第41話 目撃者
拙者はニンジャ。亀山ニンジャ。
某お偉いさんから指名の依頼を受け、とある青年を監視している。
最初は、駆け出し探索者の青年を監視するなど、拙者にとっては造作も無いことだと思っていた。この程度の依頼で多額の報酬を得られるとは、なんと楽な依頼であろうか、と。
マジでラッキーだと思って、調子乗って回らない寿司に行ったくらいでござった。
しかし、この青年がとんでもないバケモノであった。事前に渡された資料に書かれていた。モンスターと会話をすると。うおw って感じで、最初は半信半疑であったが、監視を続けて確信した。というか、確信させられた。
いや、まさかオークの村でキャンプしたり、人食いワニの虫歯を治療したりするとは思わないでしょ普通に。何をしてんの? この青年は。
そんな調子で(勝手に)振り回されながら監視を続けていたとき、その事件は起こった。
青年が、探索者に襲われたのだ。
拙者の依頼は、監視。彼を助けることは依頼に含まれていない。勝手なことをして依頼を失敗するのは、初心者から中級者のやるミスでござる。故に、拙者はただひたすら、監視に徹した。
そして、それを見てしまった。
襲ってきた探索者の一人に、拙者は見覚えがあった。“骨掴み”のゲン。かつて攻略組として富士ダンジョンにも潜っていた男。素手でモンスターの肉を引き裂き、生きたまま骨を掴んで引きずり出しへし折る。その悪癖から、骨掴みと呼ばれた男。
しかし、モンスターを他の探索者になすりつける、盗みを働く、そして、同業者を襲って殺害、ダンジョンに死体を遺棄。装備品やポーションなどの貴重品を奪うという殺人事件を起こし、ギルドから追放された悪漢。
噂に寄れば1年ほど前まで刑務所に収監されていたらしいが、なぜか釈放。出所後は違法に素材を取り扱う闇の商人として暗躍していた、とか。そんな危険な男が、なぜこんなところに…?
青年と同じくらいの歳の女が、火魔法を放った。恐ろしいことだ、あの若さでためらいもせず、人に魔法を放つとは。
青年はあっという間に黒焦げになった。まさか目の前で殺人が行われるとは、思いもしなかった。それも、監視対象が殺されてしまった。彼は一体、何者だったのか。
そう、思ったときだった。
青年は、死んでなどいなかった。一瞬のうちに男達を殺害した。しなる触手のような腕、全身に浮かびあがるまがまがしい文様、風、火、そしてあれは、幻影魔法…? トリプルキャスターか。そして、異常な再生能力と身体能力。拙者の目でもやっと追えるかの攻撃と速度。
拙者は上級探索者として富士ダンジョンにも潜っている。人外、と呼ばれる二つ名持ちの探査者たちともパーティを組んだ。
だが、アレはなんだ? あのような探索者が、他にいただろうか。
かすかに彼らの会話が聞こえた。どうやら骨掴み共は、殺されて当然のことをしていたようだ。拙者はどちらかといえば、あの青年に同情していた。拙者にも、身に覚えがあったからだ。
ニンジャ、という名前。これは本名でござる。これまで、どれだけ馬鹿にされてきたことか。
目の前で骨掴みの四肢が切断された。女が殴り飛ばされた。ずるずると引きずられていくその先にいたのは、影のなれ果てたちであった。
「まさかッ!?」
思わず、声を漏らしてしまった。なんと、恐ろしいことを考えつくのか。なんと、残忍な復讐であろうか。
拙者は探索者となって初めて、人を恐ろしいと感じた。
悲鳴が耳にこびりつく。青年はただ、安らかな表情で悲鳴を聞いていた。ただ、安らかな表情で、その恐ろしい光景を眺めていた。
悲鳴が聞こえなくなって。当たりには静寂と、虫たちの鳴き声が響くだけになったとき。
青年と、目が合った。
ありえない、拙者の隠密機動スキルは探知魔法をも欺くスキル。故に、拙者の居所が分かるはずが―。
『そこで、何をしているんですか?』
背後から、声をかけられた。
○
「命だけは!!! 命だけは何卒ッ! 何卒ォッ!!」
「え、えぇ…。」
はい、目の前で忍者が土下座しています。超音波で索敵したら、この忍者さんを発見してしまった。全身黒い忍者装束で、顔は見えない。マジでまんま忍者。一体いつから見られていたのか。
「拙者、偶然通りがかった、ただの忍者でござるッ! 貴殿らの戦闘を目撃してしまい、どちらに助太刀すれば良いかも判断が出来ず、ただ身を隠していたところでござるッ!」
ご、ござる…。徹底してるな…。それに、ただの忍者とは…?
