。マダニにワセリンを塗りたくると、呼吸が出来なくなってぽろりと取れることがあるのだ。
「いろいろ持ってきていて正解だったなぁ。僕のアイテムボックス、最初からほぼ無限に物を収納できるみたいだし。なんでだろう…。」
そんなことを考えていると、マダニがぽろっと剥がれた。
「よし、これで大丈夫なはず!」
『あざ、あざ』
「君、意外とフランクな感じなんだね…。」
ひとしきりエッジラビットをなで回していると。
『スキル獲得:エッジラビット』
「お、スキルゲット! 早速ちょっと試してみようかな。」
右手に意識を集中させる。
「刃になれ、刃になれ…!」
すると、右手が徐々に薄平たくなっていき、銀色の金属光沢を帯び始めた。そして、5秒ほどで、僕の右手は剣のようになっていた。
「お、おお! 試し切りだぁっ!」
僕はテンションが上がって、その辺の草に向かって右腕を振り抜いた。ヒュッ、という風切り音。雑草が切り裂かれ、はらはらと宙を舞った。
「けっこう切れ味いいな…。」
そんなことを思っていると。
ガサガサッ
『ニンゲンダッ! ニンゲンダッ!』
背後から、何かが現れた。
――――――
スキル:エッジラビット
①身体刃化
体の一部を硬質な刃に変質させる。
②脚力強化
③聴覚強化
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




