第48話 『モンスター・X』
「では、次のニュースです。先日新宿ダンジョンにて発生した、マリス、という特殊モンスターによる大惨事。そのマリスに遭遇したとある探索者パーティの配信映像が、世間の注目を浴びています。」
テレビに映し出されたのは、ノイズ混じりの映像だった。二足歩行のまがまがしいモンスターが、マリスを蹂躙している衝撃的な映像だ。
「ダンジョンに詳しい揚澤さん、この映像を見てどう思われますか。」
「とにかく恐ろしいなりね。マリスというのは非常に恐ろしいモンスターで、過去には上級探索者が複数人犠牲になる事故や、スタンピードの発生原因となった事例もあんなり。」
ダンジョンに詳しいというコメンテーターが私見を述べている。
「ではこの、巷で“モンスター・X”と呼ばれている存在についてはどうでしょうか。」
「こんなモンスターは初めて見るなり。映像のノイズでハッキリとした姿形は分からないなりが、身長は2.5m、複数の魔法を操り、常人の目では追えないほどの速度を持つことから、特殊個体モンスター、それも非常に凶悪なモンスターであると考えられるなり。」
「人語を話す、などという噂もありますが?」
「確かにこの映像ではそれらしき音声が録音されているなれど、詳細は分からないなりねぇ。人間を殺す、というような発言に聞こえるなれど、マリスに襲われた探索者達を助けているようにも見えるなり。敵か味方かも分からない、まさに『X』なりね。」
番組ではこのあとも、新宿ダンジョンで発生した事件についての解説や推察が行われ続けた。
「…やらかしたぁ…。」
僕はテレビを消して、ベッドに倒れ込んだ。事件から数日、世間はマリスと“X”のことでいっぱいだった。
『わふ…?』
「うわぁ~んもふげぇ~…。」
とりあえずもふげに顔を埋めて、現実逃避。何が“モンスター・X”だよぉ、どうすんだよこれぇ…。怒りと、プログレスを守ることで頭がいっぱいになってしまい、プログレスの配信ドローンの存在を完全に失念していた。
正体とかバレてないよな、もしバレたら実験施設みたいなところで一生解剖され続けたりするのかな、うわぁー嫌すぎる!!
X姿の僕が、超硬質なガラスケージの中に閉じ込められて、様々な人体実験をされている姿が目に浮かぶ。うわ~、めっちゃありそうな展開で本当に嫌だ。
それに。それに、プログレスのみんなの、怯えた顔。
「はぁ~~~~~…。とりあえず、もう一回寝よう…。」
『わふわふ。』
「そうだよね、もふげもそう思うよね…。」
もふげが僕のベッドに潜り込んでくる。僕はふて寝を敢行、現実逃避を続行した。
○
新宿病院、探索者棟の一室。探索者パーティ「プログレス」のリーダーである天城ユウキの病室に、来客があった。三角形のメガネが特徴的なギルド職員、桜井カレンだ。
「まず始めに、マリスについて、お聞かせ願えますか?」
「…マリスたちは、突如現れました。俺たちプログレスは当初、人食いワニと交戦しており、これを討伐。解体に移ろうとしたところ、突如奇襲を受けました。斥候のイツキの探知には一切かからず、突如俺たちの背後に現れたように感じました。」
ユウキは、包帯が巻かれた腕でゆっくりと湯飲みに手を伸ばし、白湯で口を湿らせた。
「最初は戦えていたんです。互角だと思っていた。しかし、違った。やつらは手加減して、遊んでいたんだと思います。」
「遊んでいた?」
「はい。すぐに異常に気づきました。どれだけ攻撃しても膠着している。傷を負っていくのはこちらだけで、マリスたちは常に無傷だった。俺たちが傷つくにつれて、やつらはあえて弱い攻撃や、急所を外した攻撃ばかりを繰り出すようになった。そして、最終的には…ッ。」
ユウキが唇を噛みしめる。
「…あいつらは、人間の悪意そのものでした。笑っていたんですよ、奴ら。俺たちを攻撃しながら。いたぶるような攻撃、嘲笑。ミカとイツキの装備だけを執拗に狙い、破壊して。最後の瞬間、確かに聞こえたんです。マリスの声が。“もう、飽きた”と。その瞬間、俺たち全員がやられました。」
