第38話 狂気のコラボ配信
「…みんな、俺から、そしてモンゴローさんから、絶対離れるなよ。」
「ッ…。」
「ヒッ…。」
「…。」
俺たちプログレスは、危機に瀕していた。周囲を大量のオークたちに囲まれているからだ。
俺の首筋に、汗が一筋流れた。
普段表情が変わらないタケシが、見たことが無いほど真剣な表情で周囲を観察している。ミカは、手がブルブルと震えており、顔面蒼白だ。イツキはニヤニヤとしているが、口元がヒクついている。笑うしか無い、と言った様子だ。
「そろそろ帰ってくる頃だと思うんですけどね~。」
『フゴフゴ。』
「あ、やっぱりそうですよね? 皆さん、あと5分もしないうちに、カピバラさんたちが帰ってくるそうです!」
いや、おかしいだろ! しれっとオークと会話してなかった!?
この場においてただ一人、モンゴローさんだけがいつも通りだった。見えないのか? 周囲のオーク達の表情が。明らかに俺たちを警戒している。
それもそのはず、俺たちは敵同士。本来、こんなことあってはならないのだ。いや、モンゴローさんだけは、敵として見られていない…?
そもそも、カピバラさんの巣に案内されるはずが、どうしてオークの村に? オークというモンスターは非常に厄介だ。分厚い毛皮、高い知能、怪力。数匹相手なら俺たちでもなんとかなる。しかしこの場には、数十匹以上のオークがいる。この数に襲われたら、俺たちではどうしようも無い。
:やばいって
:逃げた方が良いよ!
:やっぱり頭おかしいじゃんそこのもじゃ毛頭!
:モンゴローね
:みんな落ち着いてくれ、モンゴローがいれば大丈夫や
:モンゴローはモンスターと会話できる、だからあいつに任せておけば大丈夫や
:根拠は!?
:根拠なんかねえよ、うるせえよ
:草
:草生やしてる場合じゃないが
俺たちの配信枠に来ているモンゴローさんの視聴者曰く、彼に任せておけば大丈夫とのことだが。どこまで信用できる?
コメントの温度感からして、モンゴローさんの配信だとこれがあるあるなのか? いや、え? これがあるあるって、どういうこと?
実際、現時点でオークたちが襲ってくる様子は無い。俺たちのことは警戒しているが、モンゴローさんを警戒している様子は無い。今も、オークの子供達と遊んでいる。オークの子供達と遊んでいる…?
「なぁリーダー、モンゴローさんがオークの子供と遊んでんで。」
「…俺は何も見ていない。」
「ね、ねぇユウキ、どうしてこんなことに…。」
「モンゴローさんを、信じるしか無い。」
「うわーっ! やったなっ!? これでも食らえっ!」
視界の端で、モンゴローさんがオークの子供達に向けて、指先から水を発射した。モンゴローさん、水魔法使えるんだ…。
『『『フピフピフピッ!』』』
「あっ! みなさん、カピバラさんたちが帰ってきましたよ!」
モンゴローさんが指さす方向を見つめると、水面から一列に並んだカピバラさんたちが上がってくるところだった。本当にカピバラだ…。
「ミカ、お目当てのカピバラさんがやってきたよ…。ミカ…?」
「待ってやばい、かわいすぎる!!」
そう言うとミカは、カピバラさんに向かって走って行った。モンゴローさんもまた、笑顔で走って行く。
「お、おい、ユウキ、何ぼーっとしてる! 早く追うぞッ!」
「リーダー、モンゴローさんから離れたら死ぬでッ!」
しまったッ! そうだったッ!
俺は慌てて、彼らの後を追った。追いついた後は、ミカのついでにカピバラさんを撫でさせて貰った。鼻がヒクヒクと動くたびにふぴふぴと鳴っており、正直可愛かった。
○
「無事、帰って来れたな…。」
俺たちはぐったりとした様子で、ギルドに帰還していた。モンゴローさんとはダンジョン内で別れた。何やら、夜にやることがあるとのことで、このままダンジョンに一泊するらしい…。
連絡先も交換した。モンスターについて何か分からないことがあれば、いつでも聞いて欲しいとのことだ。頼りになるのか、ならないのか…。
「それにしても、モンゴローさんって何者なんだろうな。」
「あたしから見ても、モンゴローさんは優秀な斥候やと思うで。足音は常にしてなかったし、広範囲の索敵、常に景色全体を視界に捉えて、わずかな草木の揺れも見逃さない。正直、あたしより斥候として優秀なんちゃうかなぁ。」
「魔法使いとしても優秀だと思うよ。水魔法だけじゃなくて、多分風魔法も使える。案内で先行してたとき、さりげなく風魔法で草木を排除してた。それも、無詠唱で。あんなに自然な魔法行使、初めて見た。」
「ソロでずっと潜ってるらしいから、一人でなんでも出来るのかもしれないな。」
本当に、一体、何者なんだ。モンゴローさんって…。
「よし、少し休憩したら、モンゴローさんのアーカイブ、見てみようか。」
ダンジョンでタケシが提案したとおり、見てみた方がいいだろう。歳も近い、ソロの探索者。ダブルキャスターで斥候としても優秀。同世代の探索者として、非常に気になる。
「あの~、すみませぇ~ん。」
「はい?」
一人の、女性。いや、違う。複数だ。すでに四方を囲まれている…っ!? 嫌な気配だ。粘つくような視線と魔力、それに、血の臭い。ギルド内と言えど、油断はできない。
「今、モンゴローって聞こえたんですけどぉ。ご友人ですかぁ?」
「…いえ、ただの視聴者ですよ。」
「おいガキ、お前今、ウソをついたな?」
圧倒的なオーラを放つ、金髪の男が現れた。まずい、俺たちでは束になっても勝てそうにない…!
それに、なんだ? 探知系スキル所持者か…? 周囲を確認しても、ギルドの職員や他の探索者達も、彼らを気にもとめていない。隠蔽スキル持ちもいるのか…!
「…俺たちに、何のようだ。」
「こわぁ~い! ちょっと“お話”、したいだけでぇ~す。」
女が、粘ついた笑みを浮かべた。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




