第55話 講義
「まず富士ダンジョンの概要と、中小規模ダンジョンとの違いについて説明する。」
いよいよ講義が始まった。ざっくりと予習はして来ているが、ここでしか明かされない情報なんかもあるだろうから、しっかり聞いておかないと。
「富士ダンジョンには、層という概念が存在しない。現状公的に確認されている範囲は、“平原”と“密林”と呼ばれるエリアだけだ。その先には、“死の砂漠”と呼ばれる真っ白な砂が続くエリアが広がっている。」
そう、現状富士ダンジョンは一層しか確認されていない。平原と密林が、どこまでも広がっている。平原については、そのほとんどがサバンナ気候となっており、ところどころにオアシスが点在しているのだ。
死の砂漠については、さらにその外のエリアに広がる虚無の地帯。一切のモンスター、生物、植物が存在していない。
「公的に、というのはギルドの調査結果と、探索者からの報告に基づいている。もしかしたらすでに第二層が発見されているかもしれないが、ギルドでは確認できていない。」
富士ダンジョンに潜る探索者は、誰もが自由だ。ギルドへの報告義務ももうけられていないため、未知なる第二層に進出している者がいても不思議ではない。
「また、ダンジョンゲートは広大なエリア内に点在しており、一度訪れたゲートからゲートへと転移できるようになっている。」
これまでのダンジョンでは、基本的に層間移動にしか使われなかったダンジョンゲート。しかし、富士ダンジョンにおいてはエリア内移動にも使えるようだ。
「続いて、モンスターについてだが。この富士ダンジョンには知的種族と呼ばれるモンスターが存在している。平原には“ピューマン”、密林には“ゼクター”が集落を形成している。」
そう、富士ダンジョンには、人間と同レベルの知能を有するモンスターが生息している。
ピューマンはネコ科のモンスターが二足歩行しているような見た目。ゼクターは個体によって大きく見た目が異なるが、さまざまな昆虫が二足歩行しているようなイメージだ。
早く会いたすぎる!! どんな生態で、どんな文化を持っていて、どんな考えを持ってるんだろう…!? 現地ガイドとかお願いできたりしないかなぁ。
「集落なんて、危険なのではないですか? 探索者が総力を挙げて壊滅させるべきでは。」
発言したのは、パステル☆ナイツの青色担当、東雲寺ミナトだ。クールな印象を与える、切れ長の目と高い鼻筋。
「良い質問だ。そうしない理由はいくつかあるが、まず一つ。彼らは非常に強く、数が多い。また彼らの中には“黒い疾風”と呼ばれる特殊個体。いや、「エリアボス」が確認されている。」
「エリアボス、ですの?」
そう、エリアボス。この富士ダンジョンには、エリアボスと呼ばれる強力な個体が複数存在している。中でも有名なのが、この「黒い疾風」と呼ばれるピューマンだ。
「そしてもう一つ、彼らは平原の生態系のバランサーを担っている。彼らを絶滅させてしまうと生態系が不安定となり、スタンピードを引き起こす要因になりかねない。」
「エリアボスについて、確かもう一体いなかった~? 確か、山羊だとかなんだっていうやつ~。」
間延びした声が特徴の、パステル☆ナイツ緑担当西園寺ソウ。垂れ目で涙袋があり、なんというかこう、年上キラーって感じ。
「“黒山羊”のことだな。これについては、詳細はよく分かっていない。何年かおきに不定期で突如現れ、甚大な被害をもたらすモンスターだ。黒い体、山羊のような鳴き声、蹄がある四本の脚を持つことしか判明していない。」
これも非常に興味深い。噂によると、「見ただけで精神的ショックを受ける」らしく、映像の公開も制限されているらしい。身体的特徴についても初めて聞いた。おそらく外部には公開されていない情報だ。
「では、講義を続ける。」
その後も講義は続いた。法律なんかについても触れていたが、ダンジョン内はほぼ無法地帯で、力こそがすべてといった感じらしい。配信上で証拠なんかが残っていたら話は変わってくるらしいけど。
もう人間に襲われたくはないなぁ。
○
「以上で本日の講義を終了する。明日も同じ時刻に開始するので、遅れないように。」
初日の講義が終了した。講義は三日に分かれて行われ、最終日に試験が行われる。今日はざっくりとした全体内容に触れるって感じだったけど、事前に勉強した内容そのまんまって感じだったのでかなり深く理解することができた。
色々教えてくれた桜井さんには、感謝しないとな。
「やぁ、お疲れ!☆ 初日から疲れちゃったよ。でも、“新宿ダンジョンをソロで踏破した君”なら、座学なんて楽勝だったんじゃないかな?」
「は、はぁ。」
なんだかつっかかるような言い草だな。
「まぁ、明日からもお互い頑張ろう! そうだ、最後に一つだけ!☆」
ヒナタが顔を寄せる。スッ、と。すべての表情が消え去った。
「俺たちが攻略できなかったダンジョンを攻略したからって、あんま調子乗んなよ? クソモブ野郎が。」
…そういうタイプか。はぁ。
パステル☆ナイツはニヤニヤとしながら退出していく。高松兄妹は、そもそも僕なんかに興味は無いのだろう。手をつないでイチャつきながら退出していく。帰りがけに電気まで消されてしまった。いや、僕まだいるんだけど?
はぁ~。前途多難。
『また、殺すことになっちゃうのかなぁ。』
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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