第42話 変身:シャドウ・ヒーロー
「あの忍者、嘘だったら許さないぞ…。」
あれから数日。死体は細切れにしてダンジョンにばらまいて処理。霧崎と骨砕きだかなんだかは知らん。今頃、影の一部として元気に蠢いていることだろう。
忍者に教えて貰った情報。それは、とある言葉を言うと、シャドウ・ファイターが“変身”するというものだった。
以前シャドウ・ファイターについて調べた際に掲示板でちらっと載っていた情報は、どうやら事実らしい。
ただ、「変身後」の姿がハチャメチャに強いらしく、ギルドによって情報が統制されているそうだ。忍者はその、とある言葉を知っていたようで、べらべらと饒舌に語り散らかしてくれた。
『いや~、久しぶりにシャドウ・ファイターの話が出来てよかったでござる。知識マウント、気持ちぇ~! 満足満足! では、情報も伝えたので、拙者は消えるでござる! ドロン!』
ドロン、じゃないのよ。普通に目の前から消えてびっくりしたわ。すごいね、忍者って。腹立つけど、やっぱりただ者じゃなかったみたいだ。
そんなこんなで、僕は久しぶりに新宿ダンジョンの5階層に向かっていた。
○
4階層からゲートを抜ける。二度目と言うこともあり、吹き付ける強風で二の足を踏むこともない。まっすぐに正面を見据えると、それは相変わらず、そこにいた。
シャドウ・ファイター。影の戦士。
僕はゆっくりと、彼に近づいた。
「やぁ、久しぶり。僕のことは覚えて…ないよね。」
『…マモ、ル。』
「…君の噂を、聞いたんだ。探索者の先輩から。それで分かった。君は、この世界を守っていた。いや、守ろうとしていたんだね。」
『…。』
「でも、守り切れなかった。守れなかった。その未練から、影となってこの場にたたずみ続けている。捕らわれ続けている。」
影を、いや。“彼”を、まっすぐと見つめた。
「みんなを、守りたかったんだね。今は彷徨う影となってしまった、人々を。そうなんだろう? …“ヒーロー”。」
ビクリ。影の肩が震えた。
『…アア、ソウダ。オレハ、俺ハ…!』
僕は両腕を刃と化し、静かに構えた。全身には黒い文様が浮かび上がる。
「さぁ、来いよヒーロー。僕が君を、終わらせてやる。」
影の意識が、急速に浮上する。いや、それは意識ではない。魂でもない。ただの、過去の巻き戻し。模倣された、魂らしきまがい物。それでも。
かつての“想い”は、本物だ。
『…アア。行クゾ、“カイジン”。』
怪人が現れた。探索者という名の、怪人が。
滅びた都市、無念の中沈んでいった魂の抜け殻達。彼らの安らかな眠りを、妨げる怪人が。
街を破壊し、騒音をまき散らし、無辜なる影の民たちを傷つける怪人が。
もう、これ以上。奪わせはしない。
もう、これ以上。彼らの安寧を妨げさせはしない。
『――変身。』
影の英雄が、立ち上がった。
○
黒い閃光が迸り、僕は思わず顔を覆った。バチバチという電撃音、立ち昇る煙の奥にそれは立っていた。
「…シャドウ、ヒーロー。」
全身は黒い機械装甲で覆われている。右手には機械的な見た目のショートソード。
ヴヴン、と不気味な振動音が鼓膜を揺らす。顔を覆うヘルム型のアーマーは、曲がりくねった角のような意匠。その角は目元まで繋がっており、泣き顔のような、怒り顔のような表情を象っている。
目元のスリットに、赤い光が点った。
来る。
そう直感したときには、すでに。
僕の体を、黒い斬撃が通り抜けていた。
「ガフッ!?」
左腕に感覚が無い。左上半身を断ち切られていた。振動するショートソードで斬撃を放ったと推測。すでにヒーローは次の行動に移っている。
眼前、赤い光と目が合った。
炎。咄嗟に放つ。黒い影は止まらない。炎の壁を突き抜けて来る。
風。刃が影を襲う。ショートソードを一振り、霧散。
後方に飛び下がり、水。質量を伴う巨大な水の塊が投げつけられ、ヒーローの動きが一瞬止まる。
再生はすでに完了している。ちぎれかかっていた左上半身はすでに万全、いよいよ本格的な攻勢。不定形となった刃の腕が、しなる。音速を超えた一撃、鋼鉄さえも斬り裂く斬撃の雨。
ヒーロー、止まらず。
「ッ!?」
初めての事態に、焦りが生まれる。ヒーローの左手には、いつの間にかもう一本のショートソード。両の腕で僕の刃をすべて防いでいる。いや、防いでいるのではない。
「攻撃しているッ!」
僕の両腕、刃の先端部分が切断された。刃化では、あの振動するショートソードに太刀打ちできない。
さらに後方へ。両腕を再生させながら、魔法を放って牽制する。炎の柱がいくつも立ち上がり、不可視の風の刃が踊り狂う。
「これならどうだッ!」
巨大な火球。直径は2m程度。猛スピードで飛んでいくそれを、ヒーローは正面から斬り裂く姿勢。
「かかったな!」
火球の後方、隠された水球。こちらも直径、2m。
ぶつかり合い、爆発が生じた。水蒸気爆発だ。
霊体化で爆風を無効化する。一方のヒーローは吹き飛ばされ、屋上から空へと放り出された。空中で一回転したヒーローは、復帰を試みて空を蹴る。
「させるかっ!」
豪風。刃ではない、圧倒的な暴風が吹いた。叩きつけるような風の面が、ヒーローを空へと押し戻した。そして、その頭上から。
「――〈フリー・フォール〉ッ!!」
滝のように大量の、水。塊で落ちてくる。ヒーローはなすすべ無く飲み込まれ、はるか地上へと落下していった。
「はぁ、はぁ。」
心臓がバクバクと音を立てている。奇妙な高揚感、手がぶるぶると震えていた。まさか、これほどまで強いとは…!
「は、はは。フリーフォールって、我ながらなかなか良いネーミングセン」
ズ、ズ、ズ。
何の音か、分からなかった。地面が、ビルが、揺れていた。
ズ、ズ、ズ。
だが、すぐに分かった。ゆっくりと、ビルが傾いていく。
このビルが。僕が立っているビルが、“斬られた”のだ。
ゴォオオオオオオオオオオオオッ
音がする。はるか地上から近づいてくる。
ヒーローはまだ、負けていない。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
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