第51話 何かやっちゃいました?(報告漏れ)
「岩崎部長、失礼いたします。」
「入ってくれ。」
モンゴローが影の魔人を倒した翌日、新宿ギルドの上層部はバタバタとしていた。
「至急のご報告があります。結論から申し上げますと、新宿ダンジョンが踏破されました。」
「へぇ~、ついに新宿ダンジョンがねぇ…。ンゴフッ、え、は!? 新宿ダンジョンが踏破されただって!?」
岩崎は優雅にモーニングコーヒーを嗜んでいたが、脳が遅れて理解したことによってむせてしまい、そのほとんどを口から噴き出してしまった。
飛び散る飛沫を、顔色一つ変えずに桜井は回避した。元探索者の面目躍如である。
「い、一体誰が!? 数ヶ月前に、なんとかっていう有名配信者パーティが挑んで、失敗したばかりじゃなかったかい!?」
慌ててデスクをふきふきする岩崎。
「はい。3ヶ月前に男性アイドル配信者パーティの“パステル☆ナイツ”が挑みましたが、敗走しています。」
「ああ、そう、そのパーティ。んで、一体誰が? 攻略勢が来てるって言う情報は聞いてないんだけど…。」
岩崎は自らを落ち着かせるために、マグカップに残ったぬるいコーヒーを一気に煽った。
「モンゴロー君です。」
「ブフーーッ!? げほっごほっおえっ、なに、モンゴローぐん!?」
再び噴き出す岩崎と、回避する桜井。
「はい。あの、モンゴロー君が踏破したようです。まぁ、まだ推測の域を出ないのですが、ギルド内監視カメラの映像と目撃証言、そして赤いゲートの一時的沈黙現象の確認から、ほぼ間違いないかと。」
ダンジョン最奥のボスに至る赤いゲートは、ボスが討伐されてから5-10分ほど沈黙状態となり、使用できなくなる。ギルド側はこれを観測できる装置を持つ。
「推測? 報告は無かったのかい?」
「はい。ボスを倒してそのまま帰ってしまったようです。どうやら、初回踏破時の報告義務を失念しているようですので、後ほど私から連絡します。」
岩崎は苦笑した。
(桜井君からの電話はモンゴロー君にとって、さぞ心臓に悪いだろうな…。)
「探索者になって二ヶ月足らずで中規模ダンジョン、それも未踏破の新宿ダンジョンをクリア、か。これも“英雄の血”、なのかねぇ…。」
岩崎は目を細めながら、外を眺めた。ガラス張りの執務室は日の光をこれでもか、というほど取りこんでいる。新宿の摩天楼は朝日を浴びてギラギラと輝いており、夏の日差しによってアスファルトに陽炎がゆらめいている。
「…部長。彼には“資格”があると思います。例の打診をしても構いませんか?」
岩崎は目を閉じて、数秒考え込んだ。
「…ああ。私も同意だ。だがこれで、また厄介ごとが増えそうだな。」
岩崎はこれから生じるであろう様々な問題を思い、深いため息をついた。しかし、岩崎は心に決めていた。彼を、恩人の息子を、今度こそ守ってみせると。
桜井は頭を下げると、岩崎の執務室を後にした。桜井の脳内には、先ほどの岩崎の顔が焼き付いていた。
(ふふ、部長。気づいていますか? あなた、今まで見たことないくらい、優しくて、キマった顔をしていましたよ。)
○
ヴーッ、ヴーッ
「う、うーん…?」
枕元のスマホが振動している。時刻は午前10:30。僕が影の魔人を倒してから二日目の朝。例のごとく疲労困憊で、昨日は一日ごろごろしていた。そんな翌日の朝。僕は知らない番号からの電話で起こされた。
「あい、守野です…。」
「おはようございます、守野さん。新宿ギルドの桜井です。」
新宿ギルドの桜井…?
新宿ギルドの桜井!?!?
僕は慌ててベッドから飛び起きた。そして、自然とベッドの上で正座していた。
「あっ! おっ! おはようございますっ!」
「はい、おはようございます。早速の御確認かつ、見当違いな確認でしたら申し訳ないのですが、先日新宿ダンジョンの最奥ボス、影の魔人を討伐されたのは守野さんでお間違いないでしょうか?」
うん? どうして桜井さんがそのことを知ってるんだ…?
