第46話 『捕食』
『『死ねぇーーーーーッ』』
飯湿と鳥巻らしき影が突っ込んでくる。モンスター化したことで、身体能力が底上げされているようだ。中級探索者よりも、鋭い踏み込み。
だが、関係ない。
『お前らが、死ね。』
豪炎が両手から噴き出した。変身によって、僕のすべての能力は上がっている。それは、スキルも同様である。せっかく蘇ったのに、二人は一瞬で消し炭となった。触覚が風の流れを察知した。背後からか。
『〈骨掴み〉ィッ!』
予想通り背後からゲンが、自らの代名詞とも言える技を放つ。威力はすさまじく、手に纏われた魔力が具現化して見えるほどであった。
『それ、もう見た。』
初速全開。残像を残すほどの速度で回避する。
不定形、刃化、デスロール。
手刀が本物の刃と化し、高速回転する。まるでドリルのように。
刺突突進。
『死ね、〈ボーンミキサー〉。』
骨を掴む? 笑わせるな。掴んだからなんだと言うのか。
僕の右腕が、ゲンの胴体を貫き、内臓もろともすべてをかき回すように回転を続ける。
『ぎぃいいいいいやぁああああああああーーーーーーッッ!!!』
へぇ、痛覚は残っているのか。それなら消し炭にした二人も、もっと苦しめて殺せば良かった。
黒い体液がまき散らされる。飛び散った体液が地面に落ちると、じゅうじゅうと音を立てて煙が上がった。強酸性?
右手を引き抜き、落下に合わせて思い切り蹴り上げた。パァンッ、と言う音と共に、ゲンの体はその場で派手にはじけ飛び、あたり一面に黒い粘液状の体液が降り注いだ。
『これが、“汚え花火”かぁ。』
背中の突起、尾葉のような器官が魔力の流れを感知した。この魔力は――。
『サンダー・ブレイクッ!!』
雷鳴が轟き、僕めがけて稲妻が落ちてきた。全身を鋭い痛みが駆け抜け、ビリビリと痙攣する。さすがの僕も、光より早く移動することはできない。
『死ねェッ、クソゴローーーーッ!!!』
電撃を纏ったカツヤが、恐るべき速度で迫る。僕の体は黒煙をあげ、未だ痙攣している。躱しきれない。
ザンッ!
影の剣が、僕を大きく斬り裂いた。
――ように、見えた。
『ざまぁみろ、クソオタクが――』
ズパァンッ!
霊体化。そして、近距離からの、風魔法。体が動かないなら、魔法を放てば良い。
『がぁあああああああああああッッ!!』
カツヤの両足が断たれ、その場にべしゃりと倒れ込んだ。まったく、前回殺したときとほとんど同じじゃないか。
『動くな、クソゴローッ!』
霧崎の声。振り向くと、霧崎がプログレスのみんなに向かって、黒炎を放とうとしていた。
『きゃははっ! こいつらがどうなってもいいの? あんたの大事なお友達なんでしょお?』
霧崎のむき出しの眼球が、にたぁっと細められた。
『こいつら殺されたくなかったら、今すぐその場で跪けッ!』
僕はその場で、ゆっくりと片膝立ちになった。その瞬間。
『バカが、甘ぇんだよッ! こいつら諸共、燃え尽きろッッ!』
僕の全身を、黒い炎が包んだ。同時に、マリスの手からプログレスの四人へ向けて、黒の炎弾が放たれた。
やっぱりね、分かってたよ。お前が、“こういう手段”を取ってくることは。
かばう。
プログレスのダメージは、僕がすべて肩代わりする。
そして、僕が片膝立ちになったのは、跪くためじゃない。クラウチングスタートの姿勢を取るためだ。
豪ッッ
全身の炎は、その場に置き去りとなった。僕の本気の加速で、すべて消火されたからだ。右腕のドリルが唸りを上げる。それを思い切り、マリスとなった霧崎の腹に突き刺した。
ブシュウッ
『…え? あ、ぎゃあああああああああーーーーッッッ!!!』
黒紫色の体液が噴き出す。痛みに悶える霧崎は、ジタバタともがくように拳を叩きつける。
僕はそんな抵抗もものともせず、霧崎を右腕に突き刺したまま、ずりずりと逃走を図るカツヤへと近づいた。そして、背中に左手を突き刺した。
『がぁあああああああーーーッ!!』
僕は、突き刺した二人を、曇天の空へと掲げた。強くなる雨脚は、二人をより強かに打った。雨と黒い体液が混ぜ合わさり、僕の腕を伝って流れてくる。
『離せッ、離せェエーーーーーーッ!!』
『クソゴローーッ、ふざけんじゃ無いわよッ!! 全部あんたが、あんたがァーーーーッ!!』
『モズのはやにえって、知ってる?』
苦しげにみっともなくもがく二人をよそに、僕は語りかける。
『モズという鳥はね、獲物を木の枝なんかに突き刺して、保存食にするんだ。』
泣きわめき、拳を叩きつけてくる二人を掲げたまま、僕は話し続ける。
『保存食にした獲物は、冬に食べる。そして、食べた獲物が多ければ多いほど、モズはさえずりが上手になるらしい。』
ゆっくりと、二人を僕の顔の前まで下ろす。
『僕の持ってるスキル、少しだけ教えてあげるよ。悪食、吸血、吸魂、捕食強化。これらはすべて、“食べる”ことに関連するスキルなんだ。捕食した相手の力を、自分の物にして、強くなることが出来るスキルだ。』
『ひっ…!』
『君たちはね、僕にとって、“はやにえ”なんだよ。』
ビキキッ。僕の顔が、半分ほど“開いた”。びっしりと並んだ鋭い牙。その奥には、無限の闇が広がっている。
『いやぁあああああああああああーーーーーーーーっ!!!!』
『やめろぉおおおおおおおおッッッ!!!!』
霧崎とカツヤが、次々と魔法を放ってくる。それでも僕は止まらない。傷を負っても、負っても、すぐさまその場で再生する。
『君たちはもう、二度と生まれ変わることもない。永遠に僕の中で、吸収され続けるんだ。ただのエネルギーとして、消化され続ける。よかったね? これからは二人とも、僕の中で、ずぅ~~~~~~~~~~っと、一緒だ。』
『『いやだぁあああああああああああああーーーーーーーーーーーッッ!!!!』』
『それじゃ、いただきまぁ~~~~~~~~~す!!!』
ぐしゃり。ぶじゅっ。
僕は二人を、頭から丸かじりにした。
力が満ちてくる。魔力が回復し、魂が満たされる感覚。
お、おぉおおおぉぉぉおおぉおおおおお…。
これは、クセに、なりそうダ。
「ひっ…。」
その声は、僕のすぐそばで発せられた。
振り返ると、そこには。
おびえた目で僕を見る、プログレスのみんながいた。
ア、あ、僕は、何を…!
両手は黒い体液にまみれ。目の前で、マリス達を捕食した。
僕は、完全に、“モンスターだった”。
○
「はぁっ、はぁっ…。」
気づけば僕は逃げ出していた。
変身が解除される。全身を覆っていた異形の姿は、緑色の光と共に、ほどけるように消えていった。
全身から汗が噴き出す。高揚感と、罪悪感。すべての感情がないまぜになった、複雑な気持ち。
「…っ、そうだッ!」
僕は慌ててスマホを取り出し、ギルドへと連絡。プログレスのみんながいる座標を伝えると、逃げるようにダンジョンを後にした。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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