第40話 『イノチ』
「はぁっ、はぁっ…やった、ざまーみろ、ざまぁみろ、クソゴローッ! きゃははははははははは!!!」
私の前で、あのクソゴローが黒焦げになっていく。ざまーみろ、ざまーみろ! これが報いだ! これが天罰だ! あたしから大切なものを奪ったから! 恩を仇で返したから! 死ね! 死ね! 地獄に落ちろ!
「おいおい、あっけなかったなぁ。やっぱりリオちゃんだけでなんとかなったじゃねえかぁ!」
「リオさん、マジぱねぇっすわ!」
「それな! マジえぐいてぇ!」
「クソオタクの丸焼き、マジで超ウケr」
バツンッ!
目の前で、男が真っ二つになった。にやけた顔のまま宙を舞った上半身は、どさっと音を立てて、草むらの中に消えた。
ゴウッ!
ほぼ同時に、もう一人の男が一瞬で消し炭になった。炎が吹き上がった瞬間、黒焦げの彫像が直立していた。
「ッ!? お前らァッ、戦闘態勢ッ!!」
初めて見る、ゲン君の慌てたような表情。
『あと、四匹。』
その声は確かに、黒焦げになったクソゴローから聞こえた。
○
一匹目は、風魔法で“処理”した。
二匹目は、火魔法で“処理”した。
あとの四匹は、どうやって処理しようかなぁ。
そんなことを考えながら、僕は全身の炎を水魔法で消火した。焦げ付いた皮膚が、メリメリと音を立てて再生していく。
一歩歩くごとに、焦げ付いた皮膚がぼろぼろと剥がれ落ち、その下からはつるつるの新しい皮膚が表れていく。そしてその肌には、黒い文様が浮かび上がっている。
凶蝗化。
眼球が再生し終わったとき目に入ったのは。
化け物を見る目でこちらを凝視する、「ニンゲンたち」だった。
『まずは、まわりのゴミから処理するか。』
最初に反応したのは、金髪の男だった。とっさに両腕で自らをガードした。メリケンサックのようなものを装備しているようだが、両腕全体が黒く輝くように変質している。硬質化、あたりのスキルかな。まぁ、お前と霧崎は後だ。
両端の軽薄そうな男達は、今になってようやく動き出したみたいだが、もう遅い。
不定形、刃化、初速全開。
一歩目から最高速度で踏み出し、触手状になった腕を振るった。鞭のようにしなった腕は、抵抗なく両端の男を唐竹割りに両断した。断末魔さえ、あげさせない。
『胴体、がら空きですよ~?』
「ッ!? 速ッ」
金髪の男の胴体を、〈さわる〉。彷徨う影の精神攻撃だ。ゲン、と呼ばれていた金髪の男は一瞬びくりと体を跳ねさせたが、すぐに正気へ戻った。
「舐めんなぁッ、バケモンがァッ!」
『うーん、やっぱり効かないか。』
「俺様は、“骨掴み”のゲン。元攻略組の俺が、お前みたいなガキに負けるわけねぇだろうがッ!」
ゲンとかいう男が、鋭い踏み込みで突進してくる。両腕は黒く輝き、さらに魔力が纏われている。なるほど、魔力でコーティングしていたから、なれ果てを素手で触っても大丈夫だったのか。
「お前の肉を引き裂いて、臓物をまき散らし、あばらを粉砕してやるよぉッ! <骨掴み>ィッ!」
両腕を突き出し、さらに加速。速い。今まで見たニンゲンの中で、一番の速度だ。
でも。
すでに、そこに僕はいない。
ゲンの腕が、僕の体をすり抜けた。
「…あ?」
『それ、幻影だから。』
幻影魔法。
ゲンの背後、僕は思いっきり腕を振り抜いた。
不定形、刃化、怪力。
ベチィッ!
