第43話 父の聖剣
目の前に、それが着地した。
黒い機械装甲。両足からは、灰色の炎が噴き上がっている。どうやら、空を飛べたらしい。そして、手に持っているのは。光を放つ、機械仕掛けの“ロングソード”。
「まさか、合体させたの…?」
二振りのショートソードは、一振りのロングソードへと合体していた。カシャカシャと音を立てて、刃が一つになっていく。
ヴヴヴ、キィィイイイイイーーーンッ
駆動音が激しくなっていく。剣の放つ輝きが増していき、中心で回転している球状の何かがバチバチと音を立てて、回転数を上げていく。
ヒーローが上段に、剣を構えた。まるで、これがトドメだと言わんばかりに。
「はははっ、参ったね、これは。」
純粋な火力不足。あの一撃、受ければ死ぬと直感が囁いていた。まったく、あの忍者め。あいつはどうやって、こんなバケモノを倒したんだ? いや、倒したとは一言も言ってなかったな。くっそ~あいつめ…!
僕のローブマントが、風を受けてバタバタとはためいている。母さんが遺した、ローブマント。どんな斬撃も、どんな魔法も軽減してくれる。どんなときでも僕を守ってくれる、大切なマントだ。
僕はそこで、ハッと気づいた。
思い出したのだ。ずっとアイテムボックスにしまったままだった、“父さんの剣”を。
久しぶりに、それを取り出した。紫がかった、青い鞘。シンプルな意匠の、ロングソード。父さん以外に、引き抜けた者はいない。
でも、今なら。
この瞬間なら。抜ける気がした。
「父さん、力を貸して。」
鞘を指でなぞる。すると、不自然な凹凸があることに気づいた。おかしい、今まで何度もこの剣を抜こうとして、隅々まで調べたのに。こんな凹凸、無かったはず。
「そっか、これが君の名前なんだね。」
それは、文字だった。どの国の文字なのかは、分からない。それでも何故か、僕にはそれが読めた。
剣を、腰だめに構えた。僕には分かる。今の僕なら、この剣が抜ける。
「力を貸してくれ。――聖剣、アロンディート。」
まばゆい光が迸った。ゆっくりと、刀身が鞘から引き抜かれる。濃密な魔力が噴き出し、ごうごうと風が巻き上がった。
そして。
青い、蒼い、刀身が露わになった。両刃のロングソード。銘は、アロンディート。主の純粋な思いに答える、その聖剣は。
かつて父が振るった剣。
人々を守るため、龍の王を討った剣。
「さぁ、これで終わりにしよう。影の、英雄。」
『―――〈リボール・ソード〉。』
「―――〈アロンディート・オーバードライヴ〉。」
剣と剣。光と光が、ぶつかり合った。
轟音。
すべてが白と青に、塗りつぶされていく。
何も、見えなくなっていく。
光の中、視線と視線が交差する。
『アア、そうか、君は――。』
○
ビルの上層部は、戦闘の余波でほとんどが吹き飛んでいた。奇跡的なバランスで倒壊を免れているが、いつ崩壊してもおかしくない。
立ち上る煙の中、二つの影が立っていた。
一人は、僕。上半身を大きく斬り裂かれ、血が滴り落ちている。口元からもあふれ出た血は、地面に赤黒いシミを残していた。
もう一人は、影の英雄。黒い機械装甲は斬り裂かれ、影のような霧が、シュウシュウと音を立てて空へと溶けていた。
「僕の勝ちだ。ヒーロー。」
『…。』
僕の傷は塞がりつつある。そう、再生スキルだ。でももし、僕に再生スキルが無かったら。負けていたのは、僕だったかもしれない。
聖剣を鞘に収め、彼に近づく。彼にも、僕にも、敵意は無かった。
『…よくぞ、本気の私を倒した。すまない。君は、怪人などではなかった。』
「あはは、怪人みたいなものですよ。見たでしょ? 僕の戦う姿を。」
『ああ、見たとも。それでも君はただ、純粋で、まっすぐで、少し好奇心が強すぎるだけの青年だ。』
ヒーローもまた、ゆっくりと僕に歩み寄る。
『君に、頼みがある。』
「頼み、ですか?」
『この世界。いや、ダンジョンと言うべきか。このダンジョンの最奥。私たちの世界を滅ぼした元凶がいる。やつを、“彼”を、倒して欲しい。』
彼。それは、仇敵に対する呼び方では無かった。彼、と呼んだヒーローの声音には、複雑な感情が乗せられていた。
「…確約は、できません。」
『それでもいい。ただ、引き受けてくれるだけでいい。私を倒した君に、その聖剣に選ばれた君に。そして、君の中に宿る“英雄”に、懸けたいんだ。頼む。どうか、この手を取ってくれないか。』
ヒーローが、右手を差し伸べている。彼の体は、すでに半分以上が空に溶けていた。もう、数分も保たないだろう。
父さんなら、迷うこと無くこの手を取ったんだろうな。
僕の左手、聖剣がかすかに、震えた気がした。
「分かりました。僕が、新宿ダンジョンを攻略します。」
僕はヒーローの手を、握り返した。
『ありがとう。』
彼の手は、力強くて。
『君もきっと、誰かにとっての“ヒーロー”になれる。』
『スキル獲得:シャドウ・ヒーロー』
影の英雄は消えていく。風に、空に、溶けていく。
彼はモンスターだ。あくまで、ダンジョンによって生み出された存在に過ぎない。
それでも。
最後の瞬間、確かに彼は笑っていたんだ。例え倒されるたびに、新たに生み出されるだけの存在でも。
魂なんて持たない、抜け殻でも。確かに彼は、そこに存在した。
「ダンジョンって、モンスターって、なんなんだろう。」
僕の手には、確かに感触が残っていた。
彼の力強い、手の感触が。
――――――
スキル:シャドウ・ヒーロー
① 変身
変身する。すべての能力が上昇する。変身した姿は、“その者の内面や感情を表す”。
② かばう
近くの存在のダメージを肩代わりする。
③ 英雄の剣技
剣技に大幅な補正。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
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