第61話 ピューマン
5人。全員が、肉食獣のような見た目。
それぞれが皮鎧を纏っているが、その下に見えるしなやかな筋肉と、ツヤツヤとした毛並み。毛色はそれぞれ異なっているが、見た目はほとんど同じ。
間違いない。
「“ピューマン”の皆さんと、敵対するつもりはありません。」
僕は両手を挙げて、敵意がないことをアピールした。
『!? 貴様、俺たちの言葉が分かるのかッ!?』
『隊長、こんなニンゲンは初めてですぜッ!?』
動揺するピューマンたち。隊長、と呼ばれた眼前の黒いピューマンは眼光鋭く、フィッ! と短く口笛を鳴らした。
『騒ぐな。おいニンゲン。お前は我らの言葉が分かるのだな?』
「うん、分かるよ。」
『フッ、ならば話は早い。貴様、ワイルドホーンの群れと行動を共にしていたな? まさかとは思うが、我らの獲物を横取りしようとしていたのではないだろうな?』
グルルル、と。周囲のピューマンたちが威嚇するように唸った。
「えーっと、なんて言えば良いんだろう…。まず、君たちの神聖な狩りを邪魔するつもりはなかったんだ。僕はモンスターが好きでね、ワイルドホーンたちのことも観察していただけなんだ。ただ、君たちの邪魔になってしまっていたなら、謝罪するよ。申し訳ない。」
僕はがばり、と頭を下げた。周囲のピューマンたちから、困惑しているような気配が伝わってくる。
『…モンスターが、好き、だと?』
黒いピューマンは数度、瞬きをした。そして。
『グルフフハハハッ! なるほど、意味がわからん。しかし、我は知っているぞ。ニンゲンの中には“ヘンタイ”と呼ばれる特異な者どもがいるということを!』
「へ、変態!? いやいやいや、僕は変態なんかじゃ」
『父上は言っていたぞ? ヘンタイはみなそう言うのだとな! まぁ良い、貴様からワイルドホーンの血の臭いはしない。我らの獲物を横取りしようとしていた訳では無い、というのは分かった。』
納得してもらえたっぽいけど、僕は納得できてません!!
『隊長、よろしいので?』
ふっと、場の空気がわずかに弛緩したのを感じた。
『良い、ニンゲンにも、変わったヤツがいるというだけの話だ。ニンゲンと我らは敵対しているが、殺し合いを望んでいる訳でもない。』
ピューマンたちは、ナイフや爪と言った、それぞれの獲物をしまい込んだ。
『おいニンゲン。見逃してやる。どこへなりとも好きに行くが良い。ただ、我らの邪魔をしたとき、我らと明確に敵対したときは、容赦しない。その貧相な体を、我らの爪と牙で引き裂いて、臓物をすすってやる。』
フッ、と。ニヒルな笑みを浮かべて、黒いピューマンが去って行く。慌てたように、他のピューマンたちが追従する。
『ハァ…。ハァ…。ゴホッゴホッ!』
「ん…?」
最後方、ぶち柄のピューマンが咳き込んだ。よく見ると、彼女の毛並みにはつやがなく、痩せているように見える。そして何より。
鎧の下、毛が抜けて地肌が見えており、そこからは赤い血が滲んでいた。
僕は同じような光景を、見たことがあった。
都内の公園。
毛が抜け落ちて、無残な姿になった“タヌキ”を。
「待って、ピューマンのみんな!」
彼らは止まらない。
「君たちの間で、病気が流行ってない!? 毛が抜け落ちて、体がかゆくなるような――。」
ビュオッ!
風が吹いた。気づけばすぐ目の前に、黒い肉食獣の顔があった。
その顔は、憤怒の形相であった。
『…貴様。なぜ、それを知っている? 場合によっては、今すぐこの場で殺』
「“疥癬症”。それが病気の正体だ。」
ピューマンたちは、顔を見合わせている。
「僕は、治療方法を知っている。」
黒いピューマンの金色の目が、大きく見開かれた。
○
『つまり、ニンゲン共の世界にも同じ病気が存在しており、すでに治療方法が確立されている。と?』
「うん、そういうこと。ただ、治療には専用の薬が必要なんだけど、入手には時間がかかってしまいそうなんだ。」
僕たちは今、岩の日陰に座り込んで話していた。僕の見立て通り、やはりピューマンの集落では疥癬症が猛威を振るっており、かなりまずい状況になっているらしい。
疥癬症はウイルスや病原菌が原因となる病気ではない。その正体は、“ダニ”だ。こればかりは解毒ポーションや病毒ポーションだけでは治療することができない。
イベルメクチンや抗生物質等、さらには患者が使用していたすべての物を消毒、殺菌する必要がある。
最適な方法を模索するためには、彼らの集落の現状を正確に把握する必要があった。
『…こいつを、集落へ連れていく。』
『隊長!?』
『本気ですか!?』
『そんなことしたら、村長が』
ガルルルゥッ!!
黒いピューマンが、吠えた。
『悠長なことを言っている場合では無いッ! わからんのか、集落の現状が! 例えニンゲンであったとしても、皆を救うための方法を知っているのであれば、活用するべきだッ!』
『『『ッ!!』』』
僕も隊長に賛成だ。ダンジョン内のモンスター間で流行している疥癬症。通常の疥癬症とは異なっている可能性も存在している。一刻も早く、治療のために動くべきだ。
『病に毒されながらも、戦場に立ってくれている者だっているんだぞ。』
『ブチ…。』
ブチ、と呼ばれたのは、疥癬症に冒されている、ぶち柄のピューマンだった。彼女は今、少し離れた岩陰で横になって、休養してもらっている。
『ニンゲン。貴様を、我らが故郷へと案内する。下手な動きをしてみろ、いくら治療法を知っているとは言え、ただではすまさんぞ。』
「わかってるよ。」
こうして僕は、ピューマンたちの集落へ行くこととなった。
作者のおしり炒飯と申します。
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