「えーっと、僕が戦うところ、どの辺から見てました?」
「なんか、黒焦げ状態から復活したところあたりでござる。」
めちゃ序盤じゃん…。えー、けっこうがっつり見られちゃってるじゃん。…消す?
「あ、ちょっ! 今拙者を消すかどうか悩んだでござろう!? 拙者そういうの敏感であるからしてッ!」
うーん、殺したくはないんだよなぁ。悪い人じゃなさそうだし。でもなぁ。
「拙者、別に殺人とかそんな気にしないタイプでござる。なんなら拙者も、何人か殺っちゃってるでござる。」
「それはそれで全然安心できないんですけど…。」
「うぇぇえ~~~後生、後生であるからして~~~~!」
なんなのこの人…。それに多分、この人とんでもなく強い。こんなふざけた雰囲気だけど、ゲンなんかよりも数段以上は強そうだ。疲れてるし、戦闘は避けたいところ。でもなぁ。
「うーん、じゃあ誰にも言わないと誓ってくれますか?」
「あーもう誓う誓う、めっちゃ誓うでござる!」
「じゃあ誓った上で~、」
「誓った上で!?」
「何か有益な情報とかください。忍者なんだから、情報とかいっぱい持ってますよね?」
「なんでござるか、その雑な忍者の解釈は…!」
お? やっぱり消しておくか?
「あーほら! すぐ消そうとする! そういうのマジで良くないと思うでござる。」
なんで分かるんだよ…。
「うーん情報、情報…。あ、そうだ。」
覆面越しでも、忍者がニヤリと笑ったのが分かった。
「五階層のボス。シャドウ・ファイターの正体について、なんてどうでござるか?」
○
「以上が、調査結果でござる。」
ニンジャから報告を受けた岩崎は、顔を手で覆っていた。頭が追いついていなかった。
ダンジョンでの一部始終。元攻略組の探索者と、同級生による襲撃。その撃退と殺人。複数のスキルと魔法、正体不明の攻撃能力。学生時代の、凄惨なイジメ。
「…骨掴みと霧崎リオ一派の襲撃については、正当防衛の範囲内だ。なんとかなるだろう。プログレスへの恐喝もしっかりと記録されている。だがしかし、これは…。」
「個人的には、やつらは殺されて当然でござるな。プログレスの面々も、家族を殺す、と脅されて仕方なくモンゴロー殿の居場所をしゃべったそうでござるから。調査を進めるだけで、気分が悪くなったでござる。」
ニンジャは顔をしかめた。うっすらと全身から魔力が立ち上っている。それほどの、怒り。彼もまた、モンゴローにかつての自分を重ねているのかもしれない。
「数ヶ月前に遺体で発見された、三人の同級生についてはどう見る?」
「証拠はないでござるが、十中八九モンゴロー殿の仕業でござろうな。いや~、探索者デビューして一ヶ月もせず、よく殺したものでござる。まぁ、拙者でもそうしたかもしれぬが。それほどやつらは最低でござった。高校生とは思えないでござる。」
(やはり、か。クソッ、この事実が“あの議員”に知れたら、ゴロウ君が大変なことになってしまう。)
報告書を読む限り、ゴロウが受けていたイジメは凄惨極まりないものだった。しかし、人類を守るために命を散らした恩人たちの息子が、殺人を犯していた。その事実が、岩崎の心を強く締め付ける。
『どうしてもっと早く助けてくれなかったんだ!』
『あなたたちが来るのが遅かったから、私の家族は死んだんじゃない!』
『何が“英雄”だよ! 死ぬなら勝手に死にやがれ!』
ギリッ。苦い記憶が、蘇る。
「…調査、ご苦労だった。先ほど報酬は振り込んだ。危険手当として、多少色をつけてある。」
「うっひょー! あざすでござる。では、拙者はこれにて。ドロン。」
煙と共に、忍者は眼前から消え去った。執務室に取り残された岩崎は、深いため息をついた。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
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