第59話 スプリントモニター
熱風、焼け付くような、日差し。
「あっつ!!」
暑すぎる! はちゃめちゃに暑い!
記念すべき富士ダンジョン一歩目の感想が、これでした。なんかすごいもったいないことした気がするけど、まぁいっか!
「初めて月に降り立った宇宙飛行士の第一声が、“イェーイ!”だったりするくらいだし!」
改めて周囲を見渡すと、赤茶けた土にちょぼちょぼと生えている草木。遠くにはいくつか、超巨大なバオバブっぽい木。
「事前情報通り、サバンナに近い気候だ。」
富士ダンジョン最初の地。通称、“平原”。
灼熱の太陽が燦々と輝き、多くのモンスターが生息している、まさに大自然。
「う、うぉおおおっ!! テンション上がってきたぁあーーーっ!!」
いつかの時と同じように、僕はたまらず走り出した!
○
「どうして走ってしまったんだろう。」
滝汗です。ありえないくらい汗、かいてます。風魔法で扇風機みたいなことしようと思ったんだけど、途中からただの熱風になってしまって断念。
「とりあえずマップでも確認して、モンスターがいそうな場所を探そう。」
スマホを取り出して、専用のアプリを起動する。
このアプリは富士ダンジョン専用のアプリとなっていて、ざっくりとした地図なんかを確認することができる。
ただ、場合によっては環境が変わっていることもあるため、注意が必要だ。
「オアシスがある方に向かいながら、超音波探知を使うか。」
砂煙を巻き上げて、僕は再び走り出した。
○
走り出して五分後、前方に生命反応を感知した。超音波探知は魔力を使わないから察知されにくい、という利点があるんだけど、その分範囲が狭いんだよなぁ。
ゴツゴツとした岩場が見えてくる。所々にサボテンみたいな多肉植物や、エアープランツと思われる植物が転がっている。
そんな岩場の頂上付近に、それらはいた。
ざらざらとした鱗、黄土色に近い体色。とさかのような突起が背筋に沿う形で生えそろっており、みっちりと筋肉が詰まった太い手足には、鋭い爪が生えている。
巨大な、トカゲ。
「スプリントモニターだ!」
草原地帯でも多く見られるモンスターの一種、スプリントモニター。体長は5m前後と大型で、砂地を走って獲物を捕らえる獰猛なモンスターだ。
もっとも、僕の目の前のスプリントモニターたちは、岩場で目を閉じてのぺーっと日光浴を堪能しており、非常にかわいらしい。
「僕もお邪魔させてもらおっと!」
岩場を駆け上り、スプリントモニターたちの隣に座り込む。日サロみたいな感じで仰向けになり、全身で太陽を感じる。
『…トトノッテ、キタァ…。』
あ、サウナ感覚なんだ。
「今日の太陽は、普段と比べてどうですか?」
『アタリ、ダネ。カゼ、モットアレバナァ。』
ロウリュ、ってこと…!?
早速風魔法で岩場全体に風を送る。
『オ、オォ…。』
『コ、コレハ…!』
おっさんみたいなうめき声が岩場中から響いてくる。確かに、ちょっと気持ちいいかもしれない。サウナ+岩盤浴+日光浴、みたいな感じかな?
カサカサッ
ん? なんの音だろう。
音の方向を見てみると、一匹のスプリントモニターがいた。しかし、様子がおかしい。ところどころ、半透明になった鱗が剥がれているのだ。それに、どこか元気が無い。
「もしかして、脱皮不全かな。」
虫や、は虫類にしばしば見られる、脱皮不全。脱皮がうまくいかずに体力を消耗してしまい、炎症や一部の壊死を引き起こし、最悪死んでしまう状態のことだ。
僕は脱皮不全となってしんどそうなスプリントモニターに近づいた。
「脱皮、手伝ってあげようか?」
スプリントモニターは僕を見上げると、コクコクと頷いた。アイテムボックスからガーゼを取り出して、水魔法で水を含ませる。
スプリントモニターの体を丁寧に拭っていき、水分を含ませて皮がはがれやすくなるようにする。
懐かしいな。高校時代、生物部で飼っていたニホンカナヘビが、同じように脱皮不全になったことがあったっけ。そのときも今と同じようにして、対処したっけ。
そのカナヘビも、あいつらに殺されてしまったけれど。
一瞬、手元に力が入り、握りつぶされたガーゼから水滴が滴り落ちた。
『??』
「ああ、ごめん。なんでもないよ。」
不思議そうに僕を見上げたスプリントモニター。悲しい記憶を振り払うように頭を振って、思考を戻す。
ふやけた鱗を、ぺりぺりと丁寧に剥がしていく。うーん、気持ちいい。こういうASMRあったら流行りそう。スプリントモニターのペリペリ脱皮ASMR。うん、アリだな。
十数分後、全身の脱皮殻を剥がし終えた。最後に鼻に残った皮、通称“鼻えのき”をゆっくりと引き抜いていく。これこれ、これがめちゃくちゃ気持ちいいんだよ!!
トカゲの鼻えのき。鼻の穴に残った脱皮殻のことで、ゆっくり引き抜かれるそれが、エノキタケのような見た目をしていることから、そう呼ばれている。ごく一部のニッチな層に大変人気な動画ジャンルでもある。
まさか、スプリントモニターにも鼻えのきがあるなんて…!
『クシュンッ! アリガト、アリガト!』
『スキル獲得:スプリントモニター』
脱皮を終えることが出来たスプリントモニターも、ロウリュで整ったスプリントモニターたちも、とっても嬉しそうだ。
ほっこりしていたのもつかの間。スプリントモニターたちが、一斉に同じ方向を向いた。僕も目をこらしてみると。
「…土煙?」
もうもうと立ち上る土煙が、こちらに迫ってきていた。
――――
スプリントモニター
①砂走
砂の上でも足を取られずに走ることが出来る。
②熱耐性
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
面白ければぜひ、リアクションと評価いただけると嬉しいです。
また、本作カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