ゲンの両足を、切断した。
「がぁああああああああああっっっ!」
血が噴き出し、僕の体が返り血で染まった。
吸血。
魔力を回復していく。
ゲンは恐怖に顔をゆがめながら、情けなく腕をぶんぶんと振り回していた。うーん、邪魔だな。腕も切断するか。
ブンッ、ベシャッ。
はい、だるまの完成~。
「ぃいいいいあああああああああああっっっ!!!」
うるさいなぁ。あ、そうだ。今なら精神攻撃も効きそうだし、雑に悪夢でも見せておきますか。はい、1D100を振ってくださ~い、SAN値チェックの時間ですよ~!
「あひっ!」
白目を剥いて気絶しちゃった。ちょうどいいね。
さて。
「ひ、ひっ、来るな、死ね、しねぇええええええっっ!」
火の玉、復讐の炎(笑)が次々に飛んでくる。しかし、こんなもの僕には通用しない。すべて素手ではたき落としていく。一歩一歩、霧崎へと近づいていく。霧崎は尻餅をついて、涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしている。
ついに、火の玉すら飛ばせなくなった霧崎。ゆっくりとしゃがみ込んで、目線を合わせた。
『うわっ、汚いなぁ。失禁してるじゃん。臭えよ、お前。』
「だ、黙れぇええええっ!」
霧崎は手に持った杖で、僕の顔面をおもいっきり殴りつけた。探索者として強化された筋力。僕の鼻から、鼻血が噴き出した。
『痛いなぁ。でも、あの日と、一緒だね?』
鼻血を流す僕を嘲笑し、生物部の生き物たちを皆殺しにされた、あの日。
僕は笑顔で、したたる鼻血をぺろりと舐めた。再生を終え、鼻血も吸血で皮膚から吸収する。
『お前は、カツヤと同じ場所には行かせない。お前は“ここ”で、一生苦しんで貰うことにした。』
「う、うるさぁいッ! しねぇえええっ!」
『二度も黙って殴られると思うなよ?』
僕は霧崎の腹に、拳をめり込ませた。
「ぐげぼぉあッ!?」
霧崎はゲロをまき散らしながら、10mほど吹き飛んだ。
荒い息で腹を押さえてのたうち回る霧崎の髪を掴んだ。ずるずると引きずりながら、だるまになったゲンを肩に担ぐ。
向かう先には、複数匹の影のなれ果てがいた。
『おーい、みんな! “イノチ”だよ!』
『『『ア、アァァアアア、イノチィ…!』』』
影のなれ果てたちが、ずりずりと、近づいてくる。
「ひっ、い、嫌、嫌…。」
『君とこのお友達には、彼らの仲間になってもらうことにしたんだ。ほら、彼らは命が欲しいみたいだし。君たちの命をあげることにしたんだ。カツヤたちは地獄にいるんだろうけど、君たちは天国にも、地獄にも行けない。君たちの居場所は、“ここ”なんだ!』
僕は二人を掴みあげた。
「い、いや、謝る、謝るからっ! なんでもするからぁああっ!」
『あははっ! 君、やっぱりカツヤの恋人らしいや!』
僕はにっこりと、微笑んだ。
『だって、あいつの最期と、同じようなこと言うんだもん!』
「…え?」
僕は霧崎とゲンを、なれ果ての群れへと放り投げた。
『ばいばーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!』
「嫌ァアアアーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
しばらくの間、二人の絶叫は響き続けた。僕は黙って、それを聞き続けた。周囲からは大量のなれ果てたちが集まってきている。黒い塊の中、助けを求めるように伸ばされた霧崎の細い腕は、やがて見えなくなって。
くぐもった叫び声も、すぐに聞こえなくなった。
あたりには、ただ、様々な生き物たちの鳴き声が、響いていた。
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スキル:影のなれ果て
①吸魂
触れた対象の魂、その上澄みを吸収する。吸収した魂は己の寿命へと変換される。このスキルを使用している間、術者は多幸感を得る一方、吸われる対象は耐えがたい精神的苦痛を継続的に味わうこととなる。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
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