第47話 配信に写る異形
:ユウキ大丈夫か!?
:タケシ、もう亡くなってない…?
:やばい
:映像が乱れててわからん!
:通報はしてある、耐えてくれ!
:もうだめだこれ
:刺されてる
:だめだ間に合わない
朦朧とする意識の中、配信コメントだけがうっすらと聞こえる。配信ドローンは無事だが、カメラと音声機能に障害が発生しているようだ。俺の腹には影の剣が突き刺さっており、宙に持ち上げられている。もう、助からないだろう。
すまない、みんな。
バチバチと目の前で電撃が走る。これが最期か。ゆっくりと、目を閉じようとしたそのとき。
:なんだ!?
:なに!?
:なんだこいつ…
:やばい
:でかい
:新手のモンスター!?
:虫…?
:二足歩行だぞ
:動きが見えなかった
突如、俺を刺す影の剣が砕け散り、何者かに抱きかかえられ、ゆっくりと地面に降ろされた。ぼやける視界、血が目に入り、何か巨大な生物が俺たちの前に立っていることだけはわかる。
『■■■■■――ッ!』
俺たちを襲っていた化け物達が、鳴き声をあげて喚いている。なんだ、何が起きている…?
『もう一度、殺してやるよ。ニンゲンどもが。』
人語を、話した…?
:しゃべった!?
:日本語!?
:いや、ノイズだろ
:聞き取れなかったぞ
:音声ガビガビでわかんねぇよ
:なんだよこいつ!!!!
:人間を殺すとか言わなかったか?
:どうにかして逃げろ!!
:でも助けてくれたんじゃ無いのか!?
そこから目の前で行われた戦闘は、圧倒的だった。魔法と魔法の応酬、異形の放つ、グロテスクで衝撃的な攻撃の数々。
:何が起きてるんだ
:これ全部魔法か!?
:おい動きが見えねえぞ、ラグか?
:違うリアルタイムだ
:なんでこんなやべえモンスター同士が争ってんだよ!
:新宿Dで何が起きてるんだ!!
:なんでもいい、プログレスを助けてくれ!!!
しかし、希望は潰えた。俺を追い詰め突き刺した、稲妻を操る剣士の両足を、謎のモンスターが切断した直後。
俺たちのすぐそばに、あの女が現れた。女は黒い炎を俺たちへと向け、何事かを叫んでニタニタと笑っている。虫の異形は、ゆっくりと片膝をついた。
まさか、俺たちを人質に!? やはり俺たちを守っているのか…? 一体なぜ!?
:なんだ!?
:え、人質にされてる?
:なんであの虫モンスターが跪いてるんだよ!?
:プログレスの誰かが召喚したモンスター、とかじゃないよな?
:マジで何がどうなってんだ
しかし、女は躊躇せず炎を放った。俺たちと、あのモンスターへと同時に。ああ、終わりだ。今度こそ、助からない。全身が、黒い炎で包まれた。不思議と熱さは感じなかった。目を閉じ、意識が消える瞬間を待った。しかし、その時は訪れなかった。
:火が消えた!?
:全員無事だぞ!!
:どういうことだよ!
:え、死んでない!!
:モンスターが何かのスキルでかばってくれたのか!?
:まさか、“かばう”スキルなんて持ってるのか!?
:焼けた部分が、再生していく…
そんな、まさか。モンスターに、かばわれた? モンスターの方を見ると、女と剣士が両腕で貫かれ、宙に掲げられていた。俺が、そうされていたように。そして、次の瞬間。
『『■■■■■■■■■―――――――――ッッ!!!』』
二匹の絶叫。そして、モンスターの顔の半分以上が開き、“捕食”された。
その光景は、ただの捕食行為とは思えなかった。この世ならざる、とてつもなく恐ろしい光景だった。コメント欄もまた、阿鼻叫喚であった。
俺たちを守る? 違う、きっと俺たちも、この後このモンスターに捕食されるんだ。
『お、おぉおおおぉぉぉおおぉおおおおお…。』
それは、恍惚の表情だった。恐ろしかった。一刻も早く、この場から逃げ出したかった。
「ひっ…。」
思わず、悲鳴が漏れた。モンスターがこちらを振り向き、固まった。数秒、いや。10秒ほど、見つめ合っていたかもしれない。
モンスターは突然、姿を消した。目に追える速度では無かった。
何故だろう。俺と目が合った、あのとき。
あのとき、あのモンスターはショックを受けているような、悲しんでいるような。
そんな不思議な感覚がした。
○
その後、俺たちはすぐに救助された。俺たちが襲われている場所を偶然発見した探索者がおり、正確な位置情報をすぐさま通報で知らせてくれたらしい。
また、俺たちの配信の視聴者の事前通報もあって、すでに救助隊が向かってきてくれていたようだった。
幸い、全員命に別状は無かった。その場で上等な回復ポーションが使用され、回復魔法を使えるヒーラーが、搬送中も魔法を行使し続けてくれたおかげだ。俺の腹に開いた穴も、すでに塞がっている。
ミカとイツキは傷も浅く、すぐに退院できそうだ。しかし、タケシは重傷で、最低でも一ヶ月は入院が必要とのことであった。なんでも、あばら骨がすべて粉砕され、内臓までぐちゃぐちゃに損傷していたらしい。
あと少し救助が遅ければ、助からなかっただろう、とのことだ。
俺たちを救ってくれたあのモンスター。あれは一体、なんだったのだろうか。世間では今回出現した悪意というモンスターと、あの、人語を話す謎のモンスターの話題で持ちきりだった。
作者のおしり炒飯と申します。
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