「え、あ、はい。僕で間違いないです。あれ、もしかして僕、何かやっちゃいました…?」
あれ、僕今めっちゃ主人公っぽいセリフをナチュラルに使わなかった? このセリフって、無自覚のうちにマジで(よくない)やらかしをしちゃったときに使うセリフだったんだね…。
「はい、やっちゃってます。未踏破ダンジョンを踏破した際の報告義務、ご存じないでしょうか? 探索者登録時に説明があるはずなのですが。」
うーわやばい完全に忘れてた、僕にはしばらく関係ないなんて思っちゃってた…。
「わ、忘れてました…。」
「“僕にはしばらく関係ないや~”って思ってました?」
ど、どうして心が!?
「探索者あるあるだからですよ。」
「ナチュラルに心の声に返事するの、心臓に悪いんですが…。」
「ふふふ、失礼いたしました。本日ご都合よろしければ、新宿ギルドまでお越しいただきたいのですが、可能でしょうか?」
特に予定も無かったので、僕は快諾した。ささっと朝食を食べて支度をし、もふげをもふってから家を出た。
○
「この度はご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳なく…!」
開幕謝罪です。
「お気になさらず、とは言えませんが、ギルドではままあることです。次回以降はしっかりと報告するようにお願いします。」
「は、ははぁっ!」
武士みたいな返事しちゃった。ここは以前桜井さんとお話した、ギルド4階の会議室だ。
「では改めて、新宿ダンジョンの初踏破、誠におめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます!」
桜井さんが両手で小さく、パチパチと拍手をしてくれた。
「さて、守野さんにはいくつかやってもらわなければならないことがあります。そう時間はかからないので、このまま今日中に終わらせてしまいましょう。」
どうやら、初めてダンジョンが攻略された際にはいろいろと手続きや報告が必要になるらしい。今日中に終わるのか、とりあえず良かった。
「ではまず、最奥ボス討伐証明として、“ユニークドロップ品”の確認をさせてください。」
ユニークドロップ品。それは、未踏破ダンジョンを初めて踏破したものだけに与えられる、超貴重なドロップ品だ。実は僕も、影の魔人を倒した後にゲットしている。
「わかりました。これです。」
僕はアイテムボックスから、それを取り出した。
「なるほど。軽鎧、でしょうか?」
そう、軽鎧だ。それも全身用。
名前は、“落影の軽鎧”。
灰色と黒を基調とした鎧で、歪な形ながらも美しさと、どこか不気味な恐ろしさを感じさせる。また、非常に軽い。
「はい。名前は、落影の軽鎧。効果は特定魔法の威力や効果時間の延長、特定スキルの効果延長です。」
「特定の、ですか。影の魔人のドロップ品ということは差し当たり、影魔法、あたりでしょうか?」
「!! は、はい。その通りです。」
さすが桜井さん。一発で当てられてしまうとは…。
「こちらの装備はどうされますか? ユニークドロップ品は強力な物も多いですが、スキルなどによっては扱え切れないため、オークションに出品する、というパターンも珍しくありませんが。」
「あー、僕は自分で使おうと思います。確かにスキルとの相性は微妙ですけど、普段使いの装備としては十分優秀かなって。」
そう、僕の装備はジャージから合成繊維の簡易的な防具へと進化していた。とはいえ、それも安物で、家に予備が5着もある。落影の軽鎧は合成繊維よりも丈夫だし、なにより。
僕は影魔法が使える。
「承知しました。アメゾンで売っている安い合成繊維よりは断然丈夫でしょう。」
「ぶふっ!? な、なぜそれを…?」
「初心者の方であれを使ってる人は大勢います。それでも、中級ダンジョンに挑むころにはほとんどの人が卒業しているんです。」
は、恥ずかしすぎる!! 僕、買ったばかりの頃なんてドヤ顔しながら闊歩してたんだけど!?
「討伐証明にしては、これで十分です。後ほど何枚かお写真を撮らせていただいて、書類にサインを頂戴できれば。」
「わ、わかりました。」
「…本題は、ここからなんです。守野さん。」
「え、えっ? 新宿ダンジョン踏破に関する手続きだけで終わりじゃないんですか?」
「はい。」
そ、それってどういう…?
ま、まさか、僕の正体がバレてる、とか…!?
「守野さん…。」
「は、はい…ッ。」
桜井さんが、クイッと眼鏡を押し上げた。
ゴクリ。僕はつばを飲み込んだ。
桜井さんの口が、開かれる。
「――富士ダンジョンに、興味はありませんか?」
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
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