(なるほど。人の悪意から生まれる、と言われるだけのことはありますね。)
桜井はメガネを押し上げた。
「分かりました。参考とさせていただきます。続いて、巷で“モンスター・X”と呼称されている存在について、お聞かせください。」
「あれは、なんと言ったら良いのか…。」
ユウキは顎に手を当てて、しばらく考え込んだ。そして、口を開いた。
「わからないんです。ただ、助けられたのは事実です。俺たちが手も足も出なかったマリスを、蹂躙した。何が起きているのか、半分も理解出来ませんでした。複数種類の魔法スキルに、再生。それからおそらく、かばう、スキルを持っています。」
「かばう、ですか?」
(モンスターがかばうスキル…。一部のリビングアーマー等は同様のスキルを持つと聞きますが、あれはそのようなタイプのモンスターには見えない。)
「マリスの黒炎から、かばってくれたんです。でも、その後。あれは、Xは、マリスを捕食したんです。そして、その瞬間、確かに快楽を感じていた…。恍惚の表情で、マリス達をッ…!」
ユウキの全身に悪寒が走った。あれは、ただの捕食行為ではなかった。もっと恐ろしい、ナニカだった。
「失礼ですが、プログレスのみなさんは捕食されそうになったりは…?」
「俺も最初は思いました。ああ、次は俺たちが食われる番だ。俺たちを守っていたのは、自分が食うためだったんだって。でも、Xは俺たちをじっと見つめて、姿を消しました。どうして俺たちが食われなかったのかは、分かりません。」
(あの瞬間。Xと目が合った、あの瞬間。あいつは、何を思っていたんだろう。どうして、あんな“表情”を…。)
「…分かりました。本日はこれで、聴取を終了します。ご協力いただき、ありがとうございました。」
桜井は深々と頭を下げた。
「い、いえいえ! 俺に、俺たちにできることは、これくらいしかありませんから。」
ユウキは頬をかきながら、力なく笑った。
○
『敵か味方かも分からない、まさに『X』なりね。』
「X、でござるか。クソ、イカした名前でござるな。」
拙者はニンジャ。亀山ニンジャ。世間を騒がせている、モンスター・Xとやら。非常に興味があるでござる。拙者も「謎の忍者、ニンジャ・X」とか呼ばれたい...!
ってか何アレ、あんなモンスター見たこと無いんだけど。あんなのが中規模ダンジョンに現れるとか、世も末でござる。討伐依頼とか出されたら嫌だな~、絶対受けたくない。
それにしても、あの戦い。火魔法に風魔法、高度な再生と鞭のようにしなる腕。まさか…?
「フン、何をニヤニヤしている、ニンジャ。どうせまたエロ動画でも見ていたんだろう?」
「は、はぁ!? み、見てねぇーし!! 拙者、ASMR音声派であるからして!!」
スラッとした高身長、青い目の男が顔を顰めた。白いロングコートの裾が揺れている。
「世界一いらん情報をどうもありがとう。時間だ、行くぞ。」
キィーッ! ムカつくガキでござるッ! “青龍”だかなんだか知らんが、年上への礼儀がなってなさすぎでござる! ったく、これだから最近の若いのはッ!
ぷんぷんとしながら、ニンジャが立ち上がる。建物の外に出ると、夏の高山特有の、冷たく湿った空気が肌に張り付いた。
富士山、五合目。この場所はかつて、そう呼ばれていた。しかし今は違う。かつて富士山と呼ばれていたその山は、山半ばから「巨大な塔」へと変貌していた。その塔は天を突き、常に分厚い雲に覆われ、頂上を伺い知ることはできない。
ここは、富士ダンジョン。探索者たちの、夢の果て。
日本唯一の、国家規模ダンジョンである。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
面白ければぜひ、リアクションと評価いただけると嬉しいです。
また、本作カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




