第67話 再訪と——
三日後。今日はピューマンたちの経過確認の日だ。今日の経過次第によっては、すぐにでもピューマンの集落で大規模な薬投与を実施する予定でいる。
ギルドに向かって足早に歩く。今日は休日ということもあって、いつもより人が多いなぁ。
「ねぇ、あの人ってさ…。」
「あ、この前テレビでやってた?」
う、うーん。なんか最近、やたらと見られている気がする。なんだろう、思い当たる節がない。大人気配信者って訳でもないし…?
「ん? あ、おいお前!」
「はい?」
振り向くとそこにいたのは。
「お久しぶり? ですの。」
試験ぶりに遭遇した、高松兄妹であった。うわっ、手つないでるし。すごいなぁ、色々…。
「お、お久しぶりです。覚えてくれていたんですね、僕のこと…。」
「ああ、悪い! 最近まで完全に忘れてたんだが、“あの番組”見て思い出してよ! そんでたまたま見かけたもんだから、声かけちまった。」
「ほぼ空気だったあなたが、ここまで話題になるなんて思っていませんでしたの。パステル☆ナイツには感謝した方が良いの。」
え、なに? ど、どういうこと??
「ねぇ、あそこにいるのって高松兄妹じゃない!?」
「え、話してるのって、“パステル☆ナイツの推し”の人じゃん!」
な、なんだ!? 何が起きてるんだ!?
「ははは! お前もすっかり有名人じゃねえか! ま、注目される者同士がんばろうや、バンゴロー!」
「まぁ、お兄様と私には遠く及ばないとは思いますけれど。頑張るといいの、ドンゴロー。」
そう言うと高松兄妹はいちゃいちゃとしながら去って行った。マジで何が起きてるんだ…? パステル☆ナイツの推し?
周囲の注目が大きくなり、ざわざわとし始める。ここにいたらまずい、と思い、僕はギルドの更衣室へと小走りで逃げた。
○
「くっそ~、どういうつもりだよあいつら。勝手に僕を紹介して…。」
平原を駆け抜けるが、その足取りは若干重い。と、いうより、余計な情報が思考を邪魔してしまっているのだ。
更衣室で調べたところ、どうやらパステル☆ナイツがバラエティ番組で、僕を「推し」として紹介したらしい。もちろん、僕には無許可で。僕が推し? そんなわけない。絶対何か、裏がある。
番組側からも一切許可取りはされていない。完全に無断使用された形だ。法律的にどうなの? それって。
怒りのあまり問い合わせフォームから抗議文を送ったが、どうせ取り合ってもらえないだろう。まぁ仕方ない。次の配信の時にでも、チクチクッと刺しておくかぁ。
「はぁ、大事なときに限ってこういう嫌なことが起きるんだよなぁ。」
パチンッ! 頬を両手で叩き、強制的に思考を切り替える。今はピューマンたちのことが一番大事だ。こんなくだらないことに、ニンゲン如きに思考を割いている場合ではない。
もうじき、オアシスが見えてくるはずだ。
○
『来た! おーい、モンゴローッ!』
オアシス到着早々、元気にジャンプするブチの姿が見えた。他にも、治験を行ったピューマンたちが揃っている。こちらに気づいたみんなは、大きく手を振ってくれている。
「みんな、お待たせ! 病状はどう!?」
『モンゴロー、ありがとう! 我ら全員、症状がとても緩和されている! 見てくれ、体毛も復活し始めたのだ!』
クーガーが嬉しげに、上半身を見せてくれた。出血は収まり、たしかに黒々とした美しい体毛が生え始めていた。他のみんなも同様に症状が改善され、肉体的にも精神的にも元気になっていた。
『モンゴロー! あんたのおかげだ! 今のあたしなら、隊長の最高速度にだってついて行ける自信があるよ!』
『ふふふ、バカめ。我もまた、完全復活しつつあるのだ。その速度は、音速をも超える…ッ!』
うん。ちょっとテンションがおかしくなっているな? 特にクーガー。バカめ、じゃないのよ。まぁ、集落が助かるというのも相まって、めちゃくちゃ嬉しいんだろうけどね。
「よし、それじゃあ集落のみんなにも薬を使おう! 僕のアイテムボックスには、まだまだ大量の薬が残ってる! これ以上重傷者を増やさないために、死人を出さないために、急ごう!」
『『『おうっ!!!』』』
○
『う、あ、あぁ…。』
「もう大丈夫ですよ、ほら、これを飲んでください。」
ここはピューマンの集落、重傷者が集められているテント。前回訪れてから、衣類や寝具などの消毒と個別管理を徹底してくれていたおかげで、感染拡大は止められていた。
『こっちの列、錠剤の服用終わりました!』
『よし、全員の服用が完了したら、塗り薬を塗っていくぞ! モンゴロー、外の塗り薬を運んできてくれ!』
「オッケー!」
テントの物陰に大量に置かれた段ボール。塗り薬が入った箱を持ち上げようとした瞬間。
『ふむ、どうやら自殺志願者だったようだな? ニンゲン。』
「ッ!?」
濃密な死の気配。反射的に上半身を反らせてそのまま飛び上がり、広場の中央へと着地した。
視界の先には、腕を振り抜いた姿勢の、隻眼のピューマンがいた。
「…村長。」
『ワシは言ったはずだ。二度と、この集落に足を踏み入れるなと。』
鋭い眼光が僕を射貫く。有無は言わせぬ、という意思。
「…薬を手に入れました。ピューマンの皆さんを救うことが出来る薬です。適切な処置をしなければ、この病気を根絶することはできない。故に僕は、ここにいます。」
『フン、誰がそのようなことを頼んだ。ワシは、次は殺すとそう言ったはずだ。ピューマンの男に二言はない。』
ゴウッ
黒い巨体、赤い隻眼が残像を残して、風と共に迫り来る。
ガシィンッ
『おやめください、父上ッ!』
もう一つの黒い体が、割って入る。
『この者は我らを救うために来てくれたのです! 殺されるかもしれないと知りながらも、我らのために薬まで用意してくれたッ! そのような勇敢な男を、何故殺そうとするのですかッ!』
『黙れ、クーガーッ! 愚かな我が息子よ。村長はワシだ。ニンゲンなどに心を許すとは、この軟弱者めがッ! ピューマンの風上にも置けぬ男よ、貴様も死にたいかァッ!』
それは、絶望だった。すべてを諦めてしまった男の、感情の嵐だった。愛する者を失い、集落を守れず。戦いではなく、病にむしばまれて死んでいく。
竜巻のごとき風が、“黒い風”が渦巻いて、クーガーの全身を斬り裂いた。
『ぐぁああああああっ!』
風が爆発するように炸裂し、クーガーがぼろ切れのように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
『ガフッ! ち、父上…ッ。』
クーガーは、優しすぎた。己の肉親を打ち倒すことなど、出来なかった。しかし、その男は違った。彼はすべてに、絶望していた。
『“ガズル“、よすのじゃ! この人間、オババの予言によれば』
『黙れェェッ!! 貴様も殺すぞォッ!』
びくり、村長を止めようとしたオババが硬直する。
『ガズル、お主。それほどまでに…。』
いつの間にか、周囲には集落中のピューマンたちが集まっていた。オババが村長を見つめる。その瞳には複雑な感情が込められていた。
『ガルルフフヒューッ! さぁ、待たせたな、ニンゲンンーッ!』
失うものは、もう何も無かった。
『このワシ、“黒い疾風”ガズルが、貴様の命の灯火を吹き消してくれるッ!』
黒い風が、啼いていた。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




