第4話 噛みつきイナゴ
「事前情報通り、洞窟だ。」
立川ダンジョン第一層は洞窟型になっている。周囲は薄暗いが、所々に青白く光る“ヒカリゴケ”が生えている。
「早速出番だよ、ドローン君。」
アイテムボックスから取り出されたるは、小型のドローンであった。
スイッチを入れると、事前にスマホから登録し、同期していた情報のとおり、所有者を認識して飛翔する。
「高かったんだから、すぐに壊れたりしないでね…?」
お値段、なんと50万円。それもそのはず、このドローン君には高性能なカメラと、最新式の魔石稼働機能、暗所で探索者をサポートするライトが搭載。さらに、自律思考可能なAIまで盛り込まれている。おまけに、ダンジョン素材で作られているため、非常に頑丈なのだ。ギルド公認機体の中で、最も安価だったものを購入した。
「しんどかったなぁ、バイト漬けの日々…。今日は配信しないけど、ライトとして活躍してね。」
メインの仕様は配信撮影だが、今回は下見も兼ねているため、手軽な光源として使用する。
ぺちゃぺちゃ!
「あっ! スライム君! 久しぶりだねぇ。」
久しぶりのスライム君。立川ダンジョン第一層は、スライム君しか出現しない。故に、超初心者でもなければ駆け足でスルーしてしまう。
「配信の時はしっかり触れてあげるから、今日は先に行くね。」
『ゴハン、ゴハン』
スライム君は相変わらず、ご飯のことしか考えていないようだ。
○
「すごい、本当に草原と青空だ…!」
洞窟の奥に存在するゲートをくぐると、第二層に到着した。
抜けるような青空、風が吹き抜けると、腰ほどの背丈の草がざわざわと揺れる。
とても、ダンジョンの中とは思えない光景だった。
「土と草の匂いがする。やっぱり、自然っていいな。」
胸いっぱいにダンジョンの空気を吸い込んだ。ふつふつと、“ダンジョンにいる”という実感が湧いてきた。
「う、うおおおおおおおおっ!」
僕はたまらず、草原に向けて駆けだした。
ギチギチギチギチッ!
「うわっ!」
走り出して五秒もしないうちに、足下から何かが飛び出した。
テンションが上がりすぎて、足下をよく見ていなかった…。
「あれ、君もしかして、噛みつきイナゴ君?」
黄緑色で、体の中心に黒い縦線が三本入った、30cmほどのバッタ。牙と呼べるほどに発達した顎が、もちゃもちゃと動いて草を食べている。
「この子はまだ、繁殖期の色じゃないんだ。」
この噛みつきイナゴは、注意喚起のあった“黒い噛みつきイナゴ”ではなかった。
『メシ、メシ』
「君もごはんかぁ。」
スライム君より粗暴な印象を受けるが、この子もどうやらエサが欲しいらしい。
「これとかどうかな?」
僕はアイテムボックスから、ブロッコリーを丸々一個取り出した。
モンスターたちにあげることもあろうかと、事前にこのダンジョンに生息しているモンスターを調べ、好きそうな物を持ってきていたのだ!
ブロッコリーをゆっくり近づけると、噛みつきイナゴは僕の持つブロッコリーに飛び乗って、むしゃむしゃと囓り始めた。
「うわぁ、すごい。ナイフみたいな顎だ。あ、よく見ると口の中にもう一個、小さな顎がある!」
これ幸いと至近距離で観察していると。
キチキチキチキチッ!
『アツマレ! アツマレ!』
「え、集まれ?」
噛みつきイナゴが先ほどとは違った鳴き声を上げ、不吉なことを言い始めた。
ピョンピョン、ギチギチと、周辺の草むらから噛みつきイナゴたちが集まってきた。
「キャベツとかも食べるかな?」
他の野菜も何種類か出して並べていくと、どれもむしゃむしゃと食べている。じゃがいもなんかも食べており、雑食傾向が強いのかなぁ、なんて思っていると。
「ん? なんだ、あれ。」
遠くから、黒いモヤのようなものが近づいてくる。それに、なんだか変な雑音みたいなのが聞こえる。
『『『ギチギチギチギチギチギチギチギチッッ!!!』』』
黒いのはすべて、噛みつきイナゴだった!
「う、うわぁああああああああああああああ!!!」
このままだとまずいと思った僕は、とりあえず転移ゲートの近くから離れるために走り始めた。久しぶりの全力疾走で、体が悲鳴をあげるが、なんとか数km離れたところまで来ることが出来た。
「こ、こっちだよーーー!」
不思議と、襲われる気がしなかった。
僕が大声で呼ぶと、黒いモヤはこちらに猛スピードで向かってきた。
そして、僕はあっという間に、黒い波に飲み込まれてしまった。
『『『メシ! メシ! メシ! メシ!』』』
「ちょ、待って! 今出すからっ! もががっ!」
口の中にまで突っ込んでくる有様。僕はどうにかこうにか、アイテムボックスの中の、ありとあらゆる食べ物を出していった。
驚いたことに、黒くなった噛みつきイナゴは、牛肉や豚肉までも捕食していた。むしろ、肉に多く群がる傾向が強かったのだ。
「繁殖期になると、肉食傾向が強くなるんだ…。だから、人間を襲うんだ。ギルドが注意喚起をする訳だなぁ。」
大量の噛みつきイナゴが飛び交う中、僕はのんきにそんなことを考えていた。
『スキル獲得:噛みつきイナゴ』
どうやら無事に、スキルを獲得できたみたいだ。さ~て、目下の課題は…。
「これ、どうやって帰ろう…。」
全身噛みつきイナゴまみれの、バッタ人間が爆誕していた…。
――――――
スキル:噛みつきイナゴ
①咬合力強化
②脚力強化
③凶蝗化
:全身に黒い模様が浮かび上がり、凶暴になる。攻撃力が増加する